S東京特派員の久しぶりの映画祭巡礼記。
苦言で始まりながらも収穫は大きかったようです。
しかし毎年コンペティションの結果などどこ吹く風で自身の嗅覚を頼りにまだ観ぬ映画にたどり着く特派員に敬意を。
次回はフィルメックスをお願いします!
読んでて久しぶりの金城武のコメディが上映されたそうで、金城武がその昔、カネシロタケシだった頃にチュー・イェンピン監督と組んだ数々のバカ映画が脳裏を過りました。
担当者が今年気になってたのが『メイドインホンコン』のデジタルリマスターでの上映。
そうか、完成してからもう20年経ったのかと。
http://2017.tiff-jp.net/ja/東京国際映画祭2017に行ってきました。
今年は去年ほどではないもののチケット入手に苦労しました。部門ごとの販売になったことで週末の2日間PCやスマホに張り付き、予約画面にたどり着けずやっと繋がったときにはすでに売り切れという映画もありました。
映画祭の前にかなり落ち込んだ気分のまま映画祭を迎えたと言えます。
来年は改善してもらいたいものです。
『ポップ・アイ』カーステン・タン監督(左)と主演のタネート・ワラークンヌクロさん。.
『ポップ・アイ』シンガポール・タイ カーステン・タン監督
などと文句はいっていても実際こういう映画が見れたりするとうれしくなっちゃいます。
シンガポール出身の新人監督による長編第1作。
中年男性が子供時代に出会った象と偶然再会。
虐待されていた彼(この象の名前がポップアイ)を故郷に送り届ける旅がこの映画。
主人公が50代のしょぼくれた男性なのでてっきり男性監督かと思っていたらまだ30代の女性なのにびっくり。
人生のほろ苦さとともに希望を抱かせる大人な作品。
これからの活躍に期待したい監督さんでした。
『アケラットーロヒンギャの祈り』エドモンド・ヨウ監督(左)と主演のダフネ・ローさん
『アケラットーロヒンギャの祈り』マレーシア エドモンド・ヨウ監督
監督の前作「破裂するドリアンの河の記憶」がよかったし、とくに今回がワールドプレミアということもありとても楽しみだった作品。副題にもあるのでロヒンギャ問題をどう描いているのかも興味あったのですが映画はあくまでもマレーシア目線。
マレーシアを脱出したいと願うヒロインとマレーシアに流れついたロヒンギャの難民の運命が交差し、映画は現実とフィクションが交じり合って進んでいく。そのテーマの横滑りが面白いと思いました。
『ヤスミンさん』マレーシア エドモンド・ヨウ監督
ヨウ監督今回は2連続上映。『アジア三面鏡2016:リフレクションズ』の行定勲「鳩 Pigeon」のメイキングのはずがヒロインを演じるヤスミン・アフマド監督の常連俳優シャリフ・アマニ(役名もヤスミン監督にちなみ“ヤスミン”)だったことから通常のメイキングから徐々に逸脱して映画はヤスミン監督の伝記映画の様相に。エドモンド・ヨウ監督、この横滑りがもうたまりません。次回作も必ず見ます。
『怪怪怪怪物!』出演のユージェニー・リウさんとギデンズ・コー監督。
『怪怪怪怪物!』台湾 ギデンズ・コー監督
台湾のマルチアーティスト、ギデンズ・コーの初監督作品でノスタルジックな青春映画の傑作『あの頃、君を追いかけた』に続く第2作。これが前作を見た者の期待を裏切る壮絶ないじめ学園ホラー。
あの楽しい学園映画の監督がなぜ…しかし悪趣味なんだけど真摯にまじめにいじめに対する怒りをこめていて文句のつけようがないというというある意味、意地悪な作品。
この映画に出てくる怪物がCGで作られたモンスターではなく人間が変化したもので怪物というより怪人なのも「怪物はどっちだ?」という問いになっています。
厭な気分にさせること請け合いですが傑作。
『フォーリー・アーティスト』左からフー・ディンイーさん、ワン・ワンロー監督、プレゼンターのリ・シュンリョウさん
『フォーリー・アーティスト』台湾 ワン・ワンロー監督
ドキュメンタリー。台湾の音響アーティストを追った映画の裏方から見た台湾映画史。
70年代の台湾映画はオールアフレコでしかも俳優のセリフも声優が吹替えで本人の声は使われたなかったこと、音楽も著作権無視で他の映画のものを使用したり(007はかっこよくてよく使ったなど)といった興味深い逸話がぞくぞく。
80年代台湾ニューウェーブの頃からリアルさと機材の発達で同時録音になっていき、いまはスタジオで音を作るフォーリー・アーティストは廃れているようです。
時代なのかもしれませんが少し寂しい感じです。
監督が「東京のシネコンはすばらしい。台湾の映画館では聞こえなかった音がここで聞こえた」といっていたのが印象に残りました。
『現れた男』Q&Aの様子。
『現れた男』タイ プラープダー・ユン監督
舞台はほぼアパートの1室。登場人物は2人。
まるで演劇のような空間ですがカメラはふたりの心理芝居をアップでぐいぐい描いていて演劇とは似て非なる映画ならではの映画。会話が中心で変化がとぼしくやや単調に思えたのがとちゅうである展開があってから俄然面白くなり、ラストはあっけに取られました。こういうとぼけた終わり方、好きです。
監督は小説家で邦訳もあるとのこと。
小説のほうも読んでみたくなりました。
『迫り来る嵐』ドン・ユエ監督(左)主演のドアン・イーホン(中央)。
『迫り来る嵐』中国 ドン・ユエ監督
ワールドプレミアということで中国の観客もおおぜい。
90年代の地方都市。市場経済導入でゆれる国営企業の工場警備主任が連続殺人事件の犯人探しにのめりこんでいく。
常に雨が降る陰鬱な画面。
雨はすべて映画の効果だそうで撮影の素晴らしさも特筆ものの犯罪映画。
わずか20数年前の風景がCGで再現されるあたりに中国の発展のスピードを感じさせられました。
『私のヒーローたち』マレーシア エリック・オン監督
マレーシアで実際に取り組まれているという英語コンクールに挑む生徒たちを描いた教育を題材にした明朗学園ドラマ。
シネコンでもかかりそうなこの映画を見てマレーシア映画の発展というものを感じました。
そんなにマレーシア映画見てないのであくまで想像ですが。
いろんな映画を見てみたいのでこれからも作家性のある作品ではないマレーシア映画も上映されてほしいですね。
『Have a Nice Day』中国 リウ・ジエン監督
アニメーション。中国の地方都市。やくざの金を若者が強奪したことから始まる群像劇。
リアルなストーリーでキャラクターや背景もリアル。
でも実写ではできない独特な“絵”の魅力がある作品。
TOHOシネマズ六本木ヒルズの最大スクリーンで見てその映像の魅力が堪能できたのは今年の収穫でした。
『ソウル・イン』Q&Aの様子。
『ソウル・イン』中国 チョン・イー監督
中国にもラノベがあるのかも。と思ってしまった生と死をめぐるロマンチックな映画。
物語が進むにつれ主人公のまわりにだれもいなくなるんですがそのとき初めて一人前になっている、というのが人生の皮肉さが出ていていいと思いました。
また登場人物がみな死者の魂が成仏できるか気にしていて、死者に対する思いは強く感じました。
舞台になった町並みがよかったです。
『こんなはずじゃなかった!』香港・中国 デレク・チョイ監督
ジョン・ウーの『太平輪』が公開されてないのでひさしぶりの金城武と『サンザシの樹の下で』しかしらなかったので今作でのコメディエンヌぶりにびっくり(ほめてます)のチョン・ドンユィ共演のラブコメ。
主演ふたりが来てたら映画祭盛り上がってたと思います。そういう盛り上げも映画祭らしくていいですよね。
シリアスもいいけど金城武はやっぱりコメディがいいですね。
以上で私の見た映画は終わりです。
チケットが変えなかったり、時間が重なって見れない作品があったりで心残りはありましたが映画祭でなければ見れないであろう作品もあり、ゲストとのQ&Aもたのしい時間でした。
また来年を楽しみにしたいと思います。