『シン・ちむどんどん』でダースレイダーさんと監督・出演を兼任しているプチ鹿島さんが昨年発刊したのが、
「ヤラセと情熱 水曜スペシャル『川口浩探検隊』の真実」
完成まで8年を要した労作。
「ワールドプロレスリング」と「水曜スペシャル 川口浩探検隊シリーズ」を欠かさずに夢中になって見てた鹿島少年が、
いつしか猪木の試合結果は新聞のスポーツ面に載らないことと、
探検隊が捕獲した原始猿人バーコンが放映の翌日の新聞社会面に報じないことに疑問を持つうちに気付く。
“大人”にはあまり本気で相手にされないこと、
そればかりかあれだけ夢中になって話していた同級生たちも次第に冷笑を浮かべてしまうことに。
やがて大人になってヤラセの一言で世間でバカにされてしまう
“川口浩探検隊”をずっとひきづっていたプチ鹿島さんが、
今の時代からテレビ、エンタメ、ドキュメント、そして“ヤラセ”とは何かを伝説となった川口浩探検隊を俎上に上げて問う1冊。
川口浩隊長はすでに鬼籍に入ってたものの、
かつての探検隊を探して連続インタビューを開始、
探検隊の隊員達とは番組のADや構成作家が担当し、探検の裏側を暴露、
といっても探検隊が歩く道は本当に毒蛇が道を塞いだりするので、
捕まえて排除するなど、本当の冒険でもあったこと、
いわばジャングルに行ってたんだからマジメに危険と隣合わせだったことなど、
いつしかヤラセとガチンコの境界線があやふやとなっていくことに倒錯的な思いを抱かせ
あくまでドキュメントでなくエンタメとしてかつてのある隊員は青春の思い出として、
ある隊員は後悔を抱きながら語ることもリアリティが。
そして彼らが「川口浩探検隊」を卒業した後に手掛けた番組が
「世界ふしぎ発見!」「なるほど・ザ・ワールド」「徳川埋蔵金伝説」「痛快!ビッグダディ」という、
テレビ史に残る番組なことは、「川口浩探検隊」の財産ではなかったかと。
ついでに80年代を象徴する大事件、「ロス疑惑」でたまたまロス版の「警視庁24時」のような番組を作ってた、
探検隊のスタッフは日本のマスコミで最初に“疑惑の人”になる前の三浦和義氏をインタビュー。
事件の現場の様子と三浦氏の振る舞いから「どうもあいつは怪しい」と直感を抱くのは、
世間を欺くようなことをしている探検隊だけに同じ匂いを感じてたようで特筆に思いました。
以上はポジとすればネガの部分で「川口浩探検隊」が打ち切りとなった要因の
「アフタヌーンショー」のいわゆるヤラセ事件として
「激写!中学生番長!!セックスリンチ全告白」で逮捕されてしまったディレクターについて、
その著作を中心に事件の背景をも取材。
これが時の総理の朝日新聞嫌いや日航機事故の余波など様々な要因が複合的に重なってたものと分析、
素顔のディレクターはまじめに不良少年・少女の更生を願うような全うなディレクターだったこと、
今も健在のご本人やその家族や関係者にもあたるものの、
すでに40年も経った事件なのに拒絶されてしまうことに尋常でない重みを読み取れたことなど、
そして取材を進めるうちに「旧石器発掘捏造事件」に繋がってしまう驚愕の展開には驚かされました。
そもそも「川口浩探検隊」とはいかにも昭和の豪傑なプロデューサーが映画館で『インディ・ジョーンズ』を観て歓喜、
「これをやる!」というのが発端、それがリアルな小学生にとって夢幻のロマンを、
インディ・ジョーンズと同じく感じさせてしまったことは決して罪ではないんじゃないかと。
この本を読んでプチ鹿島さんと担当者は同じ年だったと知り、
こちらも「ワールドプロレスリング中継」+「全日本プロレス中継」、そして「川口浩探検隊」を
手に汗握って見ていたのと同じものをプチさんは同時代に見ていたと知り、
ちょっと感慨深いものがありました。
ついでに担当者が高校で山岳部を選んだのは真面目に「恐怖!双頭の巨大怪蛇ゴーグ!」を
見て感激してしまったことも一因ではないかと読んでて思い出しました。
しかしゴーグは隊員が苦労しながら二匹を縫ってたとは。
他にこの本で印象深かったのは「アフタヌーンショー」の打ち切りで探検隊が何を言われるかわからないので
ビビッてしまったテレビ朝日が本編では使われなかったものの、
当時の貴重な未開のジャングルなどを撮影していたテープを破棄してしまったことは、あーっ、モッタイナイと。
そして「原始猿人バーゴンは少数民族の群れから外れた人」という見方かは、
探検隊に捕獲されヘリコプターに乗せられてしまったバーゴンなりの哀愁をしみじみ味わうことができました。
最後の章は伝説の豪傑プロデューサーと二人三脚だった昭和の構成作家の独白激白。
「俺がテレビだ」とデタラメなことをトウトウと述べながら
「視聴者を信じる」のコメントは容赦なく今を照射しており、ここは業界人のみならず必読ではないかと。
3/24 『シン・ちむどんどん』長岡上映会
http://nagaokatsukurukai.blog.fc2.com/blog-entry-4024.htmlたったひとつの質問が、取材対象を丸裸にすることがある。 沖縄県知事選でプチ鹿島が放った質問は、どのメディアも決してしないものだ。 しかし、その質問はどのメディアのそれより、候補者の人となりを映し出した。
澤田大樹 (TBSラジオ記者)