現在、最も影響力のある映画評論家として真っ先に名前が挙がるのが町山智浩先生ではないかと思います。
担当者は町山先生が宝島の編集者だった頃に編集した「このビデオを見ろ!」4部作をボロボロになるまで読みふけって、
映画のいろはを教わったように思います。
「ビデオ屋の片隅でホコリを被ってる名作を救い出せ」
確かそんなような前書きで始まり、映画の玄人たちが競い合うように1本の映画の魅力について情熱たっぷりに書いて、
それを参考にして借りてた時期もありました。
あの後に似たようなムック本が数々出ましたが、「このビデオを見ろ!」にまで到達してないように思っています。
あれを基準にするとハードルが俄然高くなるハズ。
その後、町山先生はキネ旬編集部相手にやらかしてしまいアメリカに留学。
そのままアメリカを活動の拠点として現地の最新映画情報などをネット、雑誌、ラジオ、テレビなどで発信して、博識の中にユーモアを交え今もとても参考になったりしています。
その町山先生がようやく『共犯者たち』についてレギュラー出演してるTBSラジオの「たまむすび」で昨日、アメリカから語った書き起こしがアップされていたのでご紹介というかコピペします。
長いので前段の吉本興業の騒動についてはリンクを開いて読んでいただきたいのですが、「スッキリ」で爆弾発言をした加藤浩次がいかに腹を括ったかを解説し、これを読むとあの騒動が吉本内部だけでなく民放各社がコンプライアンスとして今の吉本のままでいいのかと大きく問いかけ、そこからNHKに出演してNHKを批判した久米宏から、ちょうどいいタイミングでということで8月7日、12日、18日にポレポレ東中野で再上映される『共犯者たち』について語ってます。
正直、6月28日の『共犯者たち』長岡上映会の前に語っていただければ宣伝になったなぁ、と思いますが、吉本騒動にメディアの在り方も問われた参院選の後というのはタイミングとしてちょうど良かった、何より町山さんの見方が知れてよかったです。
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町山智浩 加藤浩次の吉本興業告発と韓国映画『共犯者たち』を語る
https://miyearnzzlabo.com/archives/58661町山智浩)そういうことが起こっていて。で、今日は実はすごくいいタイミングである映画が再公開をされるんで。その話をしたいんですけども。それは韓国のドキュメンタリー映画で『共犯者たち』という映画なんですよ。それは2017年に韓国で公開されて、日本では2018年の12月にすでに公開をされているんですけども。それが今度、ポレポレ東中野という映画館で8月7日、12日、18日と計3回、再上映をされるんですね。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)で、これはDVDが出ていないんで、ここで見ないと見れないんですけども。で、これは韓国の公共放送と公営放送……まあNHKみたいなところが韓国には2つ、あるんですよ。それが2008年から韓国の大統領になったイ・ミョンバク(李明博)大統領とその後を継いだパク・クネ(朴槿恵)大統領に人事を握られて完全にコントロールされたという事態を描いているんですよ。
(赤江珠緒)NHKと一緒じゃないですか。へー!
(町山智浩)同じなんですよ。で、この映画『共犯者たち』の監督はそこで報道部の人だったんですけども、不当解雇をされてしまったプロデューサーのチェ・スンホさんです。で、MBCというテレビ局なんですけども、彼が内部でいったいなにがあったのか? 現場でずっとカメラを回して撮っていて、クビになってもその後もずっとカメラを持ってそのテレビ局の中に突っ込んでいったり、テレビ局の関係者が歩いているところに突撃して話を聞いていったのがまとまったのがこの『共犯者たち』というドキュメンタリーなんですね。
で、これがNHKと非常によく似た会社KBSという放送局とMBCという放送局の2つがあって。KBSの方はNHKとそっくりなんですけども、MBCの方はもうちょっと民放寄りの放送局なんですね。株式会社なんですけども、人事は韓国の大統領府が関与しているんですよ。ただ、すごくイ・ミョンバク大統領が……この人は保守系の党の大統領なんですけども。非常にコントロールをしようとして両方の局長に自分の身内のものをつけたんですね。で、社員とか報道部が怒って。「これだと報道の中立性が保てない」ということでストライキとかをしたんですけども、それを200人とか300人、一斉にクビ切りをしてしまったんですよ。すごいことになって。その中に巻き込まれてこの監督のチェ・スンホさんもクビになっちゃったんですね。
(赤江珠緒)うんうん。
(町山智浩)で、この映画の中ですごいのは、録音をしているんです。要するに大統領の補佐官から直接電話が放送局のトップのところにかかってくるんですよ。で、「あれはいったいどういうことなんだ!」って。でも、それをちゃんと録っているんですよ。
(赤江珠緒)完全に圧力をかけているのを。
(町山智浩)そう。だからテープは回しておけっていうことですよ。でね、テープを回したり、あらゆる方法を使って録音をした方がいい。こういう場合の隠し録音はちゃんと裁判で証拠として採用されます。で、いまはテープじゃなくてもいろんなものがありますから。すっごい小さいのもありますからね。かならず録音をしておいた方がいい。本当に。で、これはそういうのが出てきますよ。ズバズバといろんな証拠が出てくるんですよ。で、いろんなことがあります。特にパク・クネ大統領の時、大変なことが起こりましたよね。セウォル号事件という、船が転覆してしまった事件。
あれに関しては政府は最初「死傷者なし」っていう政府発表をして、それをそのままKBSが垂れ流してしまった。だから政府の言いなりになっていたので誤報確認ができなかったんですよ。これが完全に政府のプロパガンダ機関となった政府がやってしまういちばん恐ろしい失敗ですよね。それと、あの有名なロウソク革命と呼ばれる、ロウソクを灯したパク・クネ大統領の退陣を求める人たちのデモも放送されなかったんですよ。
(赤江珠緒)そうか。あれだけの人がいたのに、放送をしなかった。
(町山智浩)これも今回、参議院選挙で山本太郎さんが街頭でいくらなにをやっても全く放送がされなかったというのとそっくりですけどもね。そういうことを韓国はやってしまったんですよ。で、もうどんどんとみんなクビになっていって、田舎に帰ってスケート場かなんかで働いたりしている人とかいるわけですよ。その中でがんばってこの監督のチェ・スンホさんが戦っていくんですけども。で、この映画のもうひとつ、すごいところはこのチェ・スンホさん自身が大統領にも直接、カメラを持って突っ込んでいくんですよ。
(赤江珠緒)へー!
(町山智浩)すごいですよ、これ。すごい。で、やっぱり現場はみんな戦っているんですよ。上の方はやっぱりね、経営ですからね。違うんですよね。日本もNHKにしてもなんにしてもそうなんですけど、現場はみんな戦っているんですよ。僕はテレビ朝日の報道の方で番組をやっているんでね。現場は戦っていることが本当によくわかるんですよ。でも、上の方はみんな違って、政治家の人とお食事会とかをしちゃうんですよ。
(赤江珠緒)そうか。そうですね。
(町山智浩)で、この映画の中でもお食事会に連れて行かれるっていう話が出てくるんですよ。昼食会に。で、昼食会に行ってなんかやんわり言われちゃったら、やっぱりなにもできないんですよ。そのへんの昼食会の怖さ……お食事をしちゃダメですよ。
(赤江珠緒)そうか。なあなあになっちゃいますもんね。
「お食事会」の怖さ
(町山智浩)そうなんですよ。最近、この間まで日本も総理大臣が誰と食事をしたのか?ってどんどんと発表をしていましたけども。あれはちゃんと見ておいた方がいいですよ。お食事会っていうのにはものすごい力があるんですね。
(赤江珠緒)しかし人事権を持つっていうのはおかしいですね。
(町山智浩)そう。人事権を政府が握っていたらやっぱり公平な放送とか報道はできないですよ。それは。結局公共放送っていうのは国営放送ではないので。韓国にしても日本にしても。だから受信料を取っているんですね。韓国の方でも受信料を取っているんですよ。つまり政府からのお金だけで運営をするということにすると、完全に国営放送になってしまって、政府のプロパガンダ機関になってしまうので。独立を守るためにっていうことで受信料を取っているにもかかわらず、人事で独立していないからどうしようもないんですよ。
(赤江珠緒)そうですね。
(町山智浩)だからもう、この問題というのは久米宏さんが言った通りで。「それじゃダメなんだ。意味がないんだよ」っていう。これは本当にそうなんだなって思いました。ただね、本当に警察まで介入していって。すごいのはKBSの社長を退陣させるためにどうするのか?っていうと、イ・ミョンバク大統領は検察に手を回して……つまりこれは完全に三権分立違反なんですけども。検察に手を回して「KBSの経営があまり上手く行っていないから背任罪」ということで逮捕をしてしまうんですよ。社長を逮捕して退陣させるんですよ。
(赤江珠緒)はー!
(町山智浩)これ、恐ろしいなと思いましたね。そこまで、日本はなっていないですよね?
(赤江珠緒)なっていないと信じたいですよね。
(町山智浩)なっていない。自分たちからペコペコってしちゃう。つまり、戦う人がいないから。ただね、その中で会社を辞める人もいれば、辞めさせられる人もいて。で、どんどんどんどんと番組の中で報道番組を減らしていくんですよ。テレビ局、ラジオ局の中で報道番組がどんどんと減っていくんですよ。それでそこで働いている人たちをあまり関係のない軽い部署にどんどんと回していったりしてね。それは「視聴率が悪いから、利益が上がらないから」みたいな話をするんですね。特にMBCの方は利益を上げることが目的になっている……受信料制度ではないので。だから「番組、人気ないよ」って言われるんですけども、そういう「報道は利益を生まないんだ」っていう圧力はどこにでもあるんですよね。
(赤江珠緒)ああーっ!
(町山智浩)「なんで食っていると思うんだ? 報道で食っているわけじゃないじゃないか」っていう圧力って、どこでもあることですよ。で、そういうところに回されてしまった人たちは辞めていったりするんですけども。その中で1人のプロデューサーがもう我慢ができなくなって。Facebookで中継をしながら会社の中でいろいろと、ロビーとかで1人で「社長、やめろ!」って叫び始めるんですよ。とうとう。その人が。
すると奥さんがそこで心配をして、メールを打ってくるんですね。「あなた、そんなことをしたらクビになっちゃうし、警察に逮捕されるかもしれないわ!」とか言うんですよ。でも「もう俺は我慢ができない!」ってその会社のMBCのロビーで「社長、やめろ!」って言い続けるんですよ。すると、そこに人が集まってくるんですよ。で、みんなでそういう合唱をするんですよ。「社長、やめろ!」って。そこはね、非常に感動的でしたね。
(赤江珠緒)ああ、そうでしたか。そういう権力を健全なものにするとか、健全な権力としてキープをさせるには、やっぱり大多数の目がいりますね。
(町山智浩)そうなんですよ。だからどんどんどんどん内部で起こっている粛清であるとか抑圧みたいなことを社員がSNSとかで出していくということをするんですね。Facebookとかで。それで戦っていくんですけども。それで、この映画自体は2017年で終わっているんで。結局、その政府に握られた経営陣というものは変えられないまま、最後にプロデューサーたちが全面ストライキに入るところで終わるんですよ。2回目のストライキですね。すでにクビになったんで、残っている社員たちがまたストライキをするというところがこの映画の中であるんですけども。
経営陣がストライキに屈する
それで「どうなっちゃうんだろう?」って映画だけ見ると思ってしまうんですが、その後に結局経営陣はストライキに屈しました。この2つのテレビ局はストライキに屈して、政府によって任命された会長を解任しました。そして今度は政府が全くかかわらない形で社長を選ぶということになって、一般の人たち……視聴者とか。政府が決めた委員会ではなく、市民による委員会と一般視聴者による投票・評価を合わせて社長を選ぶという新しいやり方になったんですよ。それで、誰が社長になったのか?っていうと、このテレビ局MBCを解雇されていた映画の監督のチェ・スンホさんなんですよ。
(赤江珠緒)ええーっ! すごいですね。
(町山智浩)はい。革命が起こったんですよ。だから映画の中にはそれは映っていないんですけども。
(赤江珠緒)すごい! これ、映画以上にドラマチックですけども。実際にあったことなんですもんね。
(町山智浩)だから映画の外に感動はあるんですが。この映画のタイトルの『共犯者たち』っていうのは非常に大事なことですよ。つまり、政治家であるとか権力者であるとか企業であるとか、そういったものに対してちゃんとした質問をしない人は「共犯者」なんですよ。そういうことなんですよ。だから今回の吉本の件にしてもそうで、やっぱりちゃんとした質問をしないで、民放がちゃんと動かないようならば、その民放も共犯者になってしまうわけですよね。だからそういうことを加藤さんは突きつけたんだと思いますよ。
(山里亮太)それに対して、どんな答えが出てくるんだろう?
(赤江珠緒)そこをちゃんと見守らないとダメですね。
(町山智浩)これ、問われているのは民放ですよ。
(赤江珠緒)だからこそ、いま見ていただきたいと。町山さんも。
(町山智浩)そうですよ。NHKも参院選の後に自民党がね、「今回の選挙は私たちの勝利だから消費増税と憲法改正の発議についての国民の承認を得た」っていうコメントを出して、それをそのまま垂れ流したんですけども。だけど自民党は今回の選挙、議席を10も失っているわけだから勝ってないですよね?
(赤江珠緒)そうでしたね。
(町山智浩)そういうことをやっているのはみんな共犯者ですよ。ということで『共犯者たち』、もうすぐ再公開なんで。ぜひご覧ください。
(赤江珠緒)『共犯者たち』はポレポレ東中野で8月7日、12日、18日に上映されます。
(山里亮太)町山さんも上映会、自分でも開きたいぐらいですね、これ?
(町山智浩)フフフ、はい(笑)。まあ、ぜひご覧ください。
(赤江珠緒)町山さん、ありがとうございました
(山里亮太)ありがとうございました!
(町山智浩)どもでした!
<書き起こしおわり>