東京国際映画祭に続いてのS東京特派員の映画祭巡礼記。
今回はやはり東京フィルメックスです。
映画史に残るキン・フーにロバート・J・フラハティ、現役バリバリの原一男、ワン・ビン、ジャ・ジャンクー、ウォルター・サレス、シルビア・チャンにインドネシア、中国の最先端作品、そしてキアロスタミと凄まじいラインナップを飲み込んでいく東京特派員の喜びが全編に溢れる読み応えあるレポートです。
個人的に香港・台湾映画の隆盛に多大な貢献をした大女優シルビア・チャン。
マイフェイバリット香港映画の一つ『上海ブルース』のヒロインでもありましたが、あの頃と今もあんまり変わりませんな。
http://filmex.net/2017/上映作品のポスター
今年も東京の年末を告げる映画祭、フィルメックスに行ってまいりました。
全体の印象は最後にしてまずは見た映画の感想を。
『相愛相親』中国・台湾 シルヴィア・チャン監督
シルヴィア・チャン自身が演じる主人公とその夫、主人公の父と母と父の正妻、主人公の娘とその恋人。現代の中国を舞台に3世代の愛を描く。
前作の『念念』に比べリアルな生活に基づいた分共感できる家族ドラマだったと思います。
父親たちの過去が回想シーンなどあればもっと分かりやすかったような気もしますがそれがないのは昔の中国の貧しさを描くのがタブーだったためなのか?
ちょいちょいそんな部分も感じられたのはちょっと残念。
中国人以外にも分かりやすい演出がほしかった気もします。
主人公の夫役を演じたのは田壮壮監督。
プロの俳優にはないいい味を出していました。
他にもシルヴィア・チャンゆかりのレネ・リュウ、王志文などの特別出演もあり。
『山中傳奇』Q&Aのシルヴィア・チャン(中央)。
『山中傳奇』台湾 キン・フー監督
最先端の映画とともに過去の映画文化の発掘にも力を入れているフィルメックスが去年に続き取り上げるキン・フー。
今年は3時間以上の大作『山中傳奇』。1985年の東京国際映画祭以来の上映でしょうか?
1979年でこの風格。
先日日本で発売されている短縮版DVDを見たのですが、デジタルでの修復によりそれとは比較にならない高画質。
リバイバルでも現代の観客にも受け入れられるものになっていると思います。
主演のシュー・フォンも修復に貢献しているようです。
1年間にわたり撮影されたという凝りに凝った映像ですが、キン・フーはあまり予算に恵まれていなかったといい、この映画でも韓国の寺院や建築物を使いセットはまったく作っていないそうです。
CGでなんでも作れてしまう現在の映画を見慣れている観客にとって、実際にそこにあるものでこれだけの映像を作り上げてしまうということは逆に新鮮な映像体験になるかもしれません。
今見直されてるべき作品だと思います。
『ジョニーは行方不明』台湾 ホァン・シー監督
現代の台北を舞台にふたりの男女の出会いとひとりの青年の日常を描いた作品。
なにもないような平凡な暮らしの人々にもこんな過去がある。
でも生きていくんだよ、というような作品で見た後の印象はいいです。
ヒロインが飼っているインコがかわいい。
監督はホウ・シャオシェンの会社で働いていた人で長回しのスタイルは似ているとも言えますがホウ・シャオシェンより成功している部分もあるように思いました。
主役のひとりがエドワード・ヤン監督作品の常連クー・ユールンなのも台湾ニューシネマを見てきた世代には懐かしいです。
台湾ニューシネマを受け継ぐ作品のように思いました。
『氷の下』中国 ツァイ・シャンジュン監督
ツァイ・シャンジュンは『スパイシー・ラブ・スープ』『こころの湯』『胡同(フートン)のひまわり』の脚本家ですがフィルメックスで紹介された監督作品『人山人海』は炭鉱を舞台に娯楽要素を排したきびしい映像で描く犯罪映画。
今回も真冬のロシアと中国東北部の寒々しい風景のなか裏社会に生きる男が主人公。
主演が『西遊記はじまりのはじまり』のホァン・ボーなのも異色。
いつもの人の良さを微塵も感じさせない卑劣な男を演じているのも見所でしょう。
あと、ラストの衝撃もすごいです。
こんなことよく思いついたなという感じ。
『見えるもの、見えざるもの』インドネシア他 カミラ・アンディニ監督
監督は『枕の上の葉』のガリン・ヌグロホ監督の娘。
この作品は『殺人者マルリナ』と共に最優秀作品賞を受賞しました。
双子の子供を主役にインドネシアの精神世界を描いたなかなか難しいアート作品。
でも普段あまり上映される機会が少ないであろうこういう作品にスポットをあて、映画上映の多様性を深める試みはいいと思います。
こういう作品が普通に上映されてみんな見に行くようになるのが映画の未来じゃないでしょうか。
『ファンさん』香港・フランス・ドイツ ワン・ビン監督
お馴染みワン・ビン監督の新作です。
アルツハイマーの老女が家族に看取られながら亡くなるまでの数日間を描いた映画です。
今回はぐっと短くなりなんと87分。
しかし内容はどっしりと重いものがあります。
ワン・ビンの映画の時間は観客にいろんな思いを抱かせます。
『とんぼの眼』中国 シュー・ビン監督
ものすごい異色作。一応フィクションなんですが映画の場面はすべて実際の街のなかの環視カメラ映像。
それを組み合わせてストーリーを作っているわけです(セリフはあとから入れている)。
その結果どうなったかというとなにしろ実際の映像なのですごくリアリティーがありながら虚構という、現実と虚構が入り混じってめまいをおこさせるような効果を生んでいたと思います。
見終わってすごく興奮してしましました。
監督のシュー・ビンは現代芸術家だそうで、こういう映画は映画界にも刺激をあたえるんじゃないでしょうか。
広く見てほしい作品です。
『ニッポン国VS泉南石綿(いしわた)村』日本 原一男監督
アスベストの危険を知らせなかった国に対する裁判を8年にわたって記録した力作。
原告の患者のつらい日常生活、病気と老いにより裁判中に次々と亡くなっていく原告。
8年間も密着していたからこその重みのある映画。
裁判をめぐるいろんな人間模様も描かれ(弁護士の報酬や賠償金の額なんかも出てきます)3時間35分の長編になるのも納得の内容の濃さでした。
『暗きは夜』インドネシア アドルフォ・アリックスJr監督
インドネシアの麻薬撲滅運動をめぐる警察の腐敗を描いた映画としては『ローサは密告された』がありましたがこの映画も麻薬の売人を主人公にしたもの。
インドネシアで現在進行中の出来事を題材にした社会派映画だけどちゃんと商業公開される映画でもあり、こういう映画が作れているインドネシアはすごい、と思わされる映画でした。
『モアナ(サウンド版)』アメリカ ロバート・J・フラハティ、フランシス・H・フラハティ、モニカ・フラハティ監督
ドキュメンタリーの父といわれるロバート・フラハティがサモアの生活を描いた作品。
1926年にまずロバートとフランシス・フラハティ夫婦によってサイレント映画として作られ、1980年に娘のモニカがサモアを再訪して音声を録音。そして今回の上映版は2014年にデジタルリマスターされたもの。
本来なかったはずの音声が加わり、さらに新作のようにクリアな映像。
オリジナルとはなにかと考えさせられました。
だけどそれ以上に、作品にプラスならOK!ということも。
『時はどこへ?』ブラジル・ロシア・インド・南アフリカ・中国 ウォルター・サレス、アレクセイ・フェドルチェンコ、マドゥル・バンダールカル、ジャーミル・X・T・クベカ、ジャ・ジャンクー
「時間」をテーマにしたオムニバス映画。フィルメックスはジャ・ジャンクーをずっとフォローしていますがおかげで面白い映画を見ることができました。
「時間」というおおまかなテーマなので作品はさまざま。ドキュメンタリー的な作品もあればアフリカのSFまで(ヒロインのプロポーションがすごい!)。中でも仲たがいした恋人の皮肉な運命を描いたロシアの作品が私は好き。
『24フレーム』イラン・フランス アッバス・キアロスタミ監督
今年のフィルメックス最終上映作品。キアロスタミ監督の遺作で完成前に亡くなっています。写真に写った風景はその一瞬が残されているだけだがその前後にもいろんなことがあったはず。それはどんなものだったのだろう。記録された写真以外は失われてしまった過去を再現しようという途方もなさ。ユーモラスな映像が多いのですが、それがなおさら監督がすでにいないということを思いだし、なんとも切ない気持ちになる作品でした。
この作品がフィルメックスの最後の上映でよかったなあという思いです。
フィルメックスのHPに「映画の未来へ」とい言葉が掲げられています。
フィルメックスはこれから映画がどうなっていくかというものを常に意識しているような気がします。
クラシック作品の発掘もその一環としての上映なのかも。過去にこそ未来のヒントがあるということを思います。
フィルメックスはそんないろんな発見の場ではないでしょうか。
来年がまた楽しみです。
また、映画上映だけでなく無料で観覧できるイベントもあり私は「映画字幕」と「批評」を見ました。
映画の上映以外にも気軽に参加できるこういうイベントもやっているのもこの映画祭のよさだと思います。