
(C) Aquarian Works, LLC
『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』はアーティストとして声を上げて香港の自由と権利のために、
巨大な権力と闘うデニス・ホーの姿を記録。
そのデニス・ホーに香港映画好きとして親近感が沸くのはアニタ・ムイのお弟子さんなこと。
アニタ・ムイについて、その昔担当者は“香港の美空ひばり”などと紹介していたのは当たらなくとも遠からず。
国民的な歌手であり、女優としても一級品の香港ショービズ界のスーパースター。
映画ではジャッキー・チェンのお母さんを演じた(!)『酔拳2』、
長岡アジア映画祭で上映したジョニー・トー監督でチャウ・シンチーの奥さん役『チャウ・シンチーの熱血弁護士』など、
早口で捲し立てながらも情に弱い気風のいい姉御肌、
そのキャラの集大成と言っていいのがチョウ・ユンファの運命の人を熱演した『アゲイン 男たちの挽歌Ⅲ』と、
いづれもスクリーンを席捲し、登場するたび観客をくぎ付けにした千両役者でもありながら、
あえて女優として代表作を挙げれば『ルージュ』を。
1930年代の芸妓が1980年代に幽霊となって、身分違いの恋から共に心中を図った恋人の消息を訪ねるというストーリー。
香港の街角を古風なチャイナドレスで彷徨う儚い幽霊を繊細に演じておりましたが、
奇しくもアニタはこの映画で恋人役のレスリー・チャンも亡くなった2003年に
子宮頸癌に侵され惜しまれて亡くなってしまいました。享年40歳。
昨年、香港で大ヒットしたのがアニタ・ムイの伝記映画『ANITA』
多くの人々が傷ついた香港人にとってアニタ・ムイというのは良き時代の香港の象徴ともいえ、
懐古の思いで彼女を観に人々が劇場に足を運んだと想像しますが、
この映画を伝える日本語の記事をネットで読んで知らなかったことが。
アニタ・ムイの恋人は近藤真彦だったというのはうっすら耳に挟んでましたが、
よりによってマッチが中森明菜と付き合ってた頃に三角関係だった、
しかも当時、日本に移住までしてた本気だったことなど全く知らずにおりました。
このエピソードを知って先の『アゲイン 男たちの挽歌Ⅲ』の主題歌として、
劇的に流れたアニタが歌うマッチの「夕焼けの歌」のカバー曲「夕陽之歌」を聴くと、
なかなか切ない思いがこみ上げます。
彼女の最後のコンサートでラスト、独身を貫いた彼女がウェディングドレス姿でこの曲を歌う姿、
当然、ファンとともにマッチへの想いも併せて歌い上げたんだろうと。
アニタ・ムイ (梅艷芳) 『夕陽之歌』 (日本語訳詞) MC (日本語訳) 付き
https://www.youtube.com/watch?v=wiQJ2gYGLk4しかし明菜ちゃんとアニタと日本・香港の歌姫を虜にし二股かけてしまったマッチって、、、
確かに全盛期はそんな魅力あふれたオーラを放ってたことは認めますが、、、
それはともかく1994年の東京国際ファンタスティック映画祭のオールナイト上映「香港電影不夜城」
担当者はにいがた国際映画祭のUさんと会場の渋谷パンテオンに突撃し、
業界に顔が利くUさんの力でバックヤードに潜入すると目の前にゲストのアニタ・ムイが。
スーパースターを間近で目にし舞い上がってしまいましたが、
当のアニタはお付きの人もおらず、いささか雑然としたたまり場みたいなバックヤードで、
一人で鏡を前に化粧を直しておりました。
周囲の喧騒もどこ吹く風と書けば聞こえがいいかもしれませんが、
どこかにスターの孤独といった佇まいをどちらかといえば感じ、
こちらは失礼ながらジーッと見つめてたところ視線に気づいたので、
慌てて会釈をしたところ、微笑みがえしをしてもらったことを今もよく覚えており、
訃報を知った時もあの微笑み返しの笑顔でありました。
その後、本番の舞台挨拶では小松沢陽一プロデューサーを
「よっ!イイ男!!」と日本語で持ち上げてるのを見てサスガはプロフェッショナル、でした。
しかしこの時、上映されたのはミシェール・ヨー、マギー・チャンとともに
頭のおかしなアンソニー・ウォンと闘う『ワンダーガールズ東方三侠』。
面白いとはいえ、アニタがわざわざ来日して宣伝するほどの映画かというと微妙とはいえ、
逆にこんな映画でもホイホイ来てしまうアニタはやはり好きだなぁ、と。
最後にあれは確か天安門事件の翌年に放映されたのか。
NHKが香港映画の女優さんを手当たり次第に紹介した特別番組があり、
見てたら当然アニタ・ムイも登場し、ほかの女優さんと異なる天安門事件を非難した発言をし、
明らかにほかの女優さんと違うスタンスでの登場でした。
今なら表立って天安門事件など芸能人がカメラの前で話すことなど到底できないことを思うと、
確かにあの頃の香港はそれを言える自由がありました。
現在、愛弟子のデニス・ホーが香港の自由と権利を守るために逮捕されてしまう事態を、
アニタ・ムイはどんな思いで天国から見つめているのか。
たぶん香港の暗澹たる姿に頭をもたげがら、
愛弟子の姿に頼もしく思いながらエールを贈ってることと。
デニス・ホーにはそのエールが届き、背中を押されてるハズではないかと。
*11/19『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』長岡上映会
http://nagaokatsukurukai.blog.fc2.com/blog-entry-3516.html