S東京特派員の秋の映画祭巡礼記。
東京国際映画祭。共催の中国映画週間、東京フィルメックスとまとめてレポが送られてきました。
ありがとうございます!
読んでてデビュー作を見てジェット・リーのバッタモンだと思ってたウー・ジンが今や中国の国民的スターとなったばかりか、監督としても才能を見せつけてもう気軽に香港映画で悪役を演じることはないだろう、とか。
久しぶりのツァイ・ミンリャン&リー・カーションのツーショットを見て、これだけ長い間タッグを組んで一緒に活動してる映画人もそうそうないだろうなぁ、と年相応に中年と化したシャオカンの姿に感慨深いものが込み上げる反面、ツァイ・ミンリャンは逆に若返ってないかと。
その昔、東京国際映画祭でプロデュースしたリー・カーション初監督作『迷子』を上映した際にコンペ部門に選ばなかった映画祭側を壇上で猛烈に批判してたツァイ・ミンリャンは凄かったと思い出しました。
今年も見てきました。東京国際映画祭。共催の中国映画週間、東京フィルメックスにも行ってきたのでそこで見た映画の感想です。
中国映画週間 『片恋~マイブルーサマー』
監督のホアン・ビンは2015年『ユア・マイ・サンシャイン』2019年『最高の夏、最高の私たち』(監修)と中国映画週間の常連のような人。
どれも成人した主人公が高校時代に好きだった人と再会する、という話なのがすごいです。
青春映画の王道。
この映画ではふたりを結び付けるのが日本のアニメ映画『おもひでぽろぽろ』というのが日本人にとってポイントではないでしょうか。
主人公カップルのチャン・シュエインとシン・ユンライのさわやかさも魅力的でした。
『奇跡の眺め』
監督は『薬の神じゃない!』が大ヒットしたウェン・ムーイエ。
2021年の共産党創立100周年の祝賀作品で「深圳で無一物の若者が企業して成功する」というガチな主旋律映画ですが大企業エリート社会の冷血さとか主人公の追い込まれ方が容赦なくて社会性のある映画だと思いました。
そのあたりはちゃんと評価されているみたいですでにネットフリックスで『すばらしき眺め』というタイトルで配信中です。
主人公を演じるイー・ヤンチェンシー(『少年の君』)の演技がすごくよくてそこも見どころです。
『月で始まるソロライフ』
事故で月面にひとり取り残された男が目にしたのは地球に落下する巨大隕石。
地球とは連絡が取れなくなり孤立無援の男のサバイバル生活がはじまる.…という映画なんですがコメディです。
主演は『こんにちは私のお母さん』にも出ていた芦屋小雁似のシェン・タン。
監督のジャン・チーユイとシェン・タンは2018年の中国映画週間『恥知らずの鉄拳』でも組んでいます。
中国映画の『流転の地球』でも証明されてましたが月面や宇宙空間などの特殊効果撮影は世界レベルの映像でした。
『父に捧ぐ物語』
『愛しの母国』『愛しの故郷』に続くオムニバス愛国映画シリーズ第3弾。
今回は4本で主演俳優が監督も兼ねてます。
第1話『風に乗って』ウー・ジン監督。
抗日戦争時の実話をもとにした映画ですがウー・ジン、黒澤明オマージュとも思える映画を作りました。
日本軍から村人を逃すために一人また一人と犠牲者をだしながら戦う主人公たちは七人の侍のようです。
オムニバス映画の1篇とは思えないようなエキストラと馬と火薬の数もすさまじいです。
第2話『詩』チャン・ツィイー監督。
1960年代が舞台の中国宇宙開発に隠された感動悲話。
奇をてらわず堂々とした語り口でチャン・ツィイー、監督としてもいけそうです。
第3話『先駆け鴨』シュー・ジェン監督。
時代を先取りしすぎで周囲からまったく理解されないダメな父親とその息子の物語をシュー・ジェンは全編ウェス・アンダーソン調の映像で描きました。
そのパロディ精神が楽しい映画。
70年代上海を再現した美術をすばらしい。
第4話『バック・トゥ・2021』シェン・トン監督。
『月から始まるソロライフ』のシェン・トンのこれが初監督作品。
元ネタがあからさまだったり感動の図式通りの展開なのが物足りない気もしますがラスト、中国万歳の中、個人的な愛情が優先されるあたりに好感が持てました。
東京国際映画祭 『神探大戦』ワイ・カーファイ監督
『マッド探偵』のキャラとかぶる天才的な推理能力の持ち主(でも狂っている)を再びラウ・チンワンが演じています。
ジョニー・トーと組んで奇怪な映画を生み出してきたワイ監督の久々の単独監督作品。
映画が撮れなくなってきたトー監督に成り代わってかつてのカオスな香港映画を思い出させるような快作が出現。
香港警察をも操る恐ろしい敵に武器もなしに挑むチンワンの悲痛な戦い。そして謎のようなラスト。
猟奇犯罪がテーマですが中国と香港の引き裂かれた現状を反映するかのような映画でもありました。
『ホワイト・ノイズ』ノア・バームバック監督
大規模災害によるパニック、カーアクション、スーパーマーケットなど大量消費社会描写など舞台になった80年代映画オマージュともいえる映画で中年の危機を描いてる点では前作『マリッジストーリー』を受け継いでる要素も。引き続きアダム・ドライバーが体重増量で熱演してます。
『This is What I Remember』アクタン・アリム・クバト監督
『This Is What I Remember(英題)』アクタン・アリム・クバト監督
ロシアに出稼ぎに出かけて記憶喪失になった男が20年振りに故郷の村へ。
20年前とは様変わりしていた村の様子。
コロナの状況も描かれてキルギスの現在がうかがえます。
『馬を放つ』『明りを灯す人』など最近の作品と同じく監督が主役も務めてます。
東京フィルメックス 『ノー・ベアーズ(英題)』ジャファル・パナヒ監督
パナヒ監督を収監したイラン当局に対してのメッセージとしてフィルメックスは新作をオープニングに持ってきました。
映画製作を禁止されて以降も自身の近辺雑記のような体で作品を作り続けきたパナヒ監督ですが今回の作品ではそんな自作への自戒めいた感じもありユーモアも控えめのかなり重さも感じられる作品でした。
はからずも監督の現在の状況も相まって複雑な気持ちになる作品となってしまいましたがなんとか自由に映画が作られるようになってほしいと願います。
『西瓜』ツァイ・ミンリャン監督&リー・カンション
『ふたつの時ふたりの時間』『西瓜』ツァイ・ミンリャン監督
今年の回顧特集はツァイ・ミンリャン。東京国際映画祭と共同です。ツァイ監督ぜんぜん現役ですがこの2作は2001年と2005年の作品で当時は一応商業路線で『西瓜』はその年の台湾興行収益ナンバーワンでもありました。
ツァイ監督によると自身最大のヒット作だそうです。
でも一番過激です。そこが受けたのかも。
ツァイ監督はその後パーソナルな作品作りに変わったのでこのような作品はもうできないと見ながら思ったり。
『西瓜』は台湾の風景を使ったミュージカルシーンも楽しく貴重な作品。
石門』ホアン・ジー&大塚竜治監督
『石門』ホアン・ジー&大塚竜治
中国でインディペンデントな作品を作り続ける監督コンビの第3作。
とてもそうとは思えないのですが現場スタッフはホアン・ジー監督とカメラマンも兼ねる大塚監督、それと録音の3人だけだとか。
主人公の若い女性が若さと貧しさから出産した赤ん坊を手放すまでを冷徹な淡々としたタッチで描いていて凄みがありました。
『同じ下着を着るふたりの女』Q&A
『同じ下着を着るふたりの女(原題)』キム・セイン監督
キム・セイン監督はこれが長編デビュー作。
母娘のわりとしんどい関係を描いていて最近言われている韓国フェミニズムブームとは違った角度の映画。
とにかく母親のキャラクターが強烈なんですが娘の個性も独特で登場人物みんな変なところがあるけど普通にいそう。
そんな人物を魅力的に描いて飽きさせない監督の手腕を感じました。
去年から東京国際とフィルメックスは有楽町に移ってなんとなくなれてきた感じです。会場も増えました。
今年初めて『ホワイト・ノイズ』でよみうりホールで見ましたが1957年完成の1100人収容のホールでの上映はこの映画にあっててとてもよかったです。
リアルな会場での上映はそのシアターの個性も体験の一部。
私は行けなかったのですが丸の内TOEI(1960年)、TOHOシネマズシャンテ&シネスイッチ銀座(1987年)と歴史のある映画館で映画を見れる、というのも有楽町に会場を移したこの映画祭の楽しみのひとつだったと思います。
東京国際映画祭
https://2022.tiff-jp.net/ja/2022東京・中国映画週間
http://cjiff.net/東京フィルメックス
https://filmex.jp/