*S東京特派員と奥様の映画祭巡礼記。
11月17日~11月25日に開催された第19回東京フィルメックス。
今回は奥様がボランティアスタッフにも参加し、その活動の様子も送ってくれました。
ご夫妻どうもありがとうございます。
フィルメックスといえばあのオフィス北野が長年、協賛し支援してきましたが今年例のドタバタ劇があって協賛どころでなくなってしまい、どうなるのかと思ってたらやはり木下グループが協賛となり、製作の他に映画館経営まで乗り出してる木下グループが縁起でもありませんが、万が一傾いたら日本映画も共倒れするんじゃないかと思ってます。
すごいよ木下工務店というか木下グループ!
今年の目玉は堂々4時間の大長編『象は静かに座っている』 だと思ってましたが、さすがにご夫妻とも観賞されたようです。
しかし懐かしの中国第五世代の傑作『盗馬賊』が修復されデジタル版での上映はよいとしてオリジナルのチベット語を中国語に吹き替えての上映は意図を勘ぐりたくなりました。
あとツァイ・ミンリャン監督、商業映画引退とはいえ、やってることはあんまり変わんないんじゃないかと。シャオカンは幾つになったのか?
https://filmex.jp/2018/==================================
今年も東京フィルメックスに行って来ました。
そのご報告です。
ただ見るだけだった例年とちょっと違うのは(H)がボランティアとして参加したことです。
それではまずボランティア体験記、それから見た作品の感想をどうぞ。
☆ボランティア体験談
今回はなんとフィルメックスにボランティアスタッフとして参加してきました。
ホスピタリティ班という、来日ゲストのアテンドをするボランティアです。
最初は軽い気持ちで、中国語を活かして映画祭に関われたらいいなと思っていたのですが、実際に空港にゲストを迎えに行く際に何も考えておらず、合流したベテランの方から空港内のどこに両替所やコンビニがあるか教えてもらって初めて「な、なるほど…ゲストから聞かれたときのために下調べしておくべきだった…」と気づいたという…。
さらに私が担当したゲストの方は海外に慣れていて英語も完璧、過去にフィルメックスにも来たことがあるしWi-FiやGoogleMapも使いこなしていて、一人で移動できるのでアテンドはほとんど不要とのことで、結局あまり活動しないまま、無事に(?)初めてのボランティア体験は終わりました。(H)
『幸福城市』
幸福な話だと思って観たらまったく幸福の要素がなかった映画。五月天(Mayday)のストーンがゲスト出演しているのですが、期待して観てたらなんと、ものすごいゲス役で、なかなかチャレンジングな一本だな~と思いました。
主人公の人生を老年時代から遡って、なぜ彼がこうなってしまったのか?を描いていくのですが、一番の疑問はなぜあのとき妻と別れなかったのか?固執しすぎでは?なんで??というところでした。
それが解消されないのでなんとなく他がすべて強引な展開に思えてしまう…。
あと第一部は近未来設定ですが、無理に近未来にしなくても良かった気がします。(H)
現在からはじまり徐々に時間を遡ってなぜ主人公がそのような状況に至ったのかが次第にわかっていくという時間逆行型の映画です。この形式でまず思い出すのは韓国映画『ペパーミント・キャンディー』ですが、この映画の場合最初の現在の部分が2056年という未来なのが新しい。
こんな生活(観客にとっては現在)を送っているとこんな未来が待ってるのかもよ、という警鐘を鳴らす意味があったのかもしれません。(K)
『轢き殺された羊』
全然なんのイメージも持たずに観に行ったのですが、とても印象的な映画でした。
はっきりとしたストーリーはなく、結末らしい結末はないにも関わらず、映画の世界に引き込まれる感じです。
まるでファンタジーのような酒場のシーン、幻想的な鳥が飛び立つ風景、死んだ羊の供養、お茶の水面の映像までものすごくきれいで、すっと眺めていたくなります。
主人公は自分と同じ名前を持つ男と出会ってから、なぜか彼の行動が気になりついに彼の足跡を追いかけ始めるのですが…。
何通りにも解釈できそうな不思議な物語でした。(H)
『ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト』
楽しみにしていたビー・ガン監督の新作。
なんと今回は部分的に3D映像あり。
チケットも前売りの時点で完売してしまったという話題作です。
前作『凱里ブルース』に引き続き貴州省の凱里を舞台にしていて、監督の凱里愛が感じられます。
説明のつかない出来事がたくさん出てくるのですが、私は卓球のラケットで空を飛ぶシーンが一番好きです。
3D効果があるのは後半部分のみで、主人公が映画の中で眼鏡をかけるのに合わせて観客も眼鏡をかけるというシステム。
すでに配給が決まっているので、公開が楽しみです。(H)
現実なのか夢なのか全くわからないまま映画は進み、後半突然映画は3Dに。
しかも3Dになってからはまったくカットが変わらない。
その間1時間!カメラは主人公と共にそれこそ本当に夢の中のように真夜中の村の中をさ迷います。
主人公が山から村に下るむき出しのロープウェイに乗る間も背後から追い続けるカメラ!
見たこともない夢幻的な光景にこころ奪われる映画でした。(K)
『象は静かに座っている』
今回一番注目していた作品であり、一番考えさせられた作品でもあり、個人的に2018年一番の作品でもあります。
4時間という尺の長さ、監督の苦悩と自殺、象は何を象徴しているのか?
などなど、本当はそれらについて自分なりに考えたことを文章としてまとめて、フィルメックスの映画批評募集企画に応募したかったのですが、間に合いませんでした。
もう少し時間をかけてきちんと書きたいと思っています。
私は、ウェス・アンダーソン監督の『ダージリン急行』という映画に出てくる自殺未遂した長男の「僕はベストを尽くした。他に選択肢はなかった」というセリフがとても心に残っていて、時々思い出すのですが、胡波監督もきっとそうだったのだろうと考えてしまいます。(H)
まあ確かに長い映画ですがこういう作品もあっていいんじゃないでしょうか。
この作品にはこの時間が必要だったのだと思います。
ふだん見ている2時間の映画とは異なる時間の流れが確かにここにはありました。
この監督の新作が見れないのは残念です。(K)
『川沿いのホテル』主演のキ・ジュボンさん
『川沿いのホテル』ホン・サンス監督
今年のオープニング作品。
順番としては『草の葉』のあとに作られた作品で現時点での最新作。
いつも身の回りのことから着想を得て映画を作っているとおぼしきホン・サンス監督。
前々作の『それから』からは「老い」がモチーフに入ってきました。
『草の葉』ではまだ複数の登場人物の一人でしたが今回はズバリ老人が主人公。
老人が主人公ははじめて。
これからの作品は老人が主人公になっていくのでしょうか?
『それから』以降の作品がすべてモノクロなのとあわせて気になります。
全体的に明るさ、軽さが少なくなり人生を肯定的に描いてきたホン・サンス監督の変化を感じられる作品でした。(K)
『草の葉』ホン・サンス監督
上映時間も少ないし複数の登場人物が主人公のスケッチ集のような作品ですがいろいろ実験を入れ込んでいるし、その上でちゃんとまとめあげていて、さすがベテランの手際よさとしか言い様のないホン・サンス作品でした。
こじんてきには『川沿いのホテル』より好きかも。(K)
『名前のない墓』のリティ・パン監督(右)
『名前のない墓』リティ・パン監督
リティ・パン監督は両親や家族をクメール・ルージュの時代に失っていて、その時代をテーマに映画をいくつも作っていますが今回は監督当人が主人公で家族の遺骨探しのはなし。
しかし半世紀近い過去の出来事。当然ながら記録もなく記憶している人々も少なくて弔いたくても遺体がどこに埋まっているかもわからず占い師や霊媒に頼ったりします。
現在になっても残された者が精神的な存在にこだわり続けなければならない不幸が見ているこちらにも迫ってくる映画でした。(K)
『8人の女とひとつの舞台』スタンリー・クワン監督(中央)
『8人の女と1つの舞台』スタンリー・クワン監督
過去に確執のあった二人の女優が同じ舞台で共演することに。
果たして無事に初日を迎えられるのかーという演劇のバックステージもの。
さまざまな世代の女優が登場して香港の現在と過去を描いた映画。
やや過去向きな姿勢が感じられる映画でしたがQ&Aに登場したスタンリー・クワン監督、まだまだ新作を作る気満々だったので期待したいと思います。(K)
『アイカ』のセルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督(中央)
『アイカ』セルゲイ・ドヴォルツェヴォイ監督
モスクワでキルギスの女性が赤ん坊を産み捨てる事件が多発しているというニュースを見て情に厚いキルギス女性がなぜそんなことをするのかという監督の疑問から生まれた物語だそうです。
ドキュメンタリー出身の監督らしい着眼点でしょうか。
主人公アイカに密着するカメラの視線によって次第に彼女が置かれている状況がわかってくるスリリングな展開。
東京国際映画祭でデビュー作『トルパン』がグランプリを受賞したドヴォルツェヴォイ監督の第2作。
この作品でフィルメックスのグランプリに輝きました。(K)
『期待』上映時のアミール・ナデリ監督
『期待』アミール・ナデリ監督
今年のフィルメックスの特集はナデリ監督特集。
あまり見る機会のない珍しい1974年の旧作がデジタル化され、ピッカピカのきれいな画質で上映。
『期待』はナデリ監督の子供時代の思い出に基づいたごく短い50分足らずの映画で特にストーリーらしいストーリーのない映像詩。70年代のイランでこういう作品がどういう形で上映されていたのか。当時のイラン映画の状況に思いを巡らせました。(K)
『華氏451』ラミン・バーラニ監督
ナデリ監督が共同脚本として参加しているのでアミール・ナデリ監督特集として上映。
アメリカの有料テレビ局HBOで放送されるために製作された映画なのでスクリーンで見るのは貴重な機会だったと思います(ただやはりテレビ向きの映像だったかも…)。
トリュフォーも映画化した本が禁止された世界を描いたレイ・ブラットベリの有名な小説が原作。そのテーマはこの現代でも色褪せないものだとは思います が、インターネットの時代にあわせての改変がちょっと中途半端で残念でした。(K)
『エルサレムの路面電車』アモス・ギタイ監督(中央)
『エルサレムの路面電車』『ガザの友人への手紙』アモス・ギタイ監督
イスラエルには多様な民族が住んでいる。
そんな状況をエルサレムの町を走る路面電車を舞台に浮き彫りにしようとするオムニバス風スケッチ集といった赴きの『エルサレムの路面電車』。
アイデアがいいですね。路面電車から見た町並みや路面電車が走る風景がずっと見れるのもよかった。
映画と電車は相性がいいんだと思います。
併映の『ガザの友人への手紙』はひたすら俳優が手紙を読み上げる朗読劇で字幕で見ているのはちょっと辛かったです。(K)
『盗馬賊』ティン・チュアンチュアン監督
貧しさから馬泥棒になった男の末路。
現在中国では旧作のデジタル化が進められているようです。
この映画も1986年の作品ですが4Kスキャンと修復によりまるで新作のような高画質になっています。
ただこのデジタル版はオリジナルのチベット語ではなく中国語に吹き替え。
しかもセリフの一部を変更しているとのこと。
監督は中国人ですがこの映画にはチベット人しか出てこないし時代設定も1920年代で中国になる前。
あくまでもチベット人の価値観に基づいた話。
オリジナルに忠実な復元でなければリマスターの意味がないのでは…
政権に合わせたものなのか…中国の方針に疑問がわきます。
ただ今回の上映の日本語字幕は最初の日本公開時と同じにしてあるということで吹き替えの違和感を別にすればもともとの映画に近い形で観賞できていたことはとてもよかったと思います。(K)
『あなたの顔』ツァイ・ミンリャン監督
商業映画からの引退を宣言したツァイ・ミンリャン監督ですが制作意欲はまったく衰えないようで毎年フィルメックスで新作が上映されてます。
今年の作品は監督が見つけてきた老人たちの顔をひたすらカメラが撮り続ける映画。
監督の「顔」に対する偏愛は伝わってきますがさすがにそれだけでは持たないようでインタビューしたりして構成に気を配っています。
大惨事になりかねないところを最後はお馴染みリー・カーションで締めてまとめあげてしまうのも見事だったと思います。
これからも制約のない作品づくりを続けて欲しいものです。(K)
『自由行』イン・リャン監督
政治的な映画を撮影したことで中国に住むことができなくなり、現在は香港に住んでいる応亮監督の実体験をもとにした映画ですが、主人公を女性に変えるなどあくまでも現実と一定の距離感を保っており、努めて客観的に作られているように感じました。
日本でも何かと話題になる中国の政治体制ですが、その中で生きる人々を映画に撮るという行為は、こんなにも難しいものなのかと考えさせられます。
中国のみならず、監督の居住地としての香港、家族の再開の場である台湾も重要な場所として描かれます。
急速に台頭する中国と、近隣の地域は今後どうなっていくのでしょうか、そして翻って日本はどうなのかと考えずにはいられません。(H)
中国政府を批判した作品を発表したために香港にずっと滞在することになった女性監督が旅行を名目に中国を出国した母親と台湾でつかの間の再会を果たすというストーリー。
主人公の置かれた境遇はもろにインリャン監督そのまま。
実際にこんなような嫌がらせを受けてるんだろうなと思わせるリアルな描写の数々。
こんなひどい人権侵害が平然と行われている中でさらにこうした映画を作る勇気に感服しました。
しかもいままでのイン・リャン作品に比べかなりメジャー感があるし普遍的な家族愛の物語になっていて映画としてのできも素晴らしいものだったと思います。
今年のフィルメックスはこの作品が最終上映。
それにふさわしい作品だったと思います。(K)
そのほか、連携企画「インディペンデント映画と公的支援~日本の映画行政について考える~」というシンポジウムに参加しましたが今年のフィルメックスにふさわしいテーマで、興味深い意見が聞けました。
今年は開催が危ぶまれたりしたものの始まってみれば充実のラインナップ。商業主義や国の意向などに左右されることがないぶん、決まってしまえばいつも通りのフィルメックスでした。来年がまた楽しみです。(K)