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考古学で現代を見る

考古学で現代を見る

 エイプリルフールの夜、鳥取を引き上げてきた社長にイスパニアのお土産を手渡した。ピカソ美術館で手に入れたカフェ「クアトロ・ガッツ(4匹の猫)」のポスターである。クアトロ・ガッツは青年時代のピカソが足繁く通ったカフェだが、130年以上前に閉店した。今のお店は、1980年代にクアトロ・ガッツを再現したものである。
 ピカソ美術館でピカソの絵を堪能して思うに、この大芸術家の作品は、時代に即して作風を大きく変えているけれども、どの時代の作品であれ、見る者に勇気を与えてくれる。生きる力を絵画から吸収できる。たまたま催されていた特別展「ダリとピカソ」もみた。ダリは病気ですね。精神の均衡をあきらかに失っている。そこが良いのかもしれないが、少なくとも、作品をみた私は憂鬱になり、三半規管と神経のバランスを失いそうになった。
 対して、ピカソの絵にはポジティブな力がある。未来に向かって歩んでいこうというエネルギーを感じるだけでなく、見る者の気持ちが前向きになる。どんな媒体であれ、こういう作品を残したいものだ。社長にもそういう建築設計をしてもらいたい。

 帰国後、年度末報告書の大量のゲラを始末させながら、『考古学で現代を見る』を少しずつ読み進めている。出国前にお贈りいただいたのだが、いろいろ考えたあげく、スーツケースにはいれないことにした。私の場合、旅先でなくしてしまう危険性が十分すぎるほどあるからだ。
 本書は書き下ろしではなくて、さまざまな媒体に書かれた随想のオムニバスだが、どの小篇を読んでも作者の感覚の鋭さと知識の深さに圧倒される。こうした大きなスケールで「考古学」という学問領域を語れる人材は作者以外にいないであろう。とても読みやすい本であり、考古学・文化財関係者にとどまらず、多くの方に読んでいただきたい。

 あくまで個人的な感覚でしかないのだが、20世紀終盤の「文化」が21世紀の「環境」に入れ替わる時代にわたしたちは生きていて、わたし個人は「環境」大学に所属しているが、今でも「文化」もしくは「文化財」の研究者であることにややとまどいを覚え始めている。最近どういうわけか、「文化」は右翼的で、「環境」は左翼的だと考えることがある。どちらに対しても愛着や興味はもちろんあるのだけれども、正直なところ、辟易としている自分もいる。このことについては、いずれ稿を改めて書く機会があるかもしれないし、ないかもしれない。わたしの駄文などどうでもよくて、『考古学で現代を見る』を一読すれば、少なくとも文化財の抱える社会的・国際的課題が十分見通せるだろう。
 作者による次の一作を心から期待して已まない。

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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