「思い出の摩尼」トークセッションの記録(5)
門前町への脱皮
浜田 摩尼山には本当にすばらしい場所、風景、文化がたくさんあるのですが、人が来ないことには魅力に気づいてもらえません。まずは人が集まる工夫をしないといけない。何かできることがあるでしょうか。
浅川 景勝地トライアングルの中継点に摩尼寺と摩尼山門前があるわけですが、残念ながら、トレッキング客などが休憩し滞留できるところがほとんどありません。それが現状です。しかも、市街地や砂丘に近いにもかかわらず、公共交通手段がない。トライアングルの中心にありながら、中継点として機能していない。これについて、建築的な解決法を考えたことがあるので、紹介させていただきます。門前のお茶屋さん2軒は精進料理の老舗で、その料理の質が高いことはだれもが認めることでしょう。ただ、山歩きする人にとっては、その格式が敷居を高くしてしまっています。お値段も安いとは言えません。いまたいそう人気があるトレッキングの愛好者をどのようにしてつかまえるか、なんですね。
まず空間的に門前をみると、ほとんどがお茶屋さんの駐車場です。喫茶店が1軒ありますが常連客以外はあまり入っていない。この閉鎖的な空間構成のために人が気楽に休めて滞留できる場所がなくなっています。
わたしたちは今の茶屋1階駐車場を「道の駅」のような施設に変えようと提案しています。その施設にはトイレ・給水施設を配備し、自動販売機と休憩テーブルも置きます。可能ならば、カフェや蕎麦屋さんなんかも経営したい。少なくとも、土産物販売、野菜市などをおこなえるオープンスペースを確保します。もちろん山歩きに係わる情報センターでもあり、各種パンフやルートマップなども提供します。こうした多目的施設を設けることで、参拝者・登山客の動線が大きく変わります。いまは参道に行って帰るだけの直線的な動線ですが、「道の駅」のようなオープン施設を導入することで、動線がぐらぐら揺れ動く。人が滞留したり休憩する時間が長くなって、お店の品物が売れやすくなる。そういう考え方です。
あとは茶屋の前に雁木(がんぎ)を通したい。日本海側の豪雪地帯ではアーケードように雁木を通して雪よけ、雨よけとする地域がかなりあります。雁木をつくるとなかなか見栄えも良くなります。雁木をつけると鉄骨構造の建物も和風建築っぽくみえます。結果、門前町風の風情が増していくのです。ここで、ちょっと結論めいたことを言うと、こうして今の茶屋をいろいろ変えていこうという発想も必要なんですが、さきほど会場の方が発言されたように、新しい客層を見込んだ新規の店舗も欲しいと思うんです。地元の山菜やキノコを取り入れたハンバーガーとか、清流コーヒーとか、若者向けのアクセサリを中心とする雑貨店なんかに新規参入してもらえないものでしょうか。そうすることで、「門前の茶屋」は「門前町」へ脱皮していくはずです。伊勢のお陰横丁には届きませんが、ミニ門前町に成長すれば、トライアングルの中継点として有効に機能し始めるだろうと思う次第です。
棚橋 温泉なんてどうですか。
浅川 温泉はボーリング代が高くつくでしょ。摩尼川の渓流に温泉が湧いいていたりすると、風情があって良いんですが。そうだ、渓流の野鳥はマニアに受けるかもしれません。
浜田 これからたくさんの人に摩尼山を訪問していただくためには、門前活性化に向けての取り組みを真剣に考えていかなければなりませんね。そのスタート地点に今立っているのかなという気がしてきました。
わたしたちに何ができるか
浜田 まだまだ話が尽きないのですけれども、そろそろよい時間になってきました。今日のトークセッションでは摩尼寺境内の建造物に始まりまして、「奥の院」の調査のこと、摩尼山の壮大な文化遺産と自然遺産、景勝地トライアングルと門前活性化の構想をお話しいただきました。この山をどう保全しつつ活用していくのか、とくに活用、楽しみ方の視点でいろいろとアイデアをいただきました。文化遺産を守り、伝えていくためには、その価値をどうやって多くの人と共有していくのかが大事なわけですが、その価値に気づいていただくためには、まずはここに来ていただいて、自分たち自身で山とお寺の魅力を感じることが重要です。その方法の一つが、今日、浅川先生からお伺いした景勝地トライアングルではないかなと思うわけです。まだまだたくさんのことをお伺いしたいと思いますけれども、最後に、浅川先生、今日のセッションをまとめて一言お願いいたします。
浅川 今回、摩尼寺の本堂・鐘楼・山門の3棟が国の登録文化財に答申されました。6年間の調査研究の一つのゴールのようにもみえますが、じつは一里塚でしかありません。先ほど述べたように、目標は史跡・名勝指定から山陰海岸国立公園への編入でして、これから庫裏の指定、山頂巨巌域の登録記念物申請などを一歩一歩進めていかなければなりません。みなさまの御支援をお願いする次第です。
浜田 ありがとうございました。柵橋さん、最後に一言何かありますか。
棚橋 私は楽器を弾く仕事をしているので、全国各地いろんな県を回って演奏するのですけれども、そのいろんな県をみてくる中で、やっぱり鳥取ってすごくいいところだなと改めていつも思います。山はあるし、すぐ海にも行けるし、県西部には大山があって中部には三徳山がある。となると、東部の代表的な山として、これからどんどん摩尼山をアピールしていかなきゃならんいんじゃないかと思います。浅川先生、私たち、今日来てくださっているお客様も含めてですけれども、摩尼寺とか摩尼山が発展していくために、どのようなことが第一歩としてできるのかな、ということがわからないのですが。
浅川 (少し考えつつ)第一歩はお賽銭ですね、それはもう。(笑)
棚橋 なるほど。それがないとお寺と山の復興は始まらない。よくわかりました。ありがとうございます。
浜田 とにかく何か行動を起こさないと何も始まらないので、いま柵橋さんのお話にもありましたけれども、何かやるというところからスタートしてまいりたいなと思います。みなさんにはぜひ、摩尼山のこと、広く考えると鳥取市のこと、さらに鳥取県のことをもっとたくさん知っていただきたいと思います。もし機会があったら、宣伝ですが、私が勤めています「むきばんだ史跡公園」にもお越しください。「弥生の村」を感じに遊びに来ていただければと思います。それでは、トークセッションはこれで終わりにさせていただきたいと思います。
閉会のことば
浜田 最後に、本日のイベント「思い出の摩尼」を主催された摩尼寺世話人代表の門脇秀樹様に閉会の言葉をいただきたいと思います。よろしくお願いします。
門脇 どうも今日はありがとうございました。私、摩尼寺保存会の世話人をさせていただいている門脇でございます。石段の下で茶屋もやっています。この摩尼寺というのは、昔から因幡一の霊場で、因幡のすべての民の魂がここに集まってから死出の旅に立たれると言われているお寺です。最近は参拝される方もだんだん減ってきまして大変寂しく思っておりましたが、この7月に摩尼寺本堂・山門・鐘楼が国の登録有形文化財に答申されました。それを聞いて、非常に喜びを感じた次第です。今後も摩尼寺を大切にしていかなければという思いを抱きまして、浅川先生の方から保存会がないといけないのではないかというアドバイスを何度か受けまして、保存会を発起しました。まだ生まれて間もないですが、有志何名かで保存会を設立したのですが、まだまだ会員が少なくて、一人でも多くこの会に入っていただきたいなと思っています。
急な思いつきでこの企画をやらせていただきました。出演いただきましたトリ・アンデス様、棚橋恭子様、浜田竜彦様を始め、鳥取環境大学、浅川研究室のみなさまにも御協力を仰ぎ、御支援をいただき、盛会のうちに終了できそうです。今日はちょっと寒い日でしたが、ご参加いただきましてありがとうございます。
今回の催しを通しまして、改めて、摩尼寺がみなさんの心の中に深く溶け込んでいることを感じました。今後も機会あるごとに摩尼寺を活かす活動をしていく所存です。どうか引き続きご支援、ご協力をいただきますことをお願いしまして、閉会のご挨拶とさせていただきます。
本日は、まことにありがとうございました。(拍手) 【完】記録整理: ココア