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紅葉

01鎌倉紅葉01


 伊豆の高校で出前講義を終え控え室に戻ると、他校の先生方がすでに帰り仕度を始めていた。小田原、甲府、静岡から来られた3先生で、いずれも女性である。甲府の先生に「山梨県出身の学生2名が身近にいる」ことを伝え、イッポの父上(探検家)の名前を出したのだが、「知りません」とのこと。そのあと名刺をみなおすと、静岡の先生はイッポが昨年所属していたT大学海洋学部の教授だった。
 高校生は自分の県に居たくないんですね、という話題で、全員一笑。私はふうふう息をあげて、ペットボトルのお茶を飲んでいた。疲れていることを喝破されたのだろう、

  「今夜は●●温泉ででも、ごゆっくりされんるんですか?」

とだれかに問われ、即座に「いや神奈川に移動して、明日は鎌倉です」と答えると、みんな目をまるくして

  「わぁぁぁ、紅葉が綺麗ですよぉ・・・」

と羨ましいご様子。べつに紅葉が目的ではないのだが、あれっそうですか、という顔をしてみせた。そしてまもなく3先生はタクシーで帰途につき、少し遅れて私一人川沿いの道を歩いて伊豆長岡駅に向かった。


01鎌倉紅葉02


 鎌倉の紅葉はたしかに見事だったが、人の多さに辟易した。田舎者の本性まるだしである。若いころ修学院離宮を訪れた際、いちどめは人が少なく、その静寂に心打たれたが、二度目は人の多さに魘された。今回の鎌倉は後者のパターンである。また、紅葉の質もちがう。落葉広葉樹の色づく自然の紅葉に慣れ親しんでいる者にとってみれば、鎌倉禅林を彩るモミジの紅とイチョウの黄は白粉(おしろい)に塗られた化粧のようで、夜のライトアップに似つかわしいと思った。夜の蝶~~
 交通手段も失敗した。いつものように安価なレンタカーを乗り回して、できるだけたくさんの景勝地を訪れようとしたのだが、渋滞で車は動かないし、駐車場は1時間600円もする。九州や四国で威力を発揮するレンタカーが機能不全に陥った。北鎌倉駅まで電車で来て荷物をコインロッカーに預け、ただ歩き回れば良かった。それが体にもよいし、鎌倉の正しい訪れ方なのだと思う。


02鎌倉ヤグラ06

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02鎌倉ヤグラ01 02鎌倉ヤグラ02縦


 建築史の分野で鎌倉といえば禅宗様寺院だが、今回の訪問目的は「ヤグラ」である。櫓ではない。禅宗寺院に附属する横穴墓のことである。Lablogでは、松島の瑞巌寺に展開する壮大なヤグラ群を紹介したことがある。
 鎌倉はヤグラの本場であり、円覚寺や建長寺の境内はもちろんのこと、明月院周辺のハイキング路沿いの岩壁にも数多くの横穴を確認できる。しかし、今も「墓」として機能する遺構はみあたらなかった。空洞となったヤグラが大半で、仏像を祀る横穴が例外的にある。ヤグラは横穴墓の段階から仏像を安置しているので、その仏像だけが残存したのかもしれないし、後代になって空洞化した横穴に仏を据えたのかもしれない。いずれにしても、瑞巌寺のヤグラ群には如かない。迫力が足りない。さらにまた、密教系山林寺院の岩窟型仏堂とは系統を異にする点、確信できた。

 鎌倉もまた世界遺産の暫定リストに搭載されている。いつものごとく失礼ながら・・・苦しいのではないだろうか。奈良・京都と鎌倉には(質的に)大きな隔たりがある。そう感じている専門家が少なくないような気がする。


02鎌倉ヤグラ03

02鎌倉ヤグラ05

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No title

はじめまして。
鎌倉の近隣に住んでいる者ですが、私も最近矢倉の存在を知り、興味があるので調べています。確かに京都や奈良と比べると、鎌倉は(天皇が遷座しなかったand地震や戦災で過去に被害にあっている為、古い建物が少ないからでしょうか)寺院等の規模やインパクトは小さいかもしれませんが、ハイキングして鎌倉の周りの自然を巡っていると、やはり鎌倉は奥が深い場所だと思います。釈迦堂切通しや報国寺の庭のやぐらを見ていると、鎌倉は京都や奈良とは一味違った自然との一体感によって文化を育んできた事に気づかされました。私個人としては無理に鎌倉を世界遺産にする事には疑問を感じていますが、鎌倉を訪れてくださる方々には、じっくり見て回って鎌倉の良さ戴きたいと思っています。

イレインさんへ御礼

コメント、ありがとうございます。
鎌倉は仰るとおり素晴らしいところだと思います。ただ、円覚寺舎利殿ひとつとってみても、関東大震災で完全に崩壊しており、今の舎利殿は昭和の遺産であるという現実もあります。このあたりは評定に大きく影響したでしょうね。抑も世界遺産などと関わるから、こういうことになってしまうわけで、余計な下心さえなければ傷つく人はいなかった・・・
イコモスやユネスコの側からみれば、平泉で十分警告を与えたはずなのに、まだ日本政府はわからないのか、ということで、鎌倉を見せしめにしたのではないでしょうか。富岡製糸工場、飛鳥藤原京、東北の縄文遺跡群が鎌倉と同じ俎板にのることになるのでしょうが、はたして文化庁はもう一度煮え湯を飲みたいのか否か・・・鎌倉を機に根本的な見直しを迫られているように思うのですがね。
繰り返しますが、鎌倉は素晴らしい景勝地です、間違いなく。
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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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