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平成26年度鳥取県環境学術研究振興事業に係る普及・活用調査

 研究課題名 :  近世木造建造物の科学的年代測定に関する基礎的研究
 研究期間:  平成26年度
 学校名・学部学科名・職名・研究者名 : 公立鳥取環境大学・環境情報学部・建築・環境デザイン学科
      非常勤職員・宮本正崇 (代筆 浅川滋男)

研究成果の活用状況と今後の課題・展開等

 これまで建築年代が不透明であった中近世の木造建造物を対象にして、科学的年代測定の手法から創建・再建等の年代を解き明かそうとする研究である。ここにいう科学的年代測定とは、①(年輪幅による)年輪年代測定法と②放射性炭素年代測定法が従来よく知られてきた。しかし、両者には一長一短があり、その欠点を補うものとして最近、③酸素同位対比年輪年代測定法が普及し始めている。しかしながら、③についてもメディア等で報道されている「輪数50以上、樹種不問、短期安価」などの好条件は今のところ将来の理想的状況を示すものでしかなく、現実とは乖離している。とりわけ山陰地方のような雨雪の多い日本海側では、根雪の水分が土壌に浸透し年輪の組成に大きく影響するため、東海・近畿のデータに基づいて構築された標準変動グラフの適用が難しく、年代が特定できないサンプル分析があいついだ(2014年)。さらにまた、インパクト・ドライバーにドリルを装着した年輪サンプル採取方法は対象物に大きな孔をあけるので、美術品などの文化財の年代測定に不向きであることも明らかになった。
 一方、従来は誤差が大きいということで歴史考古学・建築史学の対象には不向きであるとされてきた②放射性炭素年代測定法は軽微な破壊分析であり、近年、加速器質量分析法(AMS)やウイグルマッチ法(樹輪暦年較正)の開発・発展により著しく精度を高めている。研究助成採択の2014年度においても、倉吉市の長谷寺本堂では柱材2点(1401-1439calAD、1351-13999calAD)と転用巻斗(1287-1331calAD)、米子市の八幡神社では幣拝殿境の蟇股(1036-1080calAD)など特筆すべき成果がもたらされた。米子八幡神社の蟇股については、宇治上神社本殿(京都)に次ぐ日本で2番目に古い刳抜蟇股の可能性が浮上した。さらに八幡神社の神像類については、立膝女神像のAMS測定年代では、立膝女神像2点の年代が862-973 cal AD、860-973 cal ADという驚くべき年代を示した。この結果をうけて、米子市は八幡神社の神像を市の文化財に指定した(2015年12月)。


 助成研究終了後(2015~2016年)も②放射性炭素年代測定により続々と重要な成果がもたらされている。

 (1)大雲院本堂柱材など:  大雲院は鳥取東照宮の別当寺として藩政期には最高の格式を誇ったが、明治の神仏分離令により立川の末寺「霊光院」に境内を移した。現在の本堂は霊光院本堂を受け継いだものであり、享保六年(1721)の棟札を残す。この年代を確認するため、内陣の面取角柱1本(辺材型)をウィグルマッチで測定したところ、1670-1686 cal ADの結果を得た。伐採年代は1695~1705年ころと推定され、享保六年(1721)の棟札年代に整合する。この結果、大雲院本堂は鳥取東照宮本殿・幣拝殿(1650)に次ぐ市内で2番目に古い建造物であることが明らかになった。このほか、鳥取城跡で出土した車井戸矢板などでサンプルを採取し、年代測定中である。
 (2)ブータンの仏教僧院本堂など:  放射性炭素年代測定は海外でも応用可能なところが強みである。ここ5年連続してブータンを訪問し、多くの僧院の建築部材から年輪サンプルを採取してきている。とくに注目すべきは、吐蕃の王ソンツェンガンポが7世紀に創建したと伝承されるジャンバラカン(ブンタン)本堂内陣の2本柱(のうちの1本)がAMS測定で1632-1666 cal AD(信頼限界74.4%)を示したことである。ブータン仏教草創期の7~8世紀ではなく、国家形成期(17世紀以降)を示した点に驚きを禁じえないが、現状では創建年代ではなく、再建年代を示すものとして理解している。今年の第5次調査(2016)から木材だけではなく、建物を囲む版築壁(厚さ1m以上)に注目している。ブータン僧院の修復では頻繁に木造部材の交換がなされるのに対して、版築壁は表面の塗り替えが繰り返されるものの、中心部は当初の状態を維持している。しかも、版築の土はスサ(藁)を包含している。稲・麦は一年生の植物であるから、藁は木材の最外年輪に相当するものであり、版築壁の築成年代を反映している。2016年夏には、ツァルイ寺(ティンプー)の仏堂廃墟とシャバ村(パロ)の民家廃墟で壁土サンプルを採取し、スサ・木片を検出した。現在、その年代を測定中である。

 以上のように、研究助成期に注目した③酸素同位体比年輪年代測定については、とりわけ山陰地方の中近世文化財に適用するのは難しいのに対して、②放射性炭素年代測定については誤差が少なくなり、国内外での適用が可能であり、今後も積極的に活用し、新たな成果をもたらしたい。とりわけ壁土内部のスサ(藁)を対象とした年代測定はこれまでまったく注目されなかった視点であり、大きく前進させたいと願っている。

要望事項

 酸素同位体比年輪年代測定を山陰地方で活用できるようにするためには、県教委が年代の異なるサンプルを地球研に数多く送付し、年輪データを積み重ねるしかないでしょう。日本海側では秋田や北陸で成果があがってきており、山陰は唯一取り残された地域になりつつあります。これを解消する課題は、わたし個人の責務というより、県の文化財関係者全体の責務であると考えています。

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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