サテンドール(ⅩⅥ)-2
続・サテンドール
バラードを1曲弾き終えて席に戻る途中、マダムが「ジャズですか」と問う。
「いえ、ビートルズ・・・」
「それは分かってますけど・・・(アレンジが)?」
恥ずかしながら、パット・メセニーのコピーでしてね。耳コピというよりも、youtubeコピだね。タブの類はいっさい使ってません。とても弾きやすいアーチトップだ。なんでも、ハワイアンをやっていた友人から譲りうけたギターだという。ヘッドに Kay の3文字がみえる。いま調べてみたところ、日本エレクトロ・ハーモニックス株式会社の制作するエレキギターで、1950~60年代のロックバンドで多用されていたようである。ところが、手にしたギターにはピックアップがついていない。今まさに、マスター自らピックアップを制作し、ボディにくっつけようとしているところらしい。
前菜を食べ始めると、今度はステージの前にマスターがやってきた。話が弾む。「マスターもどうぞ1曲」とお薦めすると、待ってましたとばかり、アコギをとってマイクの前に坐り、2曲続けて弾き語りしてくれた。すごい声量をしている。ポール・アンカのクラシックなロカビリーを見事に歌いきった。ギターは始めてまだ数年なんだそうだが、弾き語りの伴奏としては十分な力量をもっている。
2曲を歌い終えたマスターは厨房に戻り、しばらくして私のニジマスがムニエルになって食卓にあらわれた。とても美味しい。体にやさしい味がする。生まれてきてよかった。学生にも食べさせてあげたい・・・が、少々値が張る。学生向けバージョンを用意してくれませんか、と頼むと、「相談に応じます」とのこと。「ここをギター仲間の集まりに使わせていただけますか、貸し切りなら高いでしょうが」という問いにも、「相談に応じます」。
サテンドールはもともと鳥取市内にあった洋食の老舗である。湯所から緑が丘に店を遷し、マスターが還暦前にいろいろあって、関金に店を構えることになった。いちばんの問題はマダムの病気だったそうだが、気候のよいこの地に移り住んで完治したという。驚いたことに、マスターはブラック・キャッツというバンドを組んで、日の丸温泉2階の「アフターアワーズ」にライブ出演していた時期があり、いつも客席は満席だったそうだ。もちろん今のサテンドールでもライブをしている。プロも呼んでいる。来たる6月6日には「キッスは目にして!」のコニーさん(元ザ・ヴィーナス)のアコースティック・ライブを企画している。要するに、こういうオールディズが趣味なんだな。
デザート&珈琲のあいだにマスターはもう1曲披露してくれた。当然、こちらも腕が疼く。アコギを拝借し、スタレビの「ふたり」を歌った。
山香の郷の洋食屋「サテンドール」
倉吉市関金町堀1748-2(今西上バス停前)
℡ 0858-45-1603
山香の郷には大山連峰を望む素晴らしい風景と食材があった。還暦前に挫折を体験したというご夫婦はこの地で再生し新たな活動を続けている。西谷新田や板井原、あるいはまた西岡京治のことが思い浮かぶ。見習わなければいけない。