第3回「めざせ、ブータン!」其弐
もののけ姫の森
4月25日、私たちは福部町粟谷にある坂谷神社社叢を訪れた。ここに、ブータンとどのような関連があるのか。まずは、坂谷神社社叢の概要を記載する。
坂谷神社社叢は、立岩山から派生した尾根の南向き斜面に開けた標高約30m~100mに生い茂る社叢林である。社叢林とは、日本において神社に付随して参道や拝所を囲むように設定・維持されている森林のことである。この坂谷神社社叢の特徴は、スダジイ林を主体とする大規模な照葉樹林であることだ。参道となっている石段の両側は、高木層にスダジイが最も多く、シラカシ・ウラジロガシ・タブノキが混じった優れたシイ林であり、さらに石段を登った巨岩が点在する付近には、ケヤキの大木が多く、亜高木層に多いヤブツバキにも、珍しい大型のものが混じるようになる。クリハラン等の南方系のシダ植物も自生しており、分布上貴重な植物が多く確認されている。この社叢は、鳥取県東部のシイ林を主体としたものの中では大規模で、貴重なものであり、県の天然記念物に指定されている。
坂谷神社と巨岩
苔がびっしり生えた急な長い石段を登ると、落ち葉が敷き詰められた平地に着いた。石段の両側にはシイ林だったそうだが、私には周りを見る余裕はなく、目の前の石段を登ることに全神経を使った。目に飛び込んできたのは、点在する巨岩だ。少し進むと坂谷神社に着いた。本殿の上に巨岩が左右から重なりあって岩陰がある。自然にできた岩陰である。岩陰にはひっそりと本殿が鎮座していた。私は巨岩が落ちてくるのではないかと不安になり、岩陰に入るのをためらったのだが、教授はあっさりと岩陰に入り、巨岩と坂谷神社の説明を始めた。教授によると、その巨岩は古い磐座(いわくら)信仰の対象であろうとい。磐座は神が宿る巨岩であり、古代人はあらゆる自然物にカミが宿っていたと考える自然物崇拝として、それを恐れ敬った。その後、おそらく江戸時代ごろに巨岩下に神道信仰として神社本殿が作られた、というのが教授の考えである。岩陰はひんやりしており、神が降りてくる神聖な空気を感じることができた。
照葉樹林の空間
岩陰に入り、重なりあった巨岩の間から上に登ると、見上げると首が痛くなるほどのスダジイの巨木や、ヤブツバキなどの照葉樹林の空間が広がっていた。点々とある巨岩に樹根や枝が巻きついている様は時代が分からなくなるほど神秘的で、まるで「もののけ姫」の世界のようだと感じた。人間の手が入っていない山は荒々しく、気高くさえあった。私たちは急斜面に手間取りつつも、そこで照葉樹林の調査を各自で行った。照葉樹林の特徴であるつやつやした葉を求め、照葉樹の葉を採取した。
今回のフィールド演習では自然物信仰と神仏崇拝の融合した文化を学び、何より社叢林としての照葉樹林に触れることができた。照葉樹林帯はヒマラヤ山脈の麓(現ブータン周辺)を起点として中国南西部を経て日本に至るまでベルト状に分布していたそうだ。当初の目的であった、ブータンと日本の植生のつながりを感じることができたと思う。ここからブータンの生活文化などを知る足がかりになればいいと思った。(環境学科2年F.A)