2018人間環境実習・演習B中間発表会(4)
第1章「宗教の革新」概要
能海寛は『世界に於ける仏教徒』第1章において、明治維新後の世界ほど宗教大変動の時代はなく、その証拠として、西洋における宗教思想の変化を述べています。この変化について能海は大きく以下の3点を指摘しています。
1.キリスト教の衰退 2.仏教を嗜好する欧米の知識人たち 3.新仏教徒の必要性
能海はキリスト教信仰が衰える中、欧米の知識人たちが如何に仏教に傾倒しているかを説明するため、以下のような多くの人物の活動を紹介しています。
ドイツの神智学協会会員 フランシスカ・アラーンデル
ドイツの哲学者 アルトゥル・ショウペンハウエル
フィリピン・ルソン島アメリカ領事 アレキサンダー・ラッセル・ウェッブ
アメリカの神智学協会創設者 ヘンリー・スティール・オルコット
アイルランドのジョンストン嬢
イギリスのジャーナリスト・詩人 エドウィン・アーノルド
ドイツのインド学・サンスクリット学・東洋学者 フリードリヒ・マックスミュラー
第1章の口語訳の実例を示しながら、能海の主張をトレースしてみましょう。まず能海は、数千年続いたキリスト教の信仰がようやく衰えてきたと述べており、本文中において当時のキリスト教を傍線部(↑)のように述べています。
【原文】漢文読み下し調の文語体
西洋におけるキリスト教は哲学に捨てられ、理学と争い、歴史を汚し、欧米の天地もまた
キリスト教を容るる余地なく政界の手段として習慣人情よりしてわずかに無識者婦女子の
維持する所たる。
【口語訳】
西洋におけるキリスト教は哲学に捨てられ、科学と争って歴史を汚しました。欧米の世界
もキリスト教を受け入れる余地はなく、政治世界の手段として、習慣や人情に頼って、
わずかに無識層・婦女子のみが維持するところとなってしまいました。
欧米での仏教の広まりについては傍線部(↑)のように述べています。ここも読んでみましょう。
【原文】漢文読み下し調の文語体
すでに仏教雑誌を発刊し自ら仏教徒と称する者数万人の多きに達し、遠路を踏みて自ら
東洋に仏法を求むるあり。あるいは仏教の伝教師を派遣せられんことを切望する者続々
輩出するに至れり。
【口語訳】
(欧米では)すでに『仏教雑誌』を出版しており、仏教徒だと自称する者は数万人の多さ
に達し、遠路はるばる東洋にやってきて仏法を学ぼうとする者もいます。あるいは仏教の
伝教師を派遣してほしいと望む者が次々と出てくるようになりました。