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平成27年度終了鳥取県環境学術研究振興事業の成果評価

 研究課題名 : 倉吉打吹山麓の歴史的風致に関する総合調査
            -「歴史まちづくり法」による広域的景観保全計画にむけて―
 研究期間: 平成25~27年度
 学校・学部学科・職・研究者 : 公立鳥取環境大学・環境学部・環境学科・教授・浅川滋男


研究成果

 初年度は長谷寺の建造物、2年度は河原町・鍛治町2丁目の町並みと地蔵盆、3年度は小鴨川外周域にひろがる伯耆国庁跡などの史跡群と周辺農村の文化的景観についておもに調査してきた。そのなかでもとくに力を注いだのが、河原町・鍛治町2丁目の町並み保全と歴史的風致に係わる調査研究である。本研究の主題である「歴史的風致」とは、歴史まちづくり法によって「建造物・町並みなどの有形文化財と祭礼・年中行事などの無形文化財が融合したまちの風情」と定義されている。河原町・鍛治町2丁目では両町の境にあたる五叉路の辻(余白)に地蔵が安置され、歴史的建造物群に囲まれたスペースで毎年4回の地蔵祭が開催されている。まさに「有形と無形の文化財が融合した」場所として注目に値しよう。
 本研究では、こうした地蔵祭の舞台となる五叉路を中心とした河原町・鍛冶町2丁目の町並みの調査を継続して進めるとともに、現地の施設を会場として「れきまち研究会」を5回開催した。それらの成果として2冊の報告書(『倉吉の歴史まちづくり』Ⅰ・Ⅱ)を刊行している。そのなかで最も重要な構想は「打吹鉢屋川重要伝統的建造物保存地区」の新規選定である。「打吹玉川地区」の付属としてではなく、独立した新規の重伝建地区が必要だという考えかたをそこで提案している。打吹玉川地区が旧内濠(玉川)に沿う旧陣屋町の中心部であるのに対して、打吹鉢屋川地区は八橋往来の西端にあたる町外れであり、外濠(鉢屋川)の恵みに育まれた半農半商的エリアである。町はずれであるが故、江戸時代以来の茅葺き屋根を継承する民家や小振りの長屋群も少なくない。これらの小規模住宅は現在、存続の危機に瀕しており、重伝建選定で救うのが最も望ましいと考えられる。倉吉市教育委員会文化財課も、2015年12月21日の第2回れきまち研究会で「重伝建地区を推薦します」と大勢の地域住民の前で宣言し、その後、同年4月には住民対象の説明会を開催した。また、2014年度より始動した中心市街地活性化計画でも旧市街地に重伝建地区を増やすことを提言しており、わたしたちの構想と行政の思惑が一致したと喜んでいた。



残された課題

 ところが、事態は急変する。河原町周辺の町並みのもう一つの核である「旧小川酒造」が2015年4月に登録文化財から県の保護文化財に格上げ指定され、同年11月には一般財団法人「小川記念館財団」が設立されて、旧小川酒造の主屋・酒蔵・庭園等が巨額の補助金により総合的に整備されることになったのである(県指定レベルでここまで投資されることは例外的)。しかしながら、その整備構想に地域住民はまったく関与することなく、密室の中で基本計画が進められていった。しかも、小川記念館の整備構想が進展するなかで、市文化財課が喧伝していた新規重伝建構想はまったく棚上げにされ、2016年度になると、小川家が所有し主屋の対面に軒を連ねる5棟の長屋を取り壊す旨、財団と文化財課は住民側(公民館代表)に通知する。これに対して、一部の住民が強く反発し、嘆願書・質問書などの応酬があり、教育長との話し合いももたれたが、事態は膠着状態に陥っている。
 一方、地蔵盆の舞台となる五叉路周辺でも大きな動きがあった。地蔵の背面に建つ旧小倉家住宅の土蔵を取り壊して駐車場にしようという構想が2016年2月に持ち上がり、これを憂慮した「河原町の文化を守る会」有志は所有者を説得して、旧小倉家の主屋と土蔵を登録有形文化財にして活用を図ることを目標に据えることで合意を得た。そして、登録文化財申請の事前調査を浅川研究室が担当し、何度か調査を実施していた矢先、10月21日に鳥取県中部大地震で被災し、土蔵白壁の一部が崩落し屋根瓦がずり落ちて、今は屋根をブルーシートで覆っている。この苦境を救うため、我々は2度の講演会をチャリティとして利用し、被災者への募金を集め、去る11月18日に募金を旧小倉家住宅の所有者に直接手渡した。所有者は地震で土蔵が被災し、一部崩落したことにショックを受けており、協議で合意した「登録有形文化財への申請」に不安を抱き始めている。これからも積極的にチャリティ講演などをおこなって、繰り返し所有者を支援していきたい。
 このように、2015年度の前半までは河原町・鍛冶町2丁目を新規の重要伝統的建造物群保存地区にしようとする動きがみられたにも拘わらず、最近はむしろ小川財団の整備に自治体等の補助金とエネルギーが集中し、新規重伝建構想を断念した感もあり、その動向をめぐって、一部の住民と財団・行政とのあいだに不協和音が目立つようになっている。この状況をよりよい方向に転換させるべく努力したい。

研究成果の効果

 我々は河原町・鍛冶町2丁目を対象にして新規の重伝建地区「打吹鉢屋川重要伝統的建造物群保存地区」の構想を示した。それは、倉吉の「歴史まちづくり」の礎となるものであり、倉吉市が推進している中心市街地活性化の構想とも矛盾しない。そうしたこともあって、2015年春までは倉吉市教委文化財課も新規重伝建構想を住民に喧伝していたが、上に述べたとおり、小川財団の設立から基本計画に至る段階で、新規重伝建構想は事実上放棄され、一部住民との軋轢が増している。
 ここで原点に立ち返るならば、小川財団か重伝建かの二者択一ではなく、両者が共存しうる文化遺産・歴史的景観の整備が求められる。そのためには、小川財団の整備委員会から地域住民を排除するのではなく、「行政(県・市)-財団-地域住民代表」に有識者を加えた3者委員会を立ちあげ、歴史まちづくりのあるべき方向性を協議して定める必要があるだろう。その「歴史まちづくり」こそ、我々が3年間研究し続けた主題であり、これまで刊行した2冊の報告書が今後の歴史的風致の動向に大きく影響を与えるものと確信している。

普及・活用の可能性

 河原町・鍛冶町2丁目の町並みを始めとする倉吉市の歴史的風致は、上記の問題や鳥取県中部地震の影響で混沌としている。こういう時期であるからこそ、「歴史的風致の維持・向上」について冷静に議論し、鳥取県随一の歴史都市「倉吉」を正しい未来に導かなければならない。我々が3年をかけてたどり着いた結論と成果は、歴史都市「倉吉」の未来に対して有益な指針になる可能性を十分秘めている。

要望等

 行政は小川財団ばかり重視せず、地域住民の意見をできるだけ汲み取るようお願いします。バランス感覚のある舵取りを期待しています。


【浅川】2014年度鳥取県環境学術研究費ポスター_01 2015県環パネル(浅川)_01


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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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