鳥取県環境学術研究費 新規採択!
鳥取県環境学術研究費の新規申請が採択されました。環境大学公立化後、採択率が著しく下がっておりましたが、なんとか難関を突破できたようです。「歴史まちづくり法」をテーマとして、倉吉打吹山麓の歴史的風致を向上させるための基礎研究に3年がかりで取り組みます。全県をあげてのご支援をお願い申し上げます。
研究課題名: 倉吉打吹山麓の歴史的風致に関する総合調査
-「歴史まちづくり法」よる広域的景観保全計画にむけて―
課題番号: B1301
研究期間: 平成25~27年度
県助成額: 2,137,000円
(直接経費1,943,000円、間接経費194,000円)
研究課題の必要性:
倉吉は伯耆国府が置かれ、古代から中世にかけて鳥取県中西部の政治・経済・文化の拠点的地域であった。伯耆国庁跡・伯耆国分跡に加えて、国府に関連する官倉「不入岡遺跡」や国分尼寺「法華寺畑遺跡」などが市街地の北西に相接して分布し、市街地の東には山陰を代表する古代寺院「大御堂廃寺跡」が所在する。さらに、打吹山(標高204m)の中腹には奈良時代造営の寺伝を残す長谷寺が境内を構える。打吹山には中世の城跡があり、 14世紀以降、山の北麓に城下町が形成されるが、14世紀以前の打吹山はむしろ信仰の山として、三徳山・摩尼山・大山寺などと類似する性格を有していたのである。
中世の打吹城(山城)は一国一城令(1615)によって廃絶するが、城下町は鳥取藩家老荒尾氏の統括する陣屋町に継承され、木綿・稲扱千歯などの特産品の流通により明治・大正期まで繁栄を続ける。こうした歴史を反映して、県内では最も指定・登録等文化遺産が集中する地区の一つになっている。たとえば、旧陣屋町エリアの一部は国の重要伝統的建造物群保存地区に選定され、上記の諸遺跡(古代国庁等)はいずれも国の史跡に指定され、さらに、長谷寺は懸造の本堂と仁王門が県指定、本尊十一面観音を安置する厨子が国重要文化財指定を受けている。このように、個々の物件は保護の対象となっているものの、それぞれの調査研究が十分なされているわけではなく、遺産相互の連携性も高いとは言えない状況にある。なにより時間の流れとともに高齢化や人口減少が進行し、担い手の不足などから良好な環境(歴史的風致)が大きく損なわれてきている。
こうした課題を克服するため、平成20年(2008)、国交省・農水省・文化庁が共同で「地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律」(いわゆる「歴史まちづくり法」さらに略して「歴まち法」)を制定した。従来の文化財保護法、景観法、都市計画法には一長一短があり、必ずしも地域景観保全の救世主たりえなかったが、「歴まち法」では市町村が申請する「歴史的風致維持向上計画」にあわせて「歴史的環境形成総合支援事業」「街なみ環境整備事業」「まちづくり交付金」「まちづくり計画策定担い手事業」などさまざまな支援を受けることができる。現在、全国で35市町村、中国5県で6市町村が「歴まち法」の認定地となっているが、鳥取県では取組の申請すらしていない。
上に述べたように、倉吉は古代から近代に至るまで各時代の歴史遺産が分布し、それらを連携しあうことで広域的に歴史的風致を向上させる可能性を秘めている。本研究では、打吹山とその山麓の旧陣屋町エリアを中核に据えながら、小鴨川の外周域に散在する古代遺跡群(国史跡)と周辺田園地域をも包含した広域的エリアを対象に、「歴まち法」認定のための基礎資料の整理・分析と「歴史的風致維持向上計画」の叩き台を示そうとするものである。初年度は打吹山に焦点を絞り、古代巨巌信仰と長谷寺の文化資産、山城の遺跡、山麓の文化財建造物についての基礎資料を整えたい。
研究課題名: 倉吉打吹山麓の歴史的風致に関する総合調査
-「歴史まちづくり法」よる広域的景観保全計画にむけて―
課題番号: B1301
研究期間: 平成25~27年度
県助成額: 2,137,000円
(直接経費1,943,000円、間接経費194,000円)
研究課題の必要性:
倉吉は伯耆国府が置かれ、古代から中世にかけて鳥取県中西部の政治・経済・文化の拠点的地域であった。伯耆国庁跡・伯耆国分跡に加えて、国府に関連する官倉「不入岡遺跡」や国分尼寺「法華寺畑遺跡」などが市街地の北西に相接して分布し、市街地の東には山陰を代表する古代寺院「大御堂廃寺跡」が所在する。さらに、打吹山(標高204m)の中腹には奈良時代造営の寺伝を残す長谷寺が境内を構える。打吹山には中世の城跡があり、 14世紀以降、山の北麓に城下町が形成されるが、14世紀以前の打吹山はむしろ信仰の山として、三徳山・摩尼山・大山寺などと類似する性格を有していたのである。
中世の打吹城(山城)は一国一城令(1615)によって廃絶するが、城下町は鳥取藩家老荒尾氏の統括する陣屋町に継承され、木綿・稲扱千歯などの特産品の流通により明治・大正期まで繁栄を続ける。こうした歴史を反映して、県内では最も指定・登録等文化遺産が集中する地区の一つになっている。たとえば、旧陣屋町エリアの一部は国の重要伝統的建造物群保存地区に選定され、上記の諸遺跡(古代国庁等)はいずれも国の史跡に指定され、さらに、長谷寺は懸造の本堂と仁王門が県指定、本尊十一面観音を安置する厨子が国重要文化財指定を受けている。このように、個々の物件は保護の対象となっているものの、それぞれの調査研究が十分なされているわけではなく、遺産相互の連携性も高いとは言えない状況にある。なにより時間の流れとともに高齢化や人口減少が進行し、担い手の不足などから良好な環境(歴史的風致)が大きく損なわれてきている。
こうした課題を克服するため、平成20年(2008)、国交省・農水省・文化庁が共同で「地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律」(いわゆる「歴史まちづくり法」さらに略して「歴まち法」)を制定した。従来の文化財保護法、景観法、都市計画法には一長一短があり、必ずしも地域景観保全の救世主たりえなかったが、「歴まち法」では市町村が申請する「歴史的風致維持向上計画」にあわせて「歴史的環境形成総合支援事業」「街なみ環境整備事業」「まちづくり交付金」「まちづくり計画策定担い手事業」などさまざまな支援を受けることができる。現在、全国で35市町村、中国5県で6市町村が「歴まち法」の認定地となっているが、鳥取県では取組の申請すらしていない。
上に述べたように、倉吉は古代から近代に至るまで各時代の歴史遺産が分布し、それらを連携しあうことで広域的に歴史的風致を向上させる可能性を秘めている。本研究では、打吹山とその山麓の旧陣屋町エリアを中核に据えながら、小鴨川の外周域に散在する古代遺跡群(国史跡)と周辺田園地域をも包含した広域的エリアを対象に、「歴まち法」認定のための基礎資料の整理・分析と「歴史的風致維持向上計画」の叩き台を示そうとするものである。初年度は打吹山に焦点を絞り、古代巨巌信仰と長谷寺の文化資産、山城の遺跡、山麓の文化財建造物についての基礎資料を整えたい。
研究内容: 調査研究は3年計画で進める。
【長谷寺の文化資産に関する調査研究】 初年度はおもに打吹山と長谷寺を中心とする山腹・山麓エリアの文化財を対象として調査研究を進める。中軸となるのは長谷寺の歴史の解明である。長谷寺所蔵の古文書の翻刻を進め沿革をあきらかにすると同時に、長谷寺本堂の建築史学的な調査により本堂の起源と変遷を解明する。本堂は、鎌倉時代の初期、源頼朝の命で佐々木高綱が再建に着手したが、都合により工事が中断したという寺伝や他村から移築されたという伝承があり、これを①本堂背後の巨岩の清掃と撮影、②本堂建築の実測調査、③痕跡調査による復原研究、④本堂部材のAMS法放射性炭素年代測定(ウィグルマッチング)などにより、古文書や伝承との整合性をあきらかにしたい。また、⑤長谷寺奉納の大絵馬と奉納した人々との関連を明確にし、庶民信仰の実態を明らかにする。研究成果については、年度末に報告会を開催し討議する。
【打吹玉川重伝建地区拡張への取組】 2年目は旧陣屋町エリアを対象に調査研究する。 2010年度に旧本通り商店街(新町・西仲町・西町)が重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に追加選定されたものの、選定地は旧陣屋町エリアの約30%にすぎず、その後の追加選定の目途がたっていない。本研究では、歴史的建造物が集中する鍛治町・河原町と東岩倉町・西岩倉町を対象にして、重要建造物の選定と詳細調査をおこなう。平成19・20年度に倉吉市が町並み保存対策見直し調査を実施しているが、今回の調査は個別の特徴がある建物に調査の重点をおき、より町並みの特性を明確にする。また、住民・行政とのフォーラムを継続的に開いて意見交換し、重伝建追加選定の可能性を探る。重伝建が不可能な場合、「歴まち法」の街なみ環境整備事業の適用可能性についても検討する。
【古代遺跡群のネットワーク】 3年目は視野を小鴨川の外周域に広げ、伯耆国府跡を中心とした国庁跡・法華寺畑遺跡・不入岡遺跡・伯耆国分寺跡・大御堂廃寺跡などの遺跡について、周辺農地等との複合的な文化的景観としての特性を評価する。また、史跡相互、あるいは重伝建地区と連絡する交通アクセスのネットワークについても検討する。最終的には「歴史的風致維持向上計画」の全体像を練り上げ、報告書を編集する。
【研究の運営など】 以上の調査研究は「倉吉文化財協会」「倉吉町並み保存会」「明倫EXT100」などの地元の組織、さらには各地区公民館及び鳥取県・倉吉市などと協力して取り組む。「高山」「萩」「松江」などの歴まち法先進地を視察し、小規模の研究会を頻繁に開き、年次報告を刊行。最終年度に150名規模のシンポジウムを開催した後、「歴史的風致維持向上計画」案を作成し、報告書を刊行する。
期待される効果:
1)打吹山については古代の歴史が不明だが、長谷寺本堂背後の巨巌は摩尼寺「奥の院」や三徳山「冠巌」などと似た磐座であった可能性があり、長谷寺との関係を明確にすることで、大山・三徳山・摩尼山などと一連の古代霊場信仰の解明に貢献できる。
2)縁起によれば、長谷寺は養老5年(721年)の開山で、当初は長谷村(倉吉市北谷)にあったが、後に山の中腹に移築され、懸造(かけづくり)の本堂になったという伝承を残すが、本堂の成立年代は不明である。多くの柱材が継ぎ接ぎ状態であり、これを科学的年代測定することで起源と変遷を解明できる。起源が内陣厨子(室町後期)と同時期まで遡る場合、重要文化財の有力な候補となる。
3)2010年度以降動きが停止している打吹玉川重伝建地区の拡張を推進する。重伝建選定が困難と判断される場合は「街なみ環境整備事業」や「都市の文化的景観」など他の方策を適用し、景観保全エリアを拡張する方途を提案する。
4)打吹山・旧陣屋町エリア・伯耆国府関係史跡群を一体化した「歴史的風致維持向上計画」を策定し、倉吉が鳥取県最初の「歴まち法」認定地になるための資料を整える。事業主体はもちろん倉吉市であり、倉吉がこの叩き台をもとに国交省・農水省・文化庁の担当部局に申請書を提出することを望むが、倉吉以外の自治体が「歴まち法」認定地の申請をする場合でも、本研究の成果が大きく貢献するだろう。
5)すでに全国的に「歴まち法」を採用する自治体が増加する中にあって、鳥取県では一ヶ所も認定地のない状況を打破し、本研究により、鳥取県も他県と肩を並べる歴史的風致保全の取組を推進する触媒となるだろう。
【長谷寺の文化資産に関する調査研究】 初年度はおもに打吹山と長谷寺を中心とする山腹・山麓エリアの文化財を対象として調査研究を進める。中軸となるのは長谷寺の歴史の解明である。長谷寺所蔵の古文書の翻刻を進め沿革をあきらかにすると同時に、長谷寺本堂の建築史学的な調査により本堂の起源と変遷を解明する。本堂は、鎌倉時代の初期、源頼朝の命で佐々木高綱が再建に着手したが、都合により工事が中断したという寺伝や他村から移築されたという伝承があり、これを①本堂背後の巨岩の清掃と撮影、②本堂建築の実測調査、③痕跡調査による復原研究、④本堂部材のAMS法放射性炭素年代測定(ウィグルマッチング)などにより、古文書や伝承との整合性をあきらかにしたい。また、⑤長谷寺奉納の大絵馬と奉納した人々との関連を明確にし、庶民信仰の実態を明らかにする。研究成果については、年度末に報告会を開催し討議する。
【打吹玉川重伝建地区拡張への取組】 2年目は旧陣屋町エリアを対象に調査研究する。 2010年度に旧本通り商店街(新町・西仲町・西町)が重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に追加選定されたものの、選定地は旧陣屋町エリアの約30%にすぎず、その後の追加選定の目途がたっていない。本研究では、歴史的建造物が集中する鍛治町・河原町と東岩倉町・西岩倉町を対象にして、重要建造物の選定と詳細調査をおこなう。平成19・20年度に倉吉市が町並み保存対策見直し調査を実施しているが、今回の調査は個別の特徴がある建物に調査の重点をおき、より町並みの特性を明確にする。また、住民・行政とのフォーラムを継続的に開いて意見交換し、重伝建追加選定の可能性を探る。重伝建が不可能な場合、「歴まち法」の街なみ環境整備事業の適用可能性についても検討する。
【古代遺跡群のネットワーク】 3年目は視野を小鴨川の外周域に広げ、伯耆国府跡を中心とした国庁跡・法華寺畑遺跡・不入岡遺跡・伯耆国分寺跡・大御堂廃寺跡などの遺跡について、周辺農地等との複合的な文化的景観としての特性を評価する。また、史跡相互、あるいは重伝建地区と連絡する交通アクセスのネットワークについても検討する。最終的には「歴史的風致維持向上計画」の全体像を練り上げ、報告書を編集する。
【研究の運営など】 以上の調査研究は「倉吉文化財協会」「倉吉町並み保存会」「明倫EXT100」などの地元の組織、さらには各地区公民館及び鳥取県・倉吉市などと協力して取り組む。「高山」「萩」「松江」などの歴まち法先進地を視察し、小規模の研究会を頻繁に開き、年次報告を刊行。最終年度に150名規模のシンポジウムを開催した後、「歴史的風致維持向上計画」案を作成し、報告書を刊行する。
期待される効果:
1)打吹山については古代の歴史が不明だが、長谷寺本堂背後の巨巌は摩尼寺「奥の院」や三徳山「冠巌」などと似た磐座であった可能性があり、長谷寺との関係を明確にすることで、大山・三徳山・摩尼山などと一連の古代霊場信仰の解明に貢献できる。
2)縁起によれば、長谷寺は養老5年(721年)の開山で、当初は長谷村(倉吉市北谷)にあったが、後に山の中腹に移築され、懸造(かけづくり)の本堂になったという伝承を残すが、本堂の成立年代は不明である。多くの柱材が継ぎ接ぎ状態であり、これを科学的年代測定することで起源と変遷を解明できる。起源が内陣厨子(室町後期)と同時期まで遡る場合、重要文化財の有力な候補となる。
3)2010年度以降動きが停止している打吹玉川重伝建地区の拡張を推進する。重伝建選定が困難と判断される場合は「街なみ環境整備事業」や「都市の文化的景観」など他の方策を適用し、景観保全エリアを拡張する方途を提案する。
4)打吹山・旧陣屋町エリア・伯耆国府関係史跡群を一体化した「歴史的風致維持向上計画」を策定し、倉吉が鳥取県最初の「歴まち法」認定地になるための資料を整える。事業主体はもちろん倉吉市であり、倉吉がこの叩き台をもとに国交省・農水省・文化庁の担当部局に申請書を提出することを望むが、倉吉以外の自治体が「歴まち法」認定地の申請をする場合でも、本研究の成果が大きく貢献するだろう。
5)すでに全国的に「歴まち法」を採用する自治体が増加する中にあって、鳥取県では一ヶ所も認定地のない状況を打破し、本研究により、鳥取県も他県と肩を並べる歴史的風致保全の取組を推進する触媒となるだろう。