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【講演記録】倉吉の町家と町並み(8)

6.はるかなまち、その未来 【続々】

 (3)町家を昭和レトロ風のカフェに
 吉川さんたちは重伝建地区内の看板建築の復原的修景に取り組みました。対象は魚町の旧山市洋服店です(図49)。2階が非常に高い町家でして、建築年代は昭和10年代と推定されます。看板建築になったのは、おそらく昭和30年代後半~昭和40年代前半でしょう。オーナーの方は洋服店だった1階をカフェに変えたいとの希望を示されました。2階の箱物が非常に大きく、残念なことではありますが、町家の2階意匠は破壊されていました。1階もガラスウインドーに変更されています。
 図50が Before/After です(図50)。復原的修景には、1階・2階とも年代の近い町家の意匠を借用しました。2階の窓は、私がお気に入りの柴田履物店を使っています。1階のガラス戸は桝井陶器店と同じく、津田茶舗さんのものです(図51)。
 喫茶店の名前は学生が「Gorinto」と名付けました。あのころ摩尼寺「奥の院」遺跡で発掘調査していまして、五輪塔がいっぱい出てきたんです。五輪塔は怖いのですね。足で踏んだりこづいたりすると祟りがあるという都市伝説に学生は怯えていました。そんなこんなで、「Gorinto」という店名になり、内部はやっぱり昭和テイストにしました。ボンカレーの看板、インベーダーゲーム、昭和風のソファをおいています。加納さんという女子学生がこの内部パースを描いてくれました。
 その後、学生たちの描いた図面データ一式は設計事務所に渡しました。プロの設計士さんが実施設計して、図50のような建物が建ちました。「とっとり紅茶」の専門店としてデビューしたのですが、紅茶通からはあまり評価の高くない茶葉でして、やや心配しております。名前は「あかり舎」です。ご親族にに照明デザイナーの方がいらっしゃるようで、その作品も展示されています。
 正直いうと、修景後の外観をみますと、うちの研究室のデザインのほうがいいのではないかと思ったりしています。柴田履物店さんの近代数寄屋風の窓を使っていただきたかったんですね。


2013倉吉の町家と町並み02配布資料_04 


7.町並みのオーセンティシティ

 (1)「歴史の重層性」を保全する
 重要伝統的建造物群保存地区をはじめとして町並みを保全しようとするエリアでは、「復原的修景」がごく当たり前のようにおこなわれています。町並み保存の有力な方法として文化庁が指導していますね。ただ、なんでもかんでも復原的修景でよいか、というと、そうではないと思うんですね。
 それは文化財保存理論の「オーセンティシティ(真実性)の維持」とか「歴史の重層性」の問題に関係しています。この世にあるすべてのものにはスタートの時点がありますね。それが、いろんな経緯を経て今のかたちになるわけです。現状とは歴史の蓄積を映し出す結果としてある。仏教でいう「因果」関係ですね。原因があって結果がある。復原的修景という行為は、結局、結果を始まりに戻すことなんですよね、多くの場合、歴史的なプロセスが消されてしまいます。ですから、いくら景観を整備するためとはいえ、何でもかんでもこういう介入に依存していいのか。やっていいものとよくないものがあるのではないか。そういう倫理観が、ある程度必要だと思うのです。
 時間は流れています。昭和戦後という時代もこれから50年~100年たてば保全すべき時代や対象になる。このことを頭に入れておかなければいけないと思っているわけであります。
 世界遺産条約とかベニス憲章という国際的な文化遺産保全の原理原則があります。ベニス憲章は1964年、世界遺産条約は1972年にできているのですけれども、たとえば世界遺産条約にこういうことが書いてあります。

  (モニュメントの)オーセンティシティの評価は、当初の形態や構造だけでなく、
   後の時代になされた修理や附加のすべてを含む。それら全体に芸術的・歴史的
   価値 がある。

 難しい用語ですが、オーセンティシティ(authenticity)は「真実性」と訳します。建造物とか遺跡については、当初の姿だけが重要ではないと言っているのです。たとえば、奈良時代にできたものが鎌倉時代や室町時代や江戸時代の要素を含んで今になっている。その「全体性」、つまり「歴史の重層性」を評価しないといけません、というふうに、ベニス憲章や世界遺産条約は唱えています。これはモニュメントに対する原則として書いているわけで、必ずしも町並みに該当するわけではありませんが、やはり頭に置いておいたほうがいい。


新薬師寺地蔵堂01


 まず寺院建築でこの問題を考えてみましょう。奈良市に新薬師寺地蔵堂という重要文化財建造物があります(図53)。図53左は修理前の状況です。鎌倉時代に創建され、室町・江戸・明治・大正という時期を経てこの外観になった。これを不格好という人もいますが、これはこれでなかなか愛嬌のある表情をしています。日本の場合、建造物を解体修理して調査・研究し、当初の姿に戻すわけです(図53右)。例外もありますが、解体修理後に当初もしくは最盛期の状態に戻してしまうケースが多いのです。以前講義で、左と右ではどちらが好きか、という質問をして挙手してもらいました。半々か、心持ち左(現状維持)が多かったように記憶しています。繰り返しますが、ヨーロッパは現状維持が好きですね。いろんな時代の材料や意匠が混合し、歴史の重層性が表現されています。こういう状態をオーセンティック(authentic)というのです。オーセンティシティーが充ち満ちている。
 日本人は当初の形が好きです。だから、オリジナルに復元する。格好いい、美しいとみえるかもしれませんが、注意していただきたいのは、図53左では縁とか長押とか扉板はみんな平成の材に変わっています。室町、江戸、明治の「中古材」を取り去り、「材料のオーセンティシティ」を失っている。歴史のプロセスを表現する過渡的な部材は不要だという考えかたです。さて、日本のやり方をとるか、ヨーロッパ流にするか。 【続】


2013倉吉の町家と町並み02配布資料_05

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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