サテンドール(ⅩⅤ)

笛とリュート
北鎌倉の明月院から山手に向かう途中に「笛」というカフェがあった。西部劇にでてくるログキャビンのような建物で、窓越しに楽器が透けてみえる。入らない手はない。
はたして屋内には世界の笛がいっぱい飾ってあった。笛だけでなく、弦楽器も何種類か壁面に吊されている。バンドリア、月琴、バラライカ、そして嘆きのギタレレ・・・マスターが若いころ世界各地を旅してまわって集めたんだろうな。奥のカウンターに常連客のおじさん2名がいて、結構ラフな口調で話したてている。マスターは結構迷惑してるんではないか。女性の旅客がおそるおそる入ってくる。あの雰囲気では、入るにはいれないな。やはり旅人にはくつろいでもらいたい。口コミで「良い店だったね」とひろめて欲しいところだろうに。

何かBGMがかっかていたが、よく覚えていない。棚に並べられているCDに目がとまり、ざっとジャケットを眺めて8弦リュートの作品に神経が反応した。マスターに頼んでCDを流してもらった。これが良いのね。ジャケットのタイトルをみる。
THE SOUND OF THE NEW TUNING 8-COURSE LUTE
てっきり西洋人のギタリストだと思ったのだが、奏者は岡沢道彦という日本人で、邦題は「新調弦8コース・リュートの響き」だって。英語と日本語で、ずいぶん印象が変わるもんだね。ライナーノーツを抜粋引用させていただきます。
このCDで私が演奏する8コース・リュートはバロック・リュートでもルネサンス・
リュートでもありません。というのは、このリュートの調弦が今までに先例を見ない
独特なものだからです。
1990年頃、私ははバッハの無伴奏ヴァイオリンや無伴奏チェロの作品を演奏するの
に適した8コース・リュートの合理的な調弦法に思い当たりました。その後、バッハ
の作品に加えてヴィヴァルディ、クープラン、パーセル、ハイドン、モーツァルトの
ような大作曲家の作品のいくつかをもこの楽器のために編曲することができました。
このリュートの各弦の音の並びは(略)ソラレファラドミソです。私はこの新調弦
法を「オカザワ・チューニング」と命名したいと思います。(略)使用楽器は2002年、
山下暁彦作8コース・リュートです。
最近、このCDを車でずっと聴いている。チェンバロのようなギターの音色がして、気持ちを落ち着かせてくれる。クラシックという音楽分野もいいもんだなぁ。この私が、そんなふうに想うのは珍しいことだ。



リュートという弦楽器は、要するに、ギターの原型であり、古いものは琵琶と似ている。中東の弦楽器が西伝してリュートとなり、東伝して琵琶になった(のだろう)。だから古式のリュートは、琵琶と同じ4弦もしくは5弦であり、ルネッサンス期にたしか6弦になったはずだ。アンドリュー・ヨークの「レッティン・ゴー」で使われているEADF#BEのギター・チューニングはこの時代のリュートを意識したものだったと記憶する。時代が下るにつれ8弦→10弦→11弦とコースが増し続け、バロック・リュートとなるらしい。イヨラン・セルシェルの使う11弦ギターはバロック・リュートを意識しているのかもしれない。
世の中には、いろんなギタリストがいる。否、岡沢さんの場合、リューティストと呼ぶべきか。
