大晦日
- 2023/12/31 19:43
- Category: bologna生活・習慣
今日は単なる日曜日ではない。一年の締めくくりなのである。旧市街のマッジョーレ広場には身長6メートルもある大きなヴェッキオーネが設置されたそうだ。昨日旧市街に行った時に何やら準備をしていたけれど、そうか、こんなのが置かれたのかとテレビのニュースを見ながら笑った。手に傘を持った老人だった。モルヴォという名だそうで、夢を盗む抜け目ない人物とのことだ。漫画作家イゴートが生み出した架空の人物だそうだ。ボローニャの大晦日のヴェッキオーネ。ヴェッキオーネというのは古い布で作られた大きな人形で、一年の最後に燃やして新しい年を迎えるというボローニャの伝統なのである。これを見物しに沢山の人が集まるから今日は沢山の警備が張られているそうだ。夜中には身動きできぬほどの人が詰めかけるであろうマッジョーレ広場。私はテレビで眺めるだけにしておくのが良いと思っている。
ボローニャでは古い布で出来たヴェッキオーネを燃やして新しい年を迎えるけれど、窓から古いものを投げ捨てる街もあるそうだ。それから打ち上げ花火や爆竹。毎年禁止されているのに爆竹が鳴り響くのは何故だろう。そしてそれを注意する警察も居ない。初めは驚いたものだけど、今は慣れたものだ。何時まで経っても慣れないのはうちの猫。爆竹が鳴り始める22時を回ると、家具の下に隠れて姿を消す。それから新年を迎えた途端に上がる大きな打ち上げ花火。遠くの空に上がる花火を窓から眺めて愉しむのが私と相棒の習慣。昔は友人達と大騒ぎして朝の4時ごろに帰ってきたものだけど、何時のことからか家で静かに年越しするのが好きになった。穏やかに始まる新しい年。それが私達流なのだ。
アメリカで初めて迎えた大晦日。あの日、私は一緒に暮らしていた友人とダウンタウンへ行ったのだ。友人は耳にピアスの穴をあけるのだが、一緒に来ないかとのことだった。私は休暇中で暇だったし、それに空が飛び切り青かったから、一緒に坂道をぐんぐん下って店に行った。ショッピングモールの地下にある安いアクセサリーを売る店で、ピストルみたいな形の穴あけ機で、バチンと凄い大きな音を立てながら穴をあけるのだ。穴あけ代は両耳で5ドルという破格で、売っているピアスは3ドルだった。音こそ凄いがあっという間の出来事だった。
数週間、私は気が滅入っていた。好きで好きで住み始めた街に居るのに、言葉の問題から少し人間恐怖症になっていた。何度言っても通じない自分の英語。繰り返しているうちに話すが嫌になっていた。周囲の人達は静かに私を心配して、さりげなく私を外に誘い出してくれるのだけど、心が晴れなかった。そして、ぐずぐずした気持ちから抜け出せない自分が嫌だった。何かきっかけが必要だった、今の自分を辞めるきっかけ。ピアスはそのきっかけになると思った。私もピアスの穴、あける。そう言ってあっという間に耳に小さなピアスを付けたから、友人は心底驚いたようだ。大丈夫?痛くない?急にどうしたの?
耳は痛かった。炎症して赤く腫れあがったけど、気持ちは清々していた。何だ、こんな簡単なことだったのかと思った。ピアスも、自分の心境を変えることも。翌日、密かに私を心配し応援してくれていたアマンダにピアスを見せて驚かせ、そして今日から新しい自分であることを告げた。いくら努力してもうまく話せなかった英語が、すらすらと口をついて出て、アマンダが私をぎゅっと抱きしめた。良かった。もう大丈夫。後にも先にも最高の大晦日と新年。31年前のことだけれど、今も色褪せず、私に勇気を与えてくれる。私は知っている、自分の気持ち次第で自分の人生は変わるってこと。
あの後、ピアスが合わなくて穴は塞いでしまったけれど、私が得たもうひとつは健在で、手探りしながら前に進んでいく人間になった。まずはやってみること。チャレンジしたことが自信につながる。上手くいかなかったら、あははと笑いとばせばいい。何もしないでぐずぐず言っているよりはずっといい。
さて、大晦日の夕食の準備に入ろうか。特別料理はないけれど、相棒と私が嬉しければそれでいい。さあ、急げ。オーブンに火を入れなければ。
今年も色々あったけど、愉快な気持ちで締めくくることが出来る幸せ。此の気持ちを皆さんと分け合いたいと思う。そして有難う、今年も有難う。世界中の人が豊かな気持ちで一年を締めくくり、喜び溢れる新しい年がありますように。心から。