年の瀬

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昨夜遅く、私の願いが届いたのか、満月が姿を現した。風に押される雲の群れに時々隠れてはまた姿を現し、驚くような光を放った。冬は空気が冷たい分月が鮮明に見えるのは知っていたけれど、あの光には驚いた。月の周りが虹色に輝いて、ほら、見て!と興奮する私の声に相棒が駆け付け、そして相棒もまた驚き興奮に満ちた声をあげるのだった。魔法のようだった。他に言いようがなかった。

満月が見えた晩の翌朝は快晴。気持ちよく晴れた空。12月の終わりにこんな晴天は空からの贈り物。悩み事があっても、こんな空を見ていたら気が晴れるというものだ。冬の休暇に入って、曜日感覚がなくなってしまった。だから毎朝毎晩カレンダーを確認する。さもなければ小さな用事や予約を忘れてしまうに違いないから。今朝は髪に手入れに。土曜日にしか行けない髪の手入れに木曜日に行けるなんて。全く特別な気分だった。クリスマスの祝日を終えて2日目にもなると、人々の生活も正常化するらしい。バスにはそれなりに乗客が居て、旧市街もまた昨日より人が多かった。いつも混みあっている私の気に入りのバールは空いていて、立ち寄りたい気持ちをぐっとこらえて前を通り過ぎた。時間がなかった。先を急いでいたのだ。あと5分のうちにヘアサロンに入らなければならないのだから。店に入らずに素通りする時店主とバッチリ目が合った。今日は店が空いているから店主も外を眺める余裕があるらしい。気まずい思いで私は小さく手を振って先を急いだ。急げ、急げ。
髪を綺麗にするのはもともと好きだが、一年の終わりに綺麗にするのは特に好きだ。新しい年を迎えるにあたり日本に居た頃は大掃除をしたものだけど、郷に入れば郷に従え、大掃除は春にするようになった。何故春かと言えば、家中の窓を開けて掃除ができるから大掃除をするのは春が相応しいというイタリア哲学である。確かにそうなのだ。例えば窓を磨くにも、例えば壁を塗り替えるにしても、窓を開けていたほうが良いことが沢山あるから。カーテンを洗うにしても春はよく乾くから、大掃除は春がいい。だからうちでは年の暮れに整理整頓と不要物を廃棄するくらいで、特別な掃除はしないのである。そんな私ではあるけれど、年の暮れに髪を綺麗にする習慣は今も続いている。相棒もまた昨日散髪して髭も綺麗に剃ってすっきりした。身なりが整うと気分もすっきりするのは誰も同じ。昨日は相棒、今日は私がすっきりして、新しい年を迎える準備は万端である。
旧市街はいつもと同じ顔をしている。冬の太陽に照らされながら街の人達がのんびり歩く。10年前に比べれば旅行者が多くなったボローニャではあるけれど、やはり普通の生活をしている人が似合う街なのだ、此の街は。それにしてもあと何年此処に暮らすのだろう、と時々思う。それはだれにも分からない。この私でさえも。

ところで相棒がボルドーの白ワインを手に入れた。ボルドーの白?どうして白なの?と言いながら思い出したのは、昔私がポルトガルで、アレンテージョ地方の白ワインを手に入れたことだった。あの時相棒が訊いたものだ、どうしてアレンテージョの白ワインなのさ。というのもアレンテージョの赤ワインが美味しいことで有名だからだった。果たしてあの白ワインは飛び切り美味しくて、相棒も私も脱帽だった。あはは、私はあの日の相棒と同じことを言っていると思いながら、いい予感がした。これはきっといいワイン。今夜栓を抜くという話だけれど、本当でしょうね。




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