夜が更けていく
- 2011/02/28 21:15
- Category: 好きなこと・好きなもの
何時の頃からか、私はチーズが大好きになった。けれども無類のチーズ好きではない。何故ならゴルゴンゾーラだけはどうしても苦手で、ほら食べてごらん、ほら美味しいからと周囲にどんなに勧められても、やっぱり手を出す気にはならないからだ。ゴルゴンゾーラを好きな人に言わせれば、これほど美味しいものはない、とのことだけど。子供の頃、私の家ではいつもチーズが出された。四角くて長細い、俗に言うプロセスチーズというもので、母親が包丁で奇麗に切り分けてくれた。姉はそれが好物で、美味しいと喜んで食べたが、私にはその美味しさがどうしても理解できず、むしろ少し苦手だった。しかしカルシウムがとか、たんぱく質がとか、両親がとても勧めるのでとりあえずその場を楽しく切り抜ける為に、何でもない振りをしてチーズを口の中に放り込んだ。それが10代半ばになるとチーズを冷蔵庫の中に探しては、あった、あったと喜んで自ら切り分けて食するようになった。そして大人になるとフランスのチーズをカウンターで食べさせる店に足を運ぶようにもなった。白黴に覆われた柔らかいチーズ。一度でぞっこんになった。しかし私はまだワインの魅力に出会っていなくて、その小さなカウンターに座ってチーズとパンを齧るだけだった。私がワインと出会ったのはアメリカに暮していたころだった。それは偶然で、偶然ワインの魅了されたのだ。ところが此処では美味しいチーズに出会うことがなく、ワインを楽しむだけ。そうしてボローニャに辿り着いて、ようやくチーズとワインが一緒になった。冬はもっぱら赤ワイン。赤ワインときたらペコリーノチーズ。ペコリーノにもいろいろあるけど、大晦日に相棒がトリュフ入りのペコリーノチーズを買ってきてくれて以来、私はこれにぞっこんだ。先日、旧市街でこれを見つけた。ちょっと高めで迷ったけれど、その店から僅か100mの店では更に高い値段がつけられているのを発見して、安い方の店で丸ごと買った。店の人は半分だけでも売ってくれると言ったけれど、丸ごと買うことにしたのは多分あっという間に食べきるに違いないと思ったからだ。店の人が言ったからだ。これはとっても美味しいよ、と。案の定、丸いチーズは今ではほんの切れ端しか残っていない。毎晩相棒と赤ワインを頂きながら、これを薄く薄く切り取って頂いているからである。日中は互いに別の場所で仕事に勤しむ私達が、唯一交差できるのが夕食の時間。だからこの時間を大切にしているのだ。その為には、ちょっとくらい奮発したって良いではないか。それが私達の生活スタイル。などと言って、単なる美味しいもの好きなのだけど。今夜もそんな風にして夜が更けていく。