駆け足の夏
- 2020/08/30 21:11
- Category: bologna生活・習慣
8月最後の週末。急に街が賑やかになった。長く休んでいた人達、一体いつ帰ってくるのかと思っていた人達も、遂に街に帰って来た。隣の家族は商売の都合で8月15日の祝日の週末を終えるなり山の家から帰ってきたが、例えば上階の家族、最後に見掛けたのは7月中旬だったから6週間ぶりの帰宅だ。それから階下の住人も数日前に帰って来た。此れで全ての住人が揃った。9月を目の前にしてやっと揃った。8月終わりの週末は雨。今日は朝方強い雨で目が覚めた。それで急に気温が下がり、一日涼しく過ごした。それが実に8月の終わりに相応しく、私は8月にさよならを告げるのだが、ああ、そうだった、もう一日あったっけ。
昨晩相棒が嬉しそうに帰って来た。何がそんなに嬉しいのかと思えば、此れだよ、と言って差し出した小さな瓶。見れば相棒の大きな手に納まるほどの蓋つき瓶で、茄子のオイル漬けだった。
相棒の仕事場の近所に学生が住んでいる。其の学生さんがカラーブリアに休暇で帰っていたのだが、その間、時々植木に水をやってくれないだろうかと頼まれたのだそうだ。植木鉢が5つほど。それほど大変な作業じゃない。近年ボローニャに根が生えたように何処へも旅に出ない相棒は、毎夏こんな風に近所の誰かに頼まれるのだ。まあ、他所の家に行って水をくべるなら面倒くさいけれど、自分の仕事場に植木鉢を持ってくるならば、という条件で引き受けたそうだ。どうせ自分の植物もあるし。それに時には雨が降るしな、などと言っていたが此の夏はあまり雨が降らなかったから、枯れたら可哀そうということで、毎夕水やりをしたようだ。其の学生さんが帰って来て、水やりの礼に母親特製の茄子のオイル漬けを手渡されたのだそうだ。茄子も庭の畑でとれたもので、母親の家族に代々伝わる特別なレシピによるものだと言う。自分が言うのもなんだけど、凄く美味しい、と学生さんは言っていたそうだ。大抵自分の母親が作ったものは美味しいものだけどな、などと相棒は言っていたが、話を聞いた私の方は期待がむくむく膨らむ一方だった。茄子のオイル漬けと簡単に言うが、大変手間がかかっている。茄子を薄切りしたものに塩をまぶして重しをして水抜きをしたらワインビネガーで煮て・・・と、茄子のオイル漬けが好きな私だが、それをしたいと思ったことは一度も無い。さて、夕食の時、瓶の蓋を開けた。蓋を開けた瞬間に放たれたいい匂い。あ、これは美味しいぞ、と直感した通り夢のように美味しかった。茄子はとろけるように柔らかで、ワインビネガーは強すぎることがなく、塩分も嫌味がない程度で、学生さんが言っていた通り、凄く美味しかった。時々茄子のオイル漬けを店で購入するが、相棒はあまり好きでないのか、進んで食べることは無いが、此れは特別、勧めもしないのにどんどん食べた。私達は他所のうちの母親の味を堪能して、ワインが大変進んだ。どんな母親なのだろう。きっと他にもいろんなオイル漬けを作って地下倉庫で保管しているに違いない、などと様々なことを想像するのは楽しいことだった。幸運な学生さん。今度会ったら礼を言って貰おう。素晴らしいものをありがとう、と。
話によれば明日は随分涼しいらしい。夏が駆け足で去ろうとしているように思えるのは、私だけだろうか。