遠い稲妻
- 2011/06/29 23:39
- Category: ひとりごと
21時半を回った頃、急激に空が暗くなりだした。一瞬目を離すと次の瞬間には格段に暗くなっていた。こんなことは最近では珍しく、もしかしたら近くの町で雨が降り出したのかもしれない、そんなことを思った。そのうち北のほうから涼しい風が吹き出した。暑すぎた1日の終わりの涼しい風は有難く、今夜は良い眠りにつけるのかもしれないと思った。そうしているうちに遠い稲妻を見つけた。私が暮らす丘の町ピアノーロからすると北西の方角で、それは丁度ボローニャ市街辺りであった。雨が降っているのだろうか。私の小さな友人が今晩自転車で出掛けると言っていたけれど、雨に降られてしまっただろうか。気が変わってバスで出掛けたならば良いけれど。遠い稲妻が好きだ。向うの空の分厚い雲の群れの間で大きく光る稲妻を眺めていると心が少しづつ静かになっていく。私は手紙を書くのが好きな子供だった。10代半ばになると海の向うの同世代の見知らぬ人々へ手紙を書くようになった。学校で学んだ僅かな知識を駆使しながらアルファベットを丁寧に綴った。正直言って英語の成績は散々だった。だからその手紙を貰った人達に私の気持ちが伝わったかどうかは分からない。それでも返事が返ってきて、私がまたその返事を書いた。手紙を書くのには時間が掛かった。何しろ英語の成績は散々だったのだから。でも手紙を書いている時間が好きだった。色んなことを考えながら、色んなことを想像しながら、何時か海の向うに暮らす同世代の女の子達に会えることを夢見ながら。私の机はどのまん前に置かれていて、手紙を書きながら時々手を休めて外を眺めるのが好きだった。夏の遅い夕方にはしばしば遠い稲妻を眺めた。私は子供と大人の丁度真ん中くらいの年頃で、大人になりたいような大人になるのが不安のような、そんな気持ちがいつも渦巻いていたが遠い稲妻を眺めていると諸々のことが波のように引いていくような気がした。私はあの頃からあまり変化していないのかもしれない。子供と大人の真ん中くらいの年頃はとっくの昔に過ぎたけど、大人になりたいような大人になるのが不安のような気持ちも既に整理がついたけれど。私の体の隅っこに昔の小さな何かがまだ残っていることを確認して嬉しくなった。そうしているうちに遠い稲妻は頭上にまでやって来て、あっという間に嵐になった。大粒の雨。横殴りの風。目の前が真っ白になるような大きな稲妻。夏の象徴だ。