土曜日のルンルン
- 2023/09/30 20:44
- Category: bologna生活・習慣
9月最後の土曜日。そして今日は9月最後の一日。ボローニャはこのところ天気が良く、朝晩の冷え込みはさておいて、昼間は結構気温が上がる。今日は髪の手入れをしに行く日。だからもう少し眠っていたい気持ちを乗り越えて、土曜日にしては早めに起きた。カッフェを淹れながらテラスに続く大窓を開けると、冷たい空気が流れ込んだ。金木犀の木に小さな青い蕾を幾つも見つけた。案外明日辺りに咲くのかもしれないと思ったら、どうしようもなく心が躍った。あの鼻先をくすぐるようないい匂い。もうすぐかと思ったら心が躍るのも当然だった。
大通りに出たところで旧市街へ向かうバスが見えたので走ったが、間に合わなかった。ああ、行っちゃった、とがっかりしながら歩いていたら、その様子を見ていた見知らぬ老女が言った。あなたは朝からどうしてそんなに急いでいるの? もっとのんびりいかなくてはね。彼女の言葉に私がはっとしたのには理由がある。近頃自分でも同じようなことを思っていたからだ。全く貴女の言う通りだわ。と言って笑みを返すと、彼女は満足したようで、通り過ぎた私の背に大きな明るい声で投げかけた。良い一日になるようにと。
旧市街に入ったところでバスを降りて歩いた。最近運動不足だから、そんな工夫をしているのだ。大きな菓子店を通り過ぎ、横断歩道を渡って新聞スタンドを超えたポルティコの下で見覚えのある姿を発見。夏季休暇中にバスの停留所で二度居合わせた、目の不自由な男性だった。彼はなかなか活動的で、白い杖を頼りに独りで何処にでも行くタイプらしい。そういう彼に元気を分けて貰っているのだが、今日の彼はどうやら困っているようだったので声を掛けた。ああ、シニョーラ。彼は私の声を覚えているようだった。彼に声の記憶力に脱帽だった。こんなところで何しているのかと彼は訊くので、あなたこそこんなところでどうしたのかと訊けば、道に迷ったとのことだった。ああ、その場所は知っている。と、私は彼の腕をとって歩き出した。かなりいい線まで来ているけれど、確かに簡単ではない場所だから。歩きながら少し話をした。あなたは活動的で感心しているという私の言葉に彼は気をよくしたようだった。そうして目的地にたどり着き、立ち去る私の背に彼が大きな言葉を投げかけた。良い一日になるようにと。今朝二度目のこの言葉に、良い一日になることを確信した。しかし、そんなことをしていたものだから、予約の11時に少し遅れてしまった。あーあ。昔は約束時間を守るのが得意な私だったが、ボローニャに暮らすようになってから約束時間にあまり宜しくない。
ところで私が通う髪の手入れの店はなかなか良い雰囲気である。特に髪を洗う洗面台が並ぶ明るい場所が気に入っていて、テラスに絡むジャスミンの蔓の間から青い空が見えるのが特に良い。勝手に癒しの空間と名付けているが、どれほどの人がこの空間に安らぎを与えて貰っていることだろう。こんな空間を自分の家にもと思うけれど。何時かそんな風にしたいと思うけれど。
髪を綺麗にして爽快。ここ数日のもやもやした気持ちが一掃されて感謝。店を出て、いつも長い列のある手打ちパスタを食べさせる店に、列に並ばずに入った。菓子を買いたかったのだ。店の人に勧めて貰ったベリー入りチョコレートムースの菓子。時々この店の菓子が食べたくなる。でもこうした菓子を食べたいと思うようになったのは夏が終わった証拠。秋が始まった証拠。
ルンルンして店を出た。昔、ルンルンを買っておうちに帰ろうとか言う題名の本があったと思うけど、あの本のルンルンは何なのだろう。私はついに読むことがなかった本の題名を思い浮かべながら、私のルンルンは美味しいチョコレート菓子なのだと思う。この菓子と美味しい赤ワインがあれば週末は安泰。私は単純な人間なのだ。
夜になり開けていたテラスに続く窓を閉めて、雨戸を半分下ろした。夕食をとって寛いだ頃、奇妙な物音が。何だろうと家の中を見て回ったが、特に変わった様子はない。そして猫の姿がない。もしやと思って窓を開けたら、猫が勢いよく飛び込んできた。どうやら猫を外に置き去りにしてしまったらしい。それも3時間近く。すっかり冷たくなった猫を抱きしめ、ごめんごめんと詫びてみたが、うーん、飼い主不信を拭い取ることは暫くできないに違いない。