フランス屋
- 2013/01/30 04:49
- Category: bologna生活・習慣
快晴だけど飛び切り寒い1日だった。その上つまらない事があって、冴えない1日だった。帰り道、体が冷えて凍えてしまいそうだった。時々店に入ってみるものの、体が冷えてどうしようもない。そうだ、と思いつき大好きなATTI に立ち寄った。何が好きかって、此の季節にしか出回らない揚げ菓子と、胡桃や干し葡萄、ウイキョウなどがたっぷり入ってずっしりと手応えのあるパン。パンは顎が疲れるほどだ。歯が痛いときには絶対に手を出さない。親不知が殆ど良くなったので、久しぶりに食べたくなったのだ。それから謝肉祭前後にしかない菓子。うっかりすると時期が過ぎてしまって残念なことになる。店は珍しく空いていて順番を待たずに欲しいものを手に入れることが出来た。その足でフランスワインの店に行った。チーズが欲しかったからだ。昨晩突然知人が立ち寄って上等な赤ワインの栓を抜いたのだが、それと共に出した好物のトリュフ入りペコリーノチーズが大変な好評であっという間に無くなってしまったからだ。まあいいさ、喜んで貰えたのだから。しかしチーズの無い生活は淋しい。しかしいつものペコリーノではなく、今日は気分を変えてフランスチーズを求めてみようかと思ったわけだ。火曜日とあって店は空いていて、チーズを物色しているうちに赤ワインを少々ご馳走になった。ほら、いつもと違うのがあるけれど、いかが、と。そのうち別の客が入ってきた。年齢で言えば50代後半の夫婦もので、こざっぱりとした礼儀正しい人達だった。どうやら店によく来る客らしく、しかし耳を澄ましているとどうやら此の辺りで店を営んでいることがわかった。夕方になって春物が届いて、急に忙しくなったといった。しかしは春物が入るのはなんて気分がいいのだろう、道が先に続いているように感じるよ、と夫のほうが言ったので、成程面白いことを言うなと感心した。冬の寒い日に明るい春物が届くのは確かに気分の良いことである。夫婦はいつもの白ワインを2本、と手に取るとそれらをカウンターに並べた。と、夫が私のほうを見て、その赤ワインは美味しいかと訊いた。なかなか良い、初めて頂いたけど、と答えると、よーし、それも一本もらおうと言って、もう一本カウンターに置いた。ふと思いついて訊いてみることにした。あの白ワインは美味しいのか、と。すると夫は頬を緩めて、美味しいんだ、それに此のワインをパリで頂いて、とってもいい思い出もあるんだよ、と言って妻のほうを眺めた。成程、パリで休暇を楽しんだが、それとも求婚でもしたのだろう。私は分かったような顔をして深く頷くと、夫は嬉しそうに笑った。妻はそんな夫を見て、なあに、何の話をしていたのと訊いたが、夫はまるで何も言わなかったみたいに、とぼけた表情をした。仲の良い夫婦だ。それでは皆さん、楽しい晩を、と言って彼らは店を出て行った。ワイン屋の主人の話によれば、彼らは子供服の店を営んでいるとのことで、名前を聞いたら誰でも知っているような古い店の経営者だった。商売が長く続いているのは彼らの人柄のせいに違いない。ああ、それにしても、美味しそうなチーズが手に入った。ただ、バスの中で臭くて仕方が無かったけれど。毛皮のコートを着た上品なご婦人があまりに嫌な表情をしたので、フランスチーズのせいであることを述べると、急に表情を変えて、あら、それなら仕方が無いわね、臭いけど美味しいのよ、と言って楽しそうに笑いながら下車していった。・・・あら、それなら仕方が無いわね、臭いけど美味しいのよ。彼女の言葉を繰り返して言ってみたが、臭いものはやはり臭くて少々肩身の狭い思いをしながら家路についた。
それにしても今日がたったの火曜日だなんて。明日が金曜日だったらどんなに嬉しいだろう。