魅力的

31072022small.jpg


教会の鐘の音が聞こえる。私が暮らす界隈には教会がふたつある。歩いて3分もしない場所に。家から見て北西と南東に。このふたつの教会の鐘が鳴る時間が重なることは無く、だからやたらと教会の鐘の音を耳にすることになる。上手くできているような気もするし、そうでないような気もするし。思えば世の中なんてどれもそんな感じなのかもしれない。考えようによっては上手くできていて、考えようによってはそうでなくて。7月最後の日は日曜日。其れがきりが良くていい感じに思えるが、他の人はどんな風に思っているだろう。

私は5週間おきに髪に手入れに足を運ぶが、その店にとても素敵な女性が居る。其の姿の良い美しい女性はまだ20代と若く、美容の仕事をしているからなのか美意識がとても高い。そして彼女はちゃんと知っているのだ、彼女自身が大変魅力的であることを。此れを世の中の人は自意識過剰とか自惚れと呼ぶのかもしれないが、5週間に一度しか会うことのない私からすれば、それはどうでも良いことなのだ。それよりも、5週間おきに会うたびに彼女の装いや雰囲気が異なり、私は何時も戸惑う。彼女は誰?新しい人?それともいつものあの若い人? 其れも声を聴くなり答えが出る。ああ、彼女だ、いつもの彼女。そもそも彼女はスタイルがよく、何を身につけても格好良いのだが、昨日はシンプルな黒いシャツに黒いパンツに、ああ、足元はどうかっただろう、兎に角動きやすそうだがきちんとして、とてもスタイリッシュだった。そして何が良かったって、彼女のヘアスタイル。潔いショートで、それでなくとも整った彼女の顔や首元が際立って輝いて見えた。上手い具合に彼女に言葉を掛けるチャンスがあり、あなたとても魅力的ねえ、と言ったところ彼女は大変喜んだけど、私だって嬉しかった、彼女を褒め称えることが出来たことを。美しい人たほかにも沢山居る。街を歩いているとハッとするような美しい人を見かけることも少なくないが、雰囲気、中から際立つような輝きを持つ人は、其れほど沢山ではないだろう。他の人に言わせれば、我儘で自己中心で自惚れでと色んな難点はありそうな彼女だが、そんなことが彼女を輝かせているのだとしたら、それはそれでいいと思う。女性はみんな輝いていた方がいい。誰だって内側に小さな輝くダイヤモンドを持っている。だけど多くの人は輝きを外に放つ方法を見つけることが出来ずにいるのだ。彼女は仕事を終えて私服に着替えると、店を出る前にちょっと私のところに立ち寄った。褒めくれて有難う、嬉しかった。と。我儘の自己中心で自惚れ屋だけど、嬉しいことを言葉に表現して礼を言うなんて、なかなか可愛いと思った。仕事帰りに友人と何処かに行くのだろう。紺地に白の水玉模様の涼しそうに揺れるドレスがよく似合っていた。きっと街を歩いていたら多くの人の目に留まるに違いない。次回はどんな姿で待っているのか。もともとこの店は大変好きだけど、店に行く愉しみがもうひとつ増えた。

私の茗荷は元気に育っているが、肝心の茗荷は実らない。もう少し先なのかもしれないし、初年度は実らぬ可能性が高いと聞いているから、不発に終わるのかもしれない。どちらにしても私のお気に入り。毎晩、水をくべ乍ら観察するのがどうしようもなく愉しい。




人気ブログランキングへ 

探求心と淡々

30072022small.jpg


土曜日だ。昨日は割と上手くいった一日で、完璧とは言わずもそれなりに綺麗に仕事を片付けて家路についた。以前の私ならば、金曜日の夕方ともなれば旧市街に立ち寄って、馴染の店で冷えた白ワインなどを頂いて、店の中に偶然居合わせた人達と他愛ないお喋りを楽しんだものだけど、そして其れが夏休みが近づいた金曜日ともなれば、間違いなくそんな夕方を楽しんだものだけど、私は習慣を忘れてしまったかのように旧市街での立ち飲みワインをしなくなった。よく考えてみれば忘れてしまった訳ではない。嫌いになった訳でもない。ただ、足が向かない。多分、暑い季節のワインが、身体に合わなくなっただけなのだと思っている。

ワインのない生活なんて。そんなことを言うと、ワインに精通しているかのように聞こえるけれど、そんなことは無い。単に好きなだけだ。知識とか何とか。そういうものにはあまり関心は無く、頂いて美味しいと思えることが大切。そしてそれを頂きながら、どんな場所でどんな人達によって作られたワインなのか、そんな話に耳を傾けるのが愉しい。世の中にはひとつのことを奥深くまで学ぶ探求心の強い人が居る。私は自分自身がそうした種類の人間でないことを多少ながら残念に思っている分だけ、世に存在する探求心の強い人達を心から尊敬している。そうした話に耳を傾けながら、そんな話を聞けることを嬉しく思う。興味津々だから、話しても話し甲斐があるらしく次から次へと話してくれる。此れは行きつけの立ち飲みワインの店ばかりでなく、例えば旅先でもよくあることだ。私はひとり旅が好きで、大抵の旅は独りでふらりと飛行機に乗る。そうした旅の中には数え切れぬほどの偶然の出会いが詰まっていて、例えば飛行機で隣り合わせになった人とか、散策をながら偶然すれ違った人とか、美術館で絵を鑑賞しているに隣に立った人とか、簡単な夕食をとっている時に隣のテーブルに座った人とか。そうした小さな沢山の出会いの中に時々素晴らしい人が居る。ネットで集めた情報と、自分が調べたり出向いて集めた情報は、聞き手にはすぐわかるものだが、後者に出会った時の喜びは、例えば良い本に出合った喜びに似ている。知らない人なのに小一時間話をして、私の幼稚な質問にもよく分かるように答えてくれて。こういう人とはまた何時か何処かで会いたいものだと思うけど、特に連絡先を交換することは無く、だけどこう言って別れるのだ。もし私達が幸運ならば、また何時か地球の何処かで会いましょう。こういう素晴らしい人達に出会うと、淡々とした自分の人生をこれで良かったのだろうかと思うのだけど、多分世の中に探求心の強い人ばかりだったら息が詰まるだろうから、私のようにあまり考えずに生きる人もいて丁度良いのだと思っている。

7月最後の土曜日。明日で7月も終わり。仕事帰りのバスの中から見える向日葵畑はすっかり枯れてしまった。元気な黄色い花はもう無い。まだまだ夏は続くのに、夏の終わりが見え始めたような錯覚に陥って、少し淋しく感じたのは気のせいだろうか。




人気ブログランキングへ 

朝の喜び

29072022small.jpg


新しい朝。朝は何時も嬉しくて、今日はどんな愉しいことがあるのだろうと思う。たとえ思い当たることがなくても、新しい朝は何となく嬉しくて良い予感がするものだ。そしてもっと素晴らしいのは、明日はまた新しい一日であること。だからたとえツマラナイことがあっても、眠りから覚めると気持ちがリセットされて、朝は嬉しい。

昔、アメリカに居た頃のこと。自ら望んで暮らすようになった街での生活なのに上手に波に乗れなくてグズグズしていた時期がある。今の私は其れを思いだす度に、あははと笑いがこみ上げて、まったく何をしていたんだか、と自分のことながら笑ってしまうけれど、当時の私にとってはそれなりに思い悩むことがあったに違いなく、だからそんな自分のことを思いだして笑いながら不憫な気持ちにもなるのである。そんな経験をしたから、上手く波に乗れずにもがいている人の気持ちが多少ながら理解できるようになった。だから満更無駄な経験だったとは思っていない。今の私に似た人が、当時の私の周りに数人いた。もがいていることを窘めることはせず、もがけもがけと言い、だけど明日は新しい一日だから新しい気持ちで始めることを話しの最後にちらりと残してくれるのだ。その言葉が私を元気づけたと言えばそうではなかったけれど、あれから30年も経つのに覚えていると言うことは、それなりに耳を傾けていた証拠、印象深かった証拠。そんな人達が私の周囲に居たのは本当に幸運だったと思う。見えない誰かがちゃんと、私を見守って、必要な人を傍らに置いてくれたのだと思っている。

さあ、今日も元気にいこう。あまり頑張り過ぎずに、穏やかに、滑らかに、深呼吸をしながら。新しい一日を迎えた喜びをかみしめながら。




人気ブログランキングへ 

ひとつくらい良いこと

26072022small.jpg


あまりの蒸し暑さに目が覚めた火曜日の朝。まだ6時前と言うのに蝉が鳴き息苦しい空気に満ちていた。いつものような爽やかな風は無く、あっという間に額に汗が浮かび、それが今日一日がどんな日になるかを現していた。実際、色んなことがあった。あまり好ましいことは無く、周囲の人に聞こえないように落胆の溜息を幾つもついた。

何かひとつくらい良いことがあると良いのにと願ったけれど、結局何も見つからずに一日が終わろうとしていたから、仕事帰りに乗っていたバスを途中で降りて、昔から通っているジェラート屋さんに立ち寄った。今日は小さいのをひとり分ではなく、500グラムを保冷の四角い器に詰めて貰うおうと思って。大好きなジェラートで気分を盛り上げようと思って。この店との付き合いは長く、相棒は若い頃から、私は27年前から。店には年配の店主姉妹が居て、姉さんの方が床の拭き掃除をしていた。客がこぼしてたジェラートで、床が汚れているからと言って。小さな子供でも来たのだろうか。それともそそっかしい大人の客だろうか。兎に角、大好きなピスタッキオとマンゴーのジェラートを半分づつ詰めて貰うように頼んだ。と、その時目に入ったのが野いちごのジェラート。赤くて見るからに美味しそう。これは何年か前に賞を取った美味しい奴よねえと妹さんの方に話しかけたら、彼女と姉さんは顔を見合わせて驚いた。あなた、そのこと覚えているの? 嬉しいわねえ。確か12年も前のことよ。あまりの記憶の良さに驚きよ。彼女たちはそう言って喜び、私の記憶を褒め称えた。こういうことを覚えるのは得意なのだ。歴史上の人物や時代の名前などを覚えるのはてんで駄目だったけれど。そんなことを言いながらあははと大きく笑うと、もう客の誰もが忘れているのに外国人のあなたが覚えていたことには驚いたと彼女たちは言った。受け取ったジェラートはずしりと重かった。多分嬉しいくて少し多めに詰め込んでくれたに違いなかった。

蒸し暑いが夕食の後に相棒とジェラートを頂く頃になると、家の中を涼しい風が吹き抜けた。何処かで雨が降っているのだろう。丘の町だろうか、それともアペニン山脈だろうか。剥き出しになった肩や首を撫でて行った風が思いがけずひんやりしていた。少し疲れたから、この風が癒してくれればいいと思う。夏の休暇まであと10日。




人気ブログランキングへ 

ボローニャの熱い風

24072022small2.jpg


昨晩のこと。ボローニャから見て東部に位置する郊外の5つの町が断水したそうだ。理由は水道管の破裂。業者が一晩中工事をしたが、一部の町では復旧することがなく未だに断水が続いていると今朝の報道を読んで驚いた。この暑さで水のない生活とは。近年水と言えばミネラルウォーターを飲むのが普通になっているとは言え、そんな家ばかりではないだろう。それからこの暑い週末に、手を洗う水も汗を洗い流す水も無いのはどれほど辛いことだろう。聞けば給水車が出動したとのことだけど、便利な生活、水が何時でも身近に存在する生活に慣れた私達だから、辛いことであるには変わりがない。そんなことを考え乍ら、限りある資源のことを思った。水や電気やガス。どれも当たり前のように思っているけれど、無くなってから悲鳴を上げるのは愚か。私達はちょっと立ち止まって、こうした想像したくもないことを考える必要があるのかもしれない。

気が付けば7月24日。7月も残り一週間となった。7月末には数人の同僚が休暇に入り、そして一週間後には私の、待望の夏季休暇が始まるのだ。そうか、もうそんな時期なのかと感嘆しながら、相棒が昨晩言った言葉を思いだした。日暮れが一頃より短くなったと。21時を待たづに日が暮れる空を眺めながら、夏が先へ先へと進んでいるのを感じた。
以前、相棒と私はアペニン山脈の小さな町で催される夏祭りが大好きだった。その辺りに友人達が住んでいたことも関係があっただろう。兎に角、今度の週末の晩はあの村へ、その次の週は別の村へと、足を運んだものだった。何か特別面白いことがあったかと言えばそうでもなく、夜店を見て歩いたり、簡易食堂で食事をしたり、これと言って特筆するようなことなどないのだが、あの頃の私達にはそれがどうしようもなく愉しくて、大きなテーブルに知らない人達と相席して出来立ての簡単な食事をとりながらお喋りする為に車をアペニン山脈に飛ばしたものだった。時には偶然意外な人達と遭遇して、こんな所で何しているの?そういう君もどうしてこんな所に居るのさ、なんて言いながら立ち話をして、良い晩をなんて挨拶をして別れたものだった。それから祭りで頂くワイン。一杯たった2ユーロ程の何処かのワイン農家の普通のワイン。皆でお喋りしながら頂くとこれが堪らなく美味しかった。それから夜空の星。アペニン山脈とあって空気が澄んでいるから、ボローニャの星空なんて比較にならぬほど星が沢山輝いていた。
あんなに好きだった夏まつりに足が遠のいたのは、コロナがきっかけではない。その随分前から私達は夏祭りに行かなくなってしまった。理由は、多分人混みに疲れたからだ。あの星空はないけれど、家で月を眺めながらのんびり過ごすことを、暗黙の了解のようにして私達は選び、夏の生活スタイルを変えた。その後コロナがやって来て、益々人混みが嫌いになった。もう夏まつりに行くことは無いだろう。淋しいかと訊かれたらそうでもない。人間の気持ちとは時間と共に移りかわるものだから、今の生活が私達には丁度良いと思っている。
そういえばアペニン山脈方面に行かなくなって随分経つ。理由は姑の健康で、相棒がボローニャを離れられないからだけど、夏の休暇中に一日くらい涼を求めて日帰り旅行をしようかと思っている。エミリア・ロマーニャ州を超えて、やっとトスカーナ州に入ったばかりの辺りに。あの辺りには小さな魅力的な村と美味しいものが沢山あるから。

夕方の熱風。熱い風が剥き出しになった肩や腕、膝小僧を撫でていく。寒い季節になれば此の熱風さえ懐かしく思えるのだから可笑しい。揺れるの蔓や樹の枝葉を眺めながらゆっくり過ごす夕方。




人気ブログランキングへ 

Pagination

Utility

プロフィール

yspringmind

Author:yspringmind
ボローニャで考えたこと。

雑記帖の連絡先は
こちら。
[email protected] 

月別アーカイブ

QRコード

QR