夏の終わり
- 2007/08/31 23:40
- Category: bologna生活・習慣
1週間続いた不快な暑さにピリオドを打つかのように強い雨が降った金曜日だった。雨が降ると自信満々に予報が出ていた昨日、夕方遅くに向こうの空が墨色になっただけで一滴の雨も落ちてこないまま終わってしまった。予定が遅れたのだろう、午前10時を回った頃ひんやりした風が吹き始めたなと思ったらあっという間に大した雨降りになった。夏特有の通り雨ではない、一気に降ってあっという間に止んでしまう夏らしい潔い雨ではない。遠くの方でどーん、どーんと雷が鳴っているのを聴きながら、仕事の手を時々止めては窓についた水滴の間に目を凝らして外の様子を伺った。まだ降っていた。果たして夕方になってやっと雨が上がるとすっかり涼しく、誰もが半袖シャツの襟の部分を立てて少しでも身を包もうとしていた。丘の家に戻って夕食の用意をする。私にとって金曜日の晩は週末の始まり、一週間働いた疲れを癒す為の楽しく過ごすべき時間である。そんな晩にはワインが欠かせない、それは多分イタリアの家ならば何処もそうなのではないだろう。時に外の気温は20度を下回っており、久しぶりに赤ワインが欲しくなった。暑い最中は血液循環を良くして体温が俄然上がる赤ワインを意識的に避けていたのである。そうだあれを開けよう。地下倉庫から古い瓶を引っ張り出してきた。それはボローニャ近郊にあるサヴォイアという名の農家から買った物である。このワイン農家を教えてくれたのは今は亡きイラリオ老人で、彼は昔隣人だった。偏屈で頑固で我侭で全く手に負えないが、美味しいワインは何処へ行けば買えるかを人一倍知っている人だった。サヴォイアはワインを0.75リットルの瓶に入れて売っていない、だから持参の大きなタンクなり容器なりに入れて貰って自宅で瓶詰め作業をするのである。その作業はいつしても良い訳ではない。スパークリングワインは満月の前に、それ以外のワインならば満月の後にしなくてはならない。もしその時期を間違おうものならば、キッチリと栓をしたにも拘らずある日突然コルク栓がポーン! と抜け出てしまうのだと言う。まさかそんなこと、と初めは信じていなかった私。しかしある年その作業をする時期が少し過ぎてしまい、でも多分大丈夫だろう、と高をくくっていたところ、忘れた頃にコルク栓が幾つも弾け飛んだのだった。昔の人達が言うことは面白くて嘘っぽいが、役に立つことが多い。特にワインとサラミについてはもの凄い知識を持っているので、あはは、可笑しい、冗談みたい、と馬鹿にしてると後で失敗することが多々ある。コルク栓のことはそんなことのひとつである。埃がかぶった瓶をきれいにして昔自分達が苦労して栓したコルクを引き抜く。これは美味しいワインが出来た年のもの。もう残り数本しかない貴重な1本なのである。ああ、こんなに美味しい! ひんやりした晩に特別な赤ワイン、手作りの料理に話し相手が居て、こんな週末の始まりはまったく素敵だ。それにしても涼しい。思えば今日で8月は終わり。私の夏ももうお終い。明日からは違う色の風が吹く。