冬空

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ここ数日の晴天が如何に有り難いものだったかを実感した朝。今日は太陽を望むことが出来ないだろうと思われる、憂鬱な空。恐らくこれが本来の冬の姿で、今までが運が良かったのだと思う。その証拠にこの憂鬱な空に不平不満を漏らす人は居ない。晴天を愛する私ですら、仕方がないなんて思うほど、これが典型的なボローニャの冬空なのだ。こんな日は外に出るのがいい。それに私には行きたい場所があって、今日を愉しみにしていたのである。そういう訳で休暇中だけどそれなりに早く起きて、朝食をとり、家の中を整頓して家を出た。驚くほど車も歩行者もなく、奇妙な気がした。今日は平日の筈だけど、と。向こうから来た旧市街へと向かうバスも埋まっている座席はまばらだった。

何時もなら旧市街に入るなり下車して街の中心までポルティコの下を長々と歩くが、今日は街の中心の少し先までバスに乗った。私の手には小さな紙袋。今日の用事のひとつだった。2020年の2月だったと思う。サルディで手に入れたセーターの袖が妙に長くて気に食わなくて、購入した店の人に相談したら、店が丈詰めなどに出している仕立て屋さんを紹介してくれた。此処に持っていけば確実、店の人のその言葉を信じて持ち込んだところ、本当に素晴らしい仕上がりだった。ボローニャ旧市街の多くのブランド店が此処に仕事を送り込んでいるそうで、その点では仕事のクオリティが保証されていると理解したが、それより私が気に入ったのは、見立てが良いことだった。店の人のセンスがいいのは一目でわかる。彼女はかなり拘り派で、その昔モーダの世界に属していた人に違いなく、彼女に相談したら何でもいい感じに仕上がるのだ。そんなよい店を知っているくせに、2,3年他の店に通っていたのは値段。ここはプロの腕前なだけあって他より少し高めだから。それで今回この店に戻ってきたのは、この店の腕を信用してのことである。気に入りのパンツ2着。冬に活躍するとても感じの良いパンツなのだが、サイズが合わなくなった。あっさり諦めるかどうか迷ったが、いいや、そう簡単には諦められないと、店に持ち込んで相談してみようと思ったのである。いつもこの店は待ち客が幾人も居るが、今日の私は運が良かった。おかげでゆっくり相談して、直して貰えることになった。有り難い。新しく買えばよいと人は言うかもしれないけれど、気に入るものを手に入れるのは案外難しいことだから、直せるものは直しながら着る。それが私流。仕上がりは1月。冬の休暇明けとのことである。上等上等。それにしても彼女は3年振りに来店した私を覚えていた。日本人客は来ないのだろうか。それとも細かい注文を付ける日本人客はあまり居ないのかもしれない。
店を後にして向かったのは市立考古学博物館。先日相棒から貰った小さな贈り物、カード・クルトゥーラを提示すると無料で入館できる場所のひとつである。この夏、ヴィエンナでエジプトの展示品を見て以来、私はエジプトに夢中なのだ。市立考古学博物館にはエジプトの展示品があると聞き、是非今年中に見に行きたいと願っていたのである。博物館は空いていた。これで良い。私は混んだ美術館、博物館が苦手なのだ。地下にエジプトの展示があると聞いて階段を降りると、あった、あった。ヴィエンナとは比較にならないけれど、なかなかの量で2時間かかった。世の中の沢山の人がエジプトの歴史に夢中になるのが分かる。もう一度来ようと思いながらエジプトの部屋を出た。上階の方にエトルリア文明の展示があると聞き、上に行ったら開いた口が塞がらなかった。あ、此れは凄い。これは真剣に見ようと思ったら4、5時間かかる内容で、既に2時間を階下で費やした私は急に疲れを感じて腰を下ろした。館員の女性が怪訝な顔をして見ていたから、これほど多くの展示品があるとは思っていなかったこと、別の日に出直そうかと思っていることを話したら、彼女はあははと笑った。
また来るからと彼女に言って、博物館を後にした。こんなにすごい博物館がボローニャにあったなんて。灯台元暮らしという言葉がぴったりだった。この博物館に数回通うことになるだろう。時間を見つけて2時間づつ。相棒からの小さな贈り物カード・クルトゥーラは、実は大きな贈り物だった。
ところでエジプトの展示品を見ていた時、小さな男の子にお父さんが小声で説明しているのを耳にした。それはなかなか面白い話で、男の子は目をきらきらさせながら展示品に見入っていた。こんな風にして子供は興味を持ち始めるのだろう。例えば私の父が本の面白さを教えてくれたように。小さなきっかけ。これはとても大切。

典型的な冬空はいいけれど、今夜の満月に関しては困ったものだ。もう数日前から楽しみにしていたのに。あの分厚い雲の向こうにいるに違いない満月に声を掛けてみようか。おーい、美しい顔を見せ頂戴。




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