昨日の朝、路上に停めてあった車のフロントガラスや窓が凍っていた。それほど気温が下がった記憶はないけれど、吹きっさらしのこの界隈ではガラスが凍るほど寒かったのだろう。寒い一日になる予感がした。果たして寒い一日になった。そして夕方になると陰鬱な色になり、久し振りに霧が出た。昨日の晴天が夢だったように思えた、そんな陰鬱な夕方だった。だから今朝もそんな風だと思っていたら、快晴。土曜日に相応しい青空、そして眩しいほどの日差し。勿論気温は1度だけれど、なんと気持ちの良いことか。週末は朝寝坊するのが好きだけど、今朝は髪の手入れの日。眠い目をこすりながら起きて、簡単に身支度して家を出た。
まだ10時にもならぬ時間の冬の旧市街は人が少なく、いつもは店の外に列ができている精肉店もパン屋も静かなものだった。パン屋の棚には大きなパンがぎっしりと並べられていて、客を待っているかのように見えた。これもあと3時間もすれば殆ど売れてしまい、空っぽの籠だけが並んでいることだろう。髪の手入れの時間まで少しあった。それで七つの教会群広場に立ち寄った。此処もまた、まだ人が少ない。昼前には多くの人で賑わうに違いなく、人混みが苦手な私には閑散としたこの時間帯が丁度良いと思った。広場に何処かで見た事があるようなご婦人がいた。他人かもしれないが、よく似ている。誰だっただろうかと思いながら思いを巡らせていたら思い出した。
昨夕バスの停留所に居たご婦人によく似ていた。彼女は私と同じバスを待っていた。1時間に3本しかない、割と不便な路線のバス。最近私は目と鼻がアレルギーらしく、とても痒い。それで小さなくしゃみを3つして鼻をかんでいたら、彼女が私をじっと見ているような気がした。さて、なんだろう、と顔を上げると彼女は私の横を通り過ぎて後方の男性に声を掛けた。彼女が見ていたのは私ではなく、後方から歩いてきた盲目の男性だったのだ。車の通りが激しいからと言いながら彼女は男性の腕をとり、大通りの横断歩道を一緒に渡ると、ここから真っすぐ歩道を歩いて行くといい、と説明して戻ってきた。戻ってきた彼女も私も、ずっと男性の行方を目で追った。ちゃんと到着できるだろうかと。きゃ。彼女は小さな悲鳴を上げた。あの門が閉まっているなんて。開いている筈の門が閉まっているなんて。どうやら男性は農家直営のワイン販売所に行きたかったらしい。男性が固く閉じられた門を手で探りながら困っている様子が遠目にもわかって心苦しかったが、今まさに私達が待っていたバスが向こうの方に姿を現したのだ。さあ、どうする。私は葛藤したが、彼女は迷わず横断歩道を渡って男性の元に駆けていった。彼女はもう一度男性の腕をとり、ゆっくりと歩き始めた。その様子を私は乗り込んだバスの窓から眺めながら、私には出来なかったことを彼女が迷わず実行したことに感嘆していた。このバスを乗るために長々と待っていた彼女は、また更に20分待たねばならない。でも彼女は迷わず盲目の男性を選んだ。時々そんな人が居る。迷わず助けの手を差し伸べる人。いうのは簡単だけど行動に起こすのは何と難しいことか。何時か私もそんな人になれればいいと思う。彼女の様子を眺めながら、努力したいと思った。
あのご婦人と男性はあれからどうしただろうか。ちゃんと目的地にたどり着いただろうか。いつか停留所でご婦人と一緒になることがあるならば、声を掛けてみようと思うる。私はこんな感じの人が大好きだから。優しい人が大好きだから。
髪の手入れをして貰って気分上々。とても丁寧な仕事をして貰って有難く思ってる。歳を重ねるのは嫌ではないが、自分メンテナンスに時間と費用が掛かる掛かる。でも、それでもいいと思っている。綺麗にしておくことで気持ちよく生活できるなら、こんな安上がりなことはない。
隣の家に2匹目のチワワがやって来たのはこの冬のことだ。一匹目のチワワ、シャネルは気が強くていつも吠えているが、2匹目は穏やかな性格で吠えることを知らないくらい静かだ。8か月の仔犬。昼過ぎに家に帰ってきたら庭で偶然はちあわせて、はじめましての挨拶をした。ピンク色のダウンジャケットを着ているのには呆れたけれど、とてもよく似合っていた。可愛いチワワ。外に出るのが好きだそうだから、天気の良い日は会う事があるかもしれない。うふふ。愉しみがひとつ増えた。その愉しみがチワワだなんて知ったら、家の猫は怒るだろうなあ。