駆け足

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11月が終わる。テラスのわきの菩提樹の葉は数枚を残して知ってしまった。裸の樹が寒々しく見えるばかりでなく、向こうの敷地の建物が丸見えなのが益々寒い。葉の茂った樹がどれほど有り難かったか、毎年葉が散ると痛感するのだ。

明日から12月だなんて。月日が駆け抜けていく。置いてきぼりにならないようにしようと思う。しっかり地に足をつけて。そして風邪を引かないようにしたいと思う。元気に冬を愉しむために。




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寒い冬

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寒い寒い一日。冷たい雨が降り、アスファルトは一日中黒く光っていた。雨に濡れた外猫さんの姿に心が痛んだ。後で探しに行ってみたけれど、外猫さんは見当たらなかった。あの後温かい場所を見つけたならいいけれど。美味しいものにありつけたならいいけれど。

先日道を歩いていたら、ショーウィンドウと店のしきりに感じの良い布地が掛っていた。店はインテリア関係で、椅子の背もたれや座る部分に使う、それからクッションに使う布地を扱っている。置かれている布地は選りすぐりで、その上面白いセンスで私の目を何時も楽しませてくれる。当然、高級な布地ばかりで私などには手が出ないが、眺めるのは無料、と私はいつも店の前で足を止めるのだ。それでその日飾られていた布地というのがスキー場の様子を描いたもので、じっくり観察すると実に面白かった。服装や色合い、表情とか仕草とか。1950年代から60年代のコルティーナ辺りの匂いがプンプンして、私の心を掴んで離さなかった。冬にはこんな布地を壁に飾ると愉しいだろうなあ。そんなことを思いながら眺めていたら、身なりの良い夫婦が横に並んで同じようにそれを眺めた。これは愉快。彼らはそう言いながら店の中に消えていったが、さて、あの布地を手に入れるのだろうか、そんなことを思いながら店の前を離れた。現代的で斬新なものもよいけれど、寒い冬はこんなほのぼのした絵の布地もよいと思う。例えばあれをテーブルクロスにしたら、食事が楽しくなるに違いない。相棒が気に入ること間違えなしだが、あの店に入って値段を訊かなくても想像できる。私には手が届かないほどの値がついていることを。でも、良いものを見せて貰った。また近いうちにあの店に行って眺めたいと思う。

こんな風にして、明日はもう11月最後の日。最近愉しいことがあまりなくて、それから七面倒臭いことも多くて深い溜息が零れがちだけど、もう辞めた。辞めた、辞めた。面倒臭いことからはすっかり手を引くのだ。シンプルに行こうと思う。明日から元気。




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至極幸せ

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今日は一日酷い曇り空で、しかも冷え込んで参った。風邪をひきそうな気候に脅かされた。特に帰り道は寒かった。ウールの温かい襟巻が必要な季節になった。12月まで待とうと思っていたけれど、数日早くなりそうな予感。

最近夕食が楽しい。理由はトリュフのブリーチーズ。決してチーズの知識に長けているわけでもなければ、舌が肥えていて小さなうまみの違いが分かるわけではないけれど、単純にこのトリュフのブリーは美味しい。美味しいものは美味しい。つべこべ言わずに美味しいの一言でよい時もある。これはフランスから送られてきたもので、ボローニャ辺りではなかなか手に入らない。年に一度、この時期だけに手に入れることが出来る此れを、首を長くして待っていた人は私ばかりではあるまい。これをパンに塗りつけて頂く。空いたもうひとつの手には赤ワインが注がれた足の長いグラス。私にはこれだけで十分ご馳走で、至極幸せな時間である。
先日、このチーズが入荷したと知って店に行ったら先客がいた。見た事があるような無いようなふたりで、男のほうは四角い黒縁の眼鏡をかけた俳優にしてもいいようなタイプ。女のほうは話したら面白い話が出てきそうな、何か特殊な仕事をしているタイプ。どちらも歳の頃は50代で人生を謳歌しているような感じで気持ちが良かった。二人は恋人ではないようだった。長い間の友達という風で、淡々と話しながら時折私のほうをちらちら眺めた。多分、私がブリーを受け取りに来たついでにカウンターに腰を下ろして赤ワインを注文し、店主と話し始めたからだろう。誰、此の外国人。多分そんなところだったに違いない。注文したブリーとは別に、つまみにトリュフのブリーが欲しいと強請ると、店主は恐らくそんな話になるのではないかと思っていたんだよといいながら、隠してあった残りの塊から小さく切って皿に乗せてくれた。そこで急に流れが変わった。あなた、チーズが好きなのねえ。隣に座っていた彼女に声を掛けられて、うん、難しいことは分からないけれど好きよと答えると、難しいことなど分からなくってもいいのさと、今度は彼が笑って口を挟んだ。いやあ、此れがあるとワインが進む、と言って彼らは二杯目を注文した。難しいことなど分からないでもいいのさと言った割には彼らはチーズの知識が豊富で、話に耳を傾けるのは、まるでチーズの辞書でも引いているかのようだった。そして彼らの感想を聞いていると、まるで自分がそのチーズを食している錯覚に陥るのだった。この店にはいろんな客がやってくる。知らない彼らの話に耳を傾けるのが私の楽しみ。

美しい明りに飾られた旧市街がとても綺麗。早くやって来る夜も悪くない。




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豊かさ

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地面に落ちた菩提樹の葉が美しい。葉は、朽ちて落ちても美しい。私は樹に生まれてきたかったと知ったら、母も空に居る父も驚くに違いないけれど。窓を開けて樹を眺めていたら、菩提樹の枝を足早に走る栗鼠を発見。冬籠りの準備だろうか。栗鼠は何処で冬を過ごすのだろうか。場所を教えて貰えるならば、木の実などを差し入れしたいものだけど。

この時期になるとアメリカの海と坂道のある街に暮らし始めた年のことを思い出す。私は夏この街に暮らし始め、それからの毎日が冒険だった。もともと好きで通うように訪れてはいたけれど、何時も8月か9月、それとも2月で、だからそれ以外の時期のことは初めてのことが多かった。私には一握りの友人しかいなかった。そこに暮らし始めた頃に交流のあった年配の夫婦とは、小さくて大きな問題で離れてしまったから、更に少なくなった。但し単なる知り合いは案外いて、街を歩いていると、やあ、元気かい、なんて声を掛けられたものだった。感謝祭は寂しい思いをした。自分の家族なんていないし、友人は旅行にでたし。何もすることがない感謝祭とは寂しいものだなあと思いながら、ひとり坂道を歩いた。それでも運が良かったのは、空がご機嫌に青かったことだ。11月の終わりというのに気温が上がって、それが私の寂しさを紛らわせた。丁度通りかかった友人のアパートメントのベルを鳴らしてみた。多分留守だと思いながら。すると道に面した上階の出窓が開いた。何しているの?と訊いたのは友人で、何もすることがなくて歩いていたら丁度通りかかってベルを鳴らしたと答えると、丁度始まるという感謝祭の食事に招いてくれた。招きざる客だったはずなのに、まるで招いた客のように居場所を作ってくれて、有り難かった。手料理の美味しかったこと。そこに居合わせた知らない人達の優しかったこと。31年も前のことなのに、この記憶だけは色褪せることがない。
感謝祭を終えた翌日、街が一気にクリスマスモードになった。ブラックフライデーで、街の中心のスクエアを囲んで建つ大きな店に繰り出す人の多かったこと。メイシーズ、アイ・マグニン、ニーマンマーカス、そしてサックス・フィフス・アヴェニュー。まだ学生で収入のない私には無縁だったブラックフライデーだったけど、これを利用してクリスマスの贈り物を一気に購入したい人たちの様子を眺めるのは面白かった。高級店に興味本位で入れるほど勇気がなかった私だが、メイシーズくらいには平気で入れて、どんな物があるのかと思いながら見て歩いた。そして一番上の階にたどり着いた時、あっと声を上げた。其の階はクリスマス一色だった。クリスマスツリーに飾るオーナメントやライト、綺麗な箱や缶に詰めた焼き菓子。クリスタルの装飾品は大変高価で、服の裾をひっかけないように注意しながら歩いたものだった。特に素晴らしかったのがクリスマスカード。手紙やカードが主流だった時代だから、その種類の豊富さは簡単な言葉で言い表すことは難しい。一枚売りから箱売りまで。多くの客がカード売り場に足を止めて、これがいい、あれがいいと選んでいる様子はとても楽しそうだった。
私は自分の貯金を全て抱えてアメリカに移り住んだ。それは増えることはなく減る一方で心細かったはずなのに、家族から離れてひとりなのに、友人だって一握りしかいなかったのに、なのに気持ちは豊かだった。自分が好きな場所に居る喜びとか、知らない人達からの親切とか。カーンと晴れた高い青空とか。切り詰めた生活なのに、不思議と豊かだった。それらは今、私の宝物として心の小箱に納まっている。良い時代を過ごすことが出来たと感謝している。

今日の晴天は空からの贈り物。家じゅうの空気を入れ替えて、遂に終わってしまった茗荷の鉢の手入れをして、はち切れんばかりの元気な赤い実をつけた唐辛子の手入れをして、テラスを掃き清め、枯れた葉をひとつひとつ積んで。そういうことが出来るのは晴天だからだ。この冬は是非とも晴天。晴天を願いたい。空が晴れていたら、大抵のことはポジティブな気持ちで乗り越えられると思うから。




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週末は散策

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最低の気分だった金曜日。自分の気持ちを上手に扱えないこともそうだけど、そんな状況になった自分に一番腹が立った。最低の気分だった金曜日の締めくくりは雨。晩まで持ちこたえると思っていたのに、日が暮れる早々降り始めた雨。水溜りに足を突っ込まないように気を付けながら歩くのは苦手だ。傘を持って歩くのはもっと苦手。最低の気分の傷口に塩を塗るような帰り道。同僚と途中で別れてから、深い深い溜息が零れでた。救いは注文しておいたものが届いたこと。痛んだ靴を磨くためにちょっと質の良い蜜蠟を注文したのだが、5日目になってやっと届いた。こんなに時間が掛るなんて驚いたが、ドイツから届いたと知って納得した。家に帰って早速靴に蜜蝋を塗り、数分おいてから柔らかな木綿で磨いたら、驚くほど艶が出た。待った甲斐があった。もう駄目だと思っていた12年物のショートブーツが蘇った。

土曜日。今日は晴れると言われていたが、目を覚ますと鼠色の空。少し前まで雨が降っていたのか、地面も木の枝も濡れて黒く光っていた。晴れないかもしれない。また雨が降るのかもしれない。だけど旧市街へ行こうと思った。くさくさした気分を昨日から引きずっていたから、気分転換しようと思って。土曜日のカッフェはいつもより美味しい。それは時間に余裕があるからだろう。大きなカップにカッフェとたっぷりの温かい牛乳を注いだら、ふわりといい匂いが立ち上った。今日は少しは元気なのかと、猫が顔を覗き込む。猫は私がしょんぼりしていると、とても心配になるようだ。大丈夫。もう少しで元気になる。私はそう答えて彼女の頭をぐりぐりと撫でまわし、残りのカッフェラッテを飲み干して立ち上がった。さあ、旧市街へ行こう。
運がいい。大通りに出たら向こうにバスの姿を発見したので停留所の駆け寄った。私以外に乗る人もいなければ降りる人もいないのに、運転手が私の姿を見つけて止ってくれたおかげでバスに乗ることが出来た。おはようございます。そしてありがとうございます。バスに乗り込みながら元気に運転手に声を掛けたら、運転士も元気な声で返してくれた。どういたしまして、シニョーラ。こういう小さなやり取りが好きだ。挨拶は大切。たとえ知らない同士であっても。
旧市街に着くころには空が明るくなり、太陽が顔を出した。11月最終金曜日とあって人が多い。ブラックフライデーがいつの頃からかイタリアにも定着して、それを利用しての買い物客が多くなった。感謝祭は置いてきぼりで、ブラックフライデーだけがアメリカからやって来た。それがいまだに可笑しくて、この時期になると私は心の中でくすくす笑う。まあ、こういうことで商店が少しは潤うならば、そして私たち消費者も恩恵を受けることが出来るならば、悪いことではないと思う。
ポルティコの下を歩いていたら、のろのろ歩いていた4人組に追いついた。若い女性がふたり。ひとりはベビーカーを押していて、ベビーカーには小さな女の子が座っていた。もう一人の女性もベビーカーを押していたが、中は殻で、母親と手を繋いでいない小さな小さな男の子は周囲を心配させるような足取りで歩いていた。だからのんびりで、私が追い付いてしまったのだ。転びそうで転ばない。男の子の足取りを見守りながら歩いた。追い抜きたいが、何しろ横に広がっして歩いているので、追い越すことが出来ず、仕方なく後ろを歩いていたのだが、この4人組の後ろを歩くのは思いがけず面白かった。お母さん、綺麗な花だね。男の子は店の前で止まり、ガラス窓に描かれた花を指さした。本当だ、綺麗な花。皆が足を止めた。後ろに続く私も、その後ろに続く男女たちも。そしてまた歩き出す。お母さん、此処にも花がある、綺麗だね。男の子は花屋の前で止まり、切り花をひとつ抜き取った。あっ。此れには皆が声を上げ、困ったことになったと思った。すると花屋の中から女性が出てきて、男の子の手からそれを取り上げると店の中に入ってしまった。怒ったにしても子供相手にいったい。とハラハラしながら見ていたら、女性が戻ってきて男の子に花を差し出した。はい、どうぞ。見れば花には綺麗なリボンがついていて、男の子は大そう感激したらしく、花を受け取って跳ね回った。母親は花の代金を払うべく財布を取り出したが、花屋の女性はそれには及ばない、これは彼への贈り物なのだからと言ってにこにこしながら店の中に入ってしまった。歩いて跳ね回って疲れたのか、男の子が遂にベビーカーの中に納まった。その顛末をすべて見届けて、4人組を追い抜いた人たちの何と多かったこと。私たちは辛抱強い人間なのだ。イタリア人が皆、情熱的で感情的で短気なんて言うのは嘘だ。時にはこんな風に忍耐強い。特に小さな子供がいるときは。
こういうことに遭遇すると気持ちが温かくなる。優しい気持ちをありがとう。やはり週末は散策に出るのがいい。

クリスマスカードを購入した。塔のすぐ近くの文房具屋さんで。この店に行くのは一年に一度、クリスマスカードを購入する時だけ。だけど数年通っているから、店のシニョーラに顔を覚えて貰ったようだ。店に入るなり言われた、クリスマスカードでしょう? そう言われてあははと笑う。シニョーラと一緒にあれこれ選び出して4枚購入。これが第一歩。クリスマスの愉しい準備の始まり。これから色んな準備が始まるのだ。




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