靴が好き
- 2019/02/25 23:53
- Category: 好きなこと・好きなもの
久しぶりに歩く界隈のポルティコの下で、ふと、足を止めた。靴屋の前だ。私の大好きな店で、以前は夏といい冬といい、買い物をするしないに関わらず立ち寄ったものだ。私の大好きな靴を置いているボローニャ唯一の店。以前は直営店がボローニャに存在したが、それが撤退してからはこの店が頼りの綱となった。昔から私は靴が好きで、多くの靴を所有したものだ。それは私の家族の趣味のようなもので、母にしても姉にしても靴が好きで、靴屋に行くのが好きだった。父だけが例外で、何故もこれほど靴が必要なのだと呆れてばかりいた。そんな父に私達は、お父さんは何も分かっちゃいない、と首を横に振るばかりだった。あれから随分の年月が経ち、この靴に出会った8年ほど前からは、靴を多く持たなくなった。毎年買い替える必要もなければ、買い足す必要もない。いつの頃からかそんな風になった。お洒落じゃないと言えばそうかもしれないけれど、自分スタイルの履き心地の良い仕立ての良い靴が季節ごとに数足あれば満足できるようになったのだ。それが良いかどうかは分から無い。そして、それが良いかどうかを知る必要もない。皆考えることが異なってよいのだ。店に入ると感じの良い女性が出てきてくれた。此の店に長く居る女性。私の足元を見るなり、直ぐに私が見たい靴が分かったらしい。靴のサイズだけ確認すると奥に引っ込んで幾つも箱を持ってきた。あなたのことは覚えていますよ。此の靴が好きなんでしょう? そう言われて記憶力の良い女性たと感心した。ここに最後に来たのは、確か3年前のことだから。目の前に差し出されたのは同じブランドの踵の高いショートブーツ、モカシン、そして今履いているショートブーツの色違い。その中からモカシンを手に取ってみたら、何と革の柔らかいこと。ナイロンの靴下で履いても、それから素足で履いてもよさそうな、多様に使えそうな1足だった。試しに履いてみたら軽い。足にフィットして歩きやすかった。ずっとこんなモカシンが欲しかったのだと喜ぶ反面、厳しい現実を思いだす。この靴は安くない。だから私は頻繁に購入しないし、買った靴は手入れしながら5年も10年も履くのだ。ならば何故店に入ったのかといえば、興味本位だったと言えばいい。折角この界隈に来たのだから、と。考え込んでいる私に冬のサルディ対象品であることを彼女が耳もとで囁いた。聞き間違えかと思ったのは、此の靴は何時だって割引をしたことがなかったからだ。えっ、と目を丸くして聞き返す私に彼女が頷く。此の店の人達は、客に商品を強く勧めない。気にいったら、どうぞ。少しでも気に入らなければ、また次回の来店を待っていますよ、といった具合だ。此れほどさらりとしているのは、良い顧客が沢山居る証拠。例えば私が買わずに店を出ても、遅かれ早かれ誰かが購入するだろうと言うことだ。置いている商品に自信があるともいえる。それは良い客を沢山持っている自信かもしれない。少し考えてモカシンを手に入れることにした。失敗することの無い靴。多分5年も履いてしまう靴。履き心地の良い靴。色々理由をあげてみたが、気に入ってしまった、その一言に尽きる。新しい靴。夏以外のどの季節にも活躍しそうな、柔らかい革のモカシン。嬉しいなあ。こんな一足が欲しかった。
相棒が栗のクリームを買ってきてくれた。ずっと探していたが今年に限ってはどの店にも置いていなかったから、相棒とふたりで手分けして探していたのである。この栗のクリームをパンにつけて食べるのが私のおやつみたいなもの。それから疲れた夕方は小さなスプーンにひと匙すくって、口の中に放り込むのが私の癒し。こんなもので癒されるのだから、君は単純だねえ、と相棒は言うけれど、単純で結構。単純、万歳。