さよなら、7月。
- 2023/07/31 22:03
- Category: bologna生活・習慣
7月最後の日。なかなか蒸し暑い一日だったが、夕方遅く雨が降って益々湿度が上がった。例えば肌がべたつくような感じ。こういうのが苦手な私は決して亜熱帯、熱帯雨林の国には暮らすことが出来ないだろう。運が良かったのは家に帰っていたことだ。遠くで雷が鳴り響くと案の定猫は床を這うように退散して姿を消した。そうして降り始めた雨。地面の匂いが立ち上り、私を遠い昔に連れて行こうとした。雨に濡れて立ち上る地面の匂いは私の子供時代、思春期の記憶につながるのだ。何の心配もなかった子供時代。大好きな男の子と手を繋いで歩いた思春期の頃。そういうことをこの匂いで思い出すのだから、記憶というのは不思議なものである。そのうち雨がやんで空が晴れたら虹が出た。久しぶりの虹だった。そして暗くなると満月を明日に控えた美しい月が姿を現して、きっとうまく行くよと言っているように思えた。小さな上手くいかない色々があるここ数日溜息のひとつもついてしまうが、月が空から応援してくれていると思えば何とかなる。そうだ、きっとうまく行く。
バスの中から旧市街の様子を見て驚いたのは個人商店が軒並み休暇に入ったことだ。木曜日の午後でもないのに何処もがシャッターを下ろし、四角い張り紙を残していた。バスの中からは読むことが出来ないけれど、恐らく何時から何時まで夏季休暇、なんてことが書かれているに違いないのだ。花屋も宝石店も下着屋もバールも。その先のクリーニング屋も自然薬局も衣料品店も。まるで申し合わせたようにシャッターが下ろされているのには驚いた。景気が良い証拠なのか、それともその反対なのか。多分景気が良いのだろう、そういうことにしておこう。
ところで行きつけのクリーニング屋も先週末からひと月の休暇に入った。先週金曜日に頼んでおいたものを引き取ろうと仕事帰りに立ち寄ったら、閉店時間でもないのにシャッターが下りていて驚きだった。電話を掛けてみたら、用事があって店を提示より早く閉めたのだと言う。当惑する私に店の人が提案した。クリーニング屋の隣のバールに預けておくから月曜日に来たら、と。そんな話前代未聞で耳を疑ったが、バールの店主をよく知っているらしく、大丈夫、大丈夫とのことだった。それで今日、仕事帰りにバールに立ち寄ってみた。あのー、クリーニングを引き取りに来たんですけど。恐る恐る言う私に店主らしき男性は一瞬呆然として、居合わせた客も呆然として、実に気まずい空気が流れた。ほら、こういうことになると思った。そう思いながら自分の名を述べると、ああ、シニョーラ、あなたでしたかと言って店の奥から私の名が大きく書かれた白い袋をとってきてくれた。そのまま受け取って店を出る手もあったけど、全然関係ないバールが隣の店に頼まれて預かりものをしてくれたのは親切以外の何物でもない。それで冷たいものを注文することにした。桃のジュースに炭酸水を注いで貰ってごくごく飲んだら涼しくなった。代金を払って店を出ようとしたら、もう私の名を覚えてしまったらしい店主と客が別れのあいさつと一緒に私の名前を大きな声で言うのには参った。平凡な苗字なのだ。覚えて貰って嬉しいような、恥ずかしいような。まあ、嬉しいことにしておこうか。
さよなら、7月。素敵な7月だったと思う。あえて言うならもう少し、涼しいほうが良かったな。明日の朝にはこんにちは、8月。いよいよ夏季休暇を目の前にして、私の心は舞いあがる。