11月最後の週末。このところ気温が低くて、帽子なしではどうしようもない。今朝の冷え込みも大変なもので週末と言うのに早起きして外に出たら、まだたったの3度しかなかった。今週末、旧市街では沢山の催し物があるようだ。エンツォ王の館では腕の良い料理人やエノテカが集まって、何やら美味しい集いをしているようだし、中央郵便局の前の広場では昨日から12月20日頃までフランスのクリスマス市場が立っているし、市庁舎の前では養蜂業者なのか何なのか、蜂蜜を並べて販売しているし、兎に角何処も彼処もわくわくしているように見える。アメリカでは感謝祭のロングウィークエンドだけれど、ヨーロッパにはその楽しみは存在しない。ヨーロッパの文化ではないと言えばそうだけど、農作物の収穫を喜び湛え、それに感謝する祝日があっても良いのにとこの時期になると必ず思う。何でも当たり前になってしまうのは残念だ。一年に一度くらいは思いだすと良いと思う。
朝のうちに用事が終わり、昼前に旧市街に到着した。人があまりにも多いので驚いた。これは例の催し物のせいかもしれないし、それから多くの店がBLACK FRIDAYと名乗って、金曜日からの週末の間は割引をしているので、ショッピングに駆けつけた人も居るのかもしれなかった。割引率は2割から4割。このところの不景気を乗り越えるための手段に違いないが、消費者としては有難いというものだ。もっとも私は興味が無くて、そんな人たちを眺めて楽しむだけ。私が旧市街に来たのには理由があった。手打ちパスタを購入したかったのである。目当ての店に行ったら酷く店内が混んでいて、中に入ることもできなかった。此処は少々値段の張る食材店。良いものを置いているために少しくらい高くても断然人気があった。でも、私は順番を待つには疲れていて、その場を去ることにした。何しろボローニャには手打ちパスタを売る店が他にも何軒もあるのだから。次に行ったのは大きな食料品市場の裏手に在る、小さな手打ちパスタ専門店。中には数人の女性客が居たが、直ぐに客がはけそうだった。そうして自分の番がやって来ると、店の人が申し訳なさそうに、今日は予約注文に追われていて販売できるパスタが無いと言った。無いの? そう、全然ないの。それで仕方がないので次の店へ行った。7つの教会群の前の広場に面した小さな手打ちパスタの店。きっとここならばあるに違いない、しかし無くなってしまっては大変、と早歩きで向かう。タリアテッレください。と言う私に店の人が奥からトレイに並べたタリアテッレを持ってきてくれた。此れだけしかないんだけど、と申し訳なさそうにして。それであるだけ全部購入した。店の人はそれを3人分と言うけれど、うちではこれは僅か2人分だと思いながら。やっと手に入れた。今夜の夕食用のタリアテッレ。
昔、姑がまだ元気だった頃、つまり17年前まで、彼女は毎週末はパスタを打った。小柄な彼女の何処にそんな力があるのかと驚くほど、1キロの小麦粉と10個の生みたての卵を捏ねて捏ねて、そして木製の長い棒で驚くほど薄く引き伸ばした。その様子は職人芸で、しかし彼女は昔のボローニャの女は、誰もがこうして家族のパスタを作ったのよと、職人芸でも何でもないと言った感じで笑っていた。それにしても彼女が作ったタリアテッレとトルテッリーニは近所でも評判で、作ってほしいと頼まれることがしばしばあった。私達はそんな風にして、毎週日曜日になると美味しいパスタをごく当たり前のように頂いていた。彼女が病気になって動けなくなると、私達は急に手打ちパスタから遠のいてしまった。理由は何だっただろう。高いからかもしれないし、元気だった彼女が手打ちパスタと深く結びついていたから、少し距離を置きたかったのかもしれなかった。あんなに美味しいのに。私はいつも心の隅で思っていたけれど。そんな私が急に手打ちパスタを求めるようになった。病気になったら美味しいものも美味しく頂けなくなるから、と言って。そういう私を相棒は、君は贅沢だなと言っていたけれど、そのうち彼も気が変わったらしく君の意見に賛成だな、と言って私が外から調達してくる手打ちパスタを心待ちにするようになった。数週間前、手打ちのタリオリーニにトリュフのバターを絡めただけのシンプルな一皿を頂いたところ、とても美味しかった。素材がいいから、の一言に尽きる。レストランに行くのも良いけれど、私はこんな風にして家で肩の力を抜いて美味しいものを頂くのが好きだ。自分で選んできた素材で、自分が手を加えた一皿に、長いこと地下の倉庫で眠っていたワインの栓を抜く喜び。全く小さな喜びだけど、こんな小さな事も嬉しいと思えるのは案外良いことだと思うのだ。
最近直ぐに土曜日になる。この調子でいけばクリスマスはあっという間にやって来ることだろう。クリスマスツリーはどうしたものか。飾れば猫がよじ登って大変なことになるだろう。歓喜すること間違えなしだけど。12月8日まで、じっくり考えてみようと思う。