壁の鳥
- 2009/05/31 23:00
- Category: 好きなこと・好きなもの
ボローニャ旧市街の食料品市場界隈の中心であるvia pescatore はいつも新鮮な食料品を求める人達で混み合っている。大抵の人は行きつけの店をめがけて直進するが、中には今日はあの店に良い苺が並んでいる、とかで同じ道を行ったり来たりする人も居て、この細い道は混み合っていると言うよりはごった返しているといったほうが正しい。いや、別に同じ道を行ったり来たりするのが悪いと言っているのではない。行きつけの店へと直進する私だって時にはそんな風にして彷徨うのだから。何だって新鮮で安いほうが良い。消費者は賢くなくてはいけないのだ。そんな風だから、殆ど毎日歩くこの通りなのに気がつかなかったものがある。壁の鳥。大きな鳥だ。ある日店がすっかり閉まっている日曜日に、ふらりと歩いていて見つけた。朽ちた壁に洒落た色合いの鳥が落書きされていた。あらあら、こんな大きな鳥。住人は怒っているのではないだろうか。ふと昔のことを思い出した。サンフランシスコに居た頃、私の暮らすフラットの白い壁に黒いスプレーで大きな落書きがされているのを発見してかんかんに怒ったものだ。見つけるや否や白く塗りなおしたが、そのまた翌日落書きが施された。そんなことを何度か繰り返しているうちに、ある日落書きの犯人である小さなギャング達を捕まえた。その後は落書きに悩まされることは無くなった。そんなことがあったから壁の鳥を見つけた住人はさぞかし憤慨しただろうと思ったのだ。しかし、それからこの通りを歩く度に気にして見ているが、この鳥が消される気配は一向に無い。ひょっとして気に入っているのかな。そんな気がしてきた。よく見れば真面目な目つきでちょっと可愛い。壁の鳥をじっと見ていたら近所の店のおじさんが背後にやってきてこう言った。Non c'è male (悪くないよな)。成る程、気に入っているんだな。そう解かったら思わず笑いがこみ上げて、知らない店のおじさんと顔を見合わせて声を上げて笑った。たまにはそんな落書きもあってよい。