親切な女性
- 2023/12/26 17:20
- Category: bologna生活・習慣
気温は低くも快晴。空が明るいのが肝心要の私の冬の休暇。イタリアは今日も祝日だけど、人々は活動を始めたようだ。近所のバールは何時も通りの営業で賑わっている。常連客ばかりでなく車で偶然通り掛った人達も多いようだ。あ、店が開いているね、なんて風に中に吸い込まれていくのかもしれない。兎に角天気が良いから、皆外に出たくなるというものだ。そういう私は家に籠っている。昨晩から扁桃腺が宜しくない。理由は何だろう、こんなに気をつけているというのに。有り難いのは寝込むほどでないこと。それで朝から小さな色々に時間を費やす。例えば相棒のニット帽。以前は私のものだったが相棒に譲った。黒とグレーのリバーシブル。素材がカシミヤとあって温かく、相棒は大そう気に入って着用していたのだが、何処かに引っ掛けて穴をあけた。多分ジャケットのファスナー付きポケットに突っ込んだりしたに違いない。それで明るい窓辺で繕い物をした。此のくらいのことなら上手くできる、セーターの繕い物はごめんだけれど。穴を繕って手洗いして外に干した。今までは近所のクリーニング屋さんに任せきりだったが、昨年の冬の初めに廃業してしまったのだから仕方がない。ニット帽くらい自分で洗えなくててどうすると叱咤激励した朝だった。
先日旧市街のポルティコの下を歩いていたら、旅行会社の中で働く女性が目に入った。最近眼鏡を掛けて歩くようになったこともあり、今まで見えなかったことが見えるようになったのである。その女性に見覚えがあり、思い出して、あっと思った。
8年ほど前の夏、友人夫婦がボローニャに来た時のことだ。オスロからミラノまで飛行機出来て、其処からボローニャに列車を使ってやって来た。うちに少し泊まってから、月曜日の朝に情緒溢れるチンクエテッレへ、そしてその後ミラノへ行って飛行機に乗るという計画だった。そんな細かい計画を立てているくらいだから全て手配済みと思っていたら、そうではなかった。ボローニャからチンクエテッレへの足、チンクエテッレからミラノへの足は決まっていないという。列車かレンタカーか。それを知ったのは土曜日の午前中で、私達は急いで旧市街へ行った。取敢えず目についた旅行会社に飛び込んだ。初めて入る小奇麗な街の真ん中の旅行会社。ここで手配が出来るかどうかは分からないが、訊いてみようと思って。旅行会社の女性は辛抱強く友人夫婦の話に耳を傾けてくれた。結局列車は乗り換えやら何やらで時間が掛りすぎるからレンタカーが良いことになったが、レンタカーの手配はしていないとのことだった。そうは言いながらも、色々調べて何処へ行けばいいかを提案してくれた。駅の向こう側にある小さなレンタカー会社。あそこなら土曜日の午後も開いているからと。この女性、面倒臭い話に一時間も付き合ってくれた。彼女の親切に僅かながらも礼金を渡そうとする友人夫婦だったが、女性はにこやかにそれを断って私達を店の外に送り出した。私も長らくイタリアに暮らしているが、こんな親切な人は見た事がなく、全く感心したものだった。
その彼女がポルティコの下の旅行会社の中に居た。そうだ、此処だった、すっかり忘れていたけれど、あの日私達が飛び込んだのは此処だった。近年旅行会社は景気が宜しくない。コロナも大きな理由だけれど、それ以前から個人で旅行を計画して自分で航空券やホテルを手配する時代になったから、昔ほど旅行会社は好景気ではないのだ。私も過去に大手旅行会社の一員だった。旅行会社好景気の真っ最中の時代のことだ。私が辞めて数年経った頃から急激に縮小してしまったのは、経営難ではなく、そうした時代の流れが背後にあった。時代の流れ、変化と言えばそうだけど、自分が関わっていた旅行会社が縮小していくのは心苦しく思っていた。あの彼女、時代の波を乗り越えて今もここで働いているのか。そう思ったら嬉しくなった。
数日前に旅行会社に立ち寄った。土曜日の昼間のことだ。別に単に挨拶に行ったわけじゃない。航空券を手配して貰おうと思って。航空券なんてもう15年以上インターネットで購入しているけれど、私は彼女に頼みたくなったのだ。多少の手数料がかかるけど、ひとりでも客が多ければ彼女の仕事は継続するだろうと思ったからだ。事前にネットで調べて行ったから、彼女が如何に良い航空券を探してくれたかが分かって嬉しくなった。彼女は親切なばかりでなく、腕のよい社員なのだ。代金を払って店を出る前に、以前こんな事があったから、是非あなたに航空券を手配して貰いたいと思っていたと話をしたら、彼女はびっくりして、目を丸くして、そしてとても嬉しそうに笑みを浮かべた。人への親切は何時か必ず帰って来るのだ。それが異なる形であっても。
クリスマスの祝日は今日でひとまずお終いだけど、私の休暇はまだまだ続く。明日から私はアクティブ。相棒の小さな贈り物を使って博物館へ行くのだ。そのためには扁桃腺を治さなくては。健康でなかったら折角の贈り物も長い休暇も台無しだから。