静けさ
- 2010/06/30 23:33
- Category: bologna生活・習慣
今日は朝から晩まで通して辺りが静まり返っていた。朝の交通渋滞もなければ夕方の人混みも無い。暑くて気が変になりそうだった昼下がりは、まるで時間が止まってしまったかのようだった。窓の外から聞えるのは狂ったように鳴き続ける蝉の声だけ。風の音も無ければ木の枝の揺れる音も無い。冷房器具が存在しながら作動しない室内の椅子に腰掛けていると小さな玉のような汗が肌を包み、思考力はあっても存在しないと同じだった。ミネラルウォーターをグラスに注いでは喉を潤す。一瞬だけ涼しくなった気分を味わうが、一瞬後にはまた先ほどと同じような喉の渇きと暑さを感じた。私と相棒がボローニャに引っ越してきたあの年の夏、私達は家が無くて友人たちの家を転々としていた。そうしているうちに相棒の幼馴染と恋人が田舎に一緒に家を借りて暮らそうではないかと私達に提案した。あまり乗り気ではなかったが、いつまでもこんな転々と住まいを変える生活は嫌だと思っていたので、この状況から脱出することが出来るならば、ということで私達は一緒に家を探し始めた。しかし土地勘が欠けていた私と長いことボローニャを離れていた相棒だったから、もっぱら他の2人が家を見つけてきてはこんな良い点がある、環境は、家のつくりは、と滝のような情報を与えられては今日はこっち、明日はあっちと引っ張りまわされることになった。どれもボローニャ郊外の町や村で一軒家だった。広い庭があるのは良いが雑草が鬱蒼と生い茂っていて、此処を借りたらまず初めに草刈からしなくてはならなかった。一番の問題は建物が一様に古くて入居前に修理をしなければ普通の生活が出来ないらしく、上の階はそっと歩かなければ今にも床が抜けてしまいそうな有様だった。そんな家を何軒も見て歩いた。そのうち私達の熱は冷めて、一緒に暮らす話も消えてなくなった。今でも時々夢に見る。暑くて焼けそうな昼下がりに私達が車に乗って郊外へ向う夢。頭上から垂直に照りつける太陽、何処を探しても影の無い風景。静かに暑い昼下がりの今日、そんなことを思い出した。6月が静かに暑く終わろうとしていた。