今日の天気予報は雨だった筈、なのに朝起きたら穏やかな薄日が射す天気だった。それではと言うことで張り切って旧市街に行くべくバス停に向かったところ、角のバールの前でばったり古い友人ゼリンダと会った。古い友人、そういうのに相応しい彼女は今年80歳なのではないだろうか。足が痛くてあまり歩けないと年中言っている割には住んでいるところからかなりはなれたこのバールにカップチーノをしに来る位だから、老人の中でも元気な部類に入るのではないかと思う。数年前に連れに先立たれて未亡人である彼女、常に身なりをきちんとして背筋を伸ばしてしゃんとしているので80歳とはいえおばあさんというのが似合わない、シニョーラ(ご婦人)というのが合っている。ゼリンダは数年前まで私の隣の家に住んでいた。子供がいない彼女達は私を子供のように可愛がってくれた。ボローニャに住み始めたばかりの当時の私はイタリア語があまり達者でなかったし知人も友人もあまり居なかったので、彼女達の行為は嬉しかった。農家から美味しいワインを買ってきては分けてくれたり手の込んだ料理を作っては夕食に招いてくれたりしたものだ。そして昔の話をしてくれた。ゼリンダは昔、洋服を作っていたらしい。オーダーメイドの高級服である。そう言われてみると家の中には年季の入ったミシンがあったり仮縫い用のマネキンがあったり、そしてゼリンダが外に出る時のきちんとした装いは確かにその手の仕事をしていたであろう雰囲気が漂っているのである。今日のゼリンダはグレーのカシミアのコートに濃いグレーの羊か何かの襟をつけ、完璧にシルバーになった髪の毛を丹念にとかして耳には真っ赤なルビーのイヤリング。鞄と靴は黒のエナメル。おお、靴はブルーノ・マリだ。今日の私はたまたまお洒落をしていたのでゼリンダにお褒めの言葉を貰えた。非常に珍しいことである。と言うのも私は、"あなた、もっと女性らしい素敵な格好をなさいよ"といつもお叱りを頂いていたからである。ゼリンダにたまたま会い道端で小一時間話しこんでしまった私は、慌ててバスに乗り込んで予定通り旧市街へ。春が近いこと、そして暖冬であること、土曜日であることで予想通り街は賑わっていた。ボローニャ中央郵便局の直ぐ近くに驚嘆する小さな人だかりを発見。行ってみたら、おお、フェッラーリだ。ボローニャ市内でフェッラーリを時々見かけるが大抵は黄色か赤。グレーは初めて見る。人の車なのに車内の中まで覗きこんでは、おお、とまた驚嘆する人々。人だかりが出来ては散り、また人だかりが出来る。それにしても持ち主はなんて大胆なんだろうか。フェッラーリを路上駐車してしまうの?しかも横断歩道の上に駐車して、これって完全に駐車違反。レッカー車で持っていかれても知らないよ。しかし周囲では、che macchina, che macchina! (何という車なんだ!)と私の心配を余所に異常に盛り上がっていた。週末は平和である。大抵の人が仕事から解放されて心にゆとりが戻り小さなことで喜んだり楽しんだりするのだ。私はそんな週末が大好きだ。