春を呼ぶ

旧市街にある伝統あるfornaio(パン屋さん)Attiの店先で、ミモザのケーキを見つけた。イタリアでは春といえばミモザ、ミモザといえば春、である。このミモザの黄色い花が暗くてグレーだった冬の終わりのイタリアには目に眩しく、心にやさしい。一般的にイタリアのお菓子は見掛けがあまり洒落ていない。例えば隣のフランスのお菓子は繊細且つ優雅な外見、そして味までもが繊細で優雅だが、同じヨーロッパの隣接国のイタリアのお菓子ときたら素朴で単純、お味の方は何が入っているか直ぐに分かるような単純明快さである。その上イタリアのお菓子の味はかなりシッカリしている。それだから日本から来る女性には甘過ぎることが多いようだ。そして実際私も住み始めた当初はイタリアのお菓子にあまり食指が動かなかったが、そんなことも忘れてしまうほど慣れてしまったらしく最近の私は何でも食べるのである。このミモザのケーキ、3月8日の女性の日には最近疲れ気味の自分へのご褒美として買って帰ろうと思っている。でも木曜日なのだ、ボローニャの店が閉まる木曜日の午後に立ち寄って店は開いているのだろうか。特別な日だもん、開けておいて欲しいな、と思う。

水色小包み

数日前、帰宅したら玄関前に小さな水色の小包みが置いてあった。どうやら郵便屋さんが置いていったらしい。さて、一体何処からだろうか・・・と考え込むほど最近郵便物に久しい。包みをひっくり返してみたらそれはハンガリーに暮らしている友人からであった。そういえば何週間も前に電話で話をした時に何か送ってくれるようなことを言っていた。彼女との付き合いは長い、16年目になるのではないだろうか。かと言って常に会っていた訳でもなく、一緒にいたのは始めの8ヶ月だけ、互いに違う国に暮らすようになったのでその後は文通と言う形で人間関係を保ってきたのである。文通。そう、当時は文通が主流だった。誰もが普通に当り前のように手紙を書いていたのだ、あの頃は。彼女がハンガリーに暮らすようになり折角近くに居るのだからいつか訪れてみようと思っていたハンガリーの街、ブダペストにやっと重い腰を上げて訪れたのは4年前の12月だ。寒がりの私がマイナス15度にもなる凍りつくような時期をわざわざ選んだのではない、行こう!と思いついた時がたまたま12月だっただけである。実際恐ろしいほど寒かった、しかし自分でも驚くほどこの街の雰囲気が気に入り、それ以来病みつきである。そして彼女も同様、その半年後の真夏にボローニャを訪れて以来ボローニャのとりこになった。そんなことで私達は数年前から文通だけの友達関係を乗り越えて、毎日とはいかないが毎年会うようになったのである。その彼女が送ってくれたもの。水色の包みの封を開けたら良い香りが広がった。中からハンガリー産のカモミールティーとラヴェンダーティーが出てきた。ハンガリーの蜂蜜やプロポリス、ロイヤルゼリーは大変上質な上に良心的な価格なので足を運ぶ度に欠かせないお買い物であるが、なるほど、ハンガリーは平地国なのでこういうものが豊富、且つ上質なのだな。お買い物リストにこの2つも書き加えることにしよう。その晩、ハンガリーのカモミールティーを頂いた、次に会えるのはいつだろう、と思いながら。

primavera (春)

今日の晴天、月曜日であることがどんなに恨めしかったことか。仕事をしながら何度もそんなことを考えた。夕方もまだ明るくて一頃とは全然違う。まだ事実上2月だが春の名を与えてもおかしくないほどの暖かさ、穏やかさ、明るさである。街を歩く人達の服装も随分と軽くなっている。気にして見ていたらみんな腰丈のショートジャケットという格好だ。正直言って私は今も真冬のジャケットを着込んでいるが、それは帰り道が寒いからという理由を付け加えておこう。しかしどんな理由であっても周囲の軽装の中で真冬のジャケットはかなり目立つ、そして野暮ったい。それだから後2日間はこのまま行くけど、3月になったら私も少しは軽装してみようと思っている。街のそこここにオープンテラスというのだろうか、バールの店先にテーブルを並べ始めた。私自身はまだまだバールの中でぬくぬくしながらカフェすることを好むが、イタリア人は早くも外のテーブルに着くことを好んでいる。旧市街の歴史的建物を背景に強い陽射しの下、サングラスをかけてカフェする人々の様子は絵になる。多分人々もそんなことを意識しているに違いないのだが、それもイタリア的で良いであろう、と、どんなこともがポジティヴに感じられるのは春のせいなのだろうか。

討論すること

イタリア国民は一般的に話し好きだ。単に話しをするのが好きなだけでなく討論する行為自体が好きなように思う。私がイタリアに住み始めた頃、人が集まると初めのうちは穏やかに話していたのにいつの間にか皆が白熱して主張し合っている場に遭遇するたびに、居心地の悪い思いをした。どうしてみんな直ぐに言い争いをするのだろう、と。話している内容自体が分からなかったので口調の激しさだけでそんな風に思ったのである。そのうち話の内容が分かるようになってくると別に言い争いをしている訳ではなく、ましてや喧嘩しているのでもないことが分かった。彼らは単に討論するのが好きなのである。課題は何でも良い、電話の通話料の高さでも良いし、電車が絶対定時に発車しないことでも良い、今朝前を走っていた車の運転が如何に下手であったかでも良いのだ。でも一番討論のし甲斐があるのは政治のことであろう、と思う。昨日街の中心の広場を横切った時に数名の男性達が寄り集まって、ああだ、こうだと声高々に話していたので耳を澄まして聞いてみたらやはり政治のことだった。今に始まったことではないが、特に今イタリアの政治はガタガタしている。だから職場にいても普段の生活の場にいてもこの手の話しが必ず飛び出しては長い長い討論に突入するのでいささか閉口しているのが本心である。確かに政治が直接自分たちの生活に関わってくるので無関心でいられないのは本当だけど、1時間も2時間も手を振り回しながら全力投球で討論しなくてもいいのではないか、と言うのが私の正直な感想である。さて、面白いのは自分の意見に正面切って反対を唱えていた相手と討論が終わるとケロリと仲良く話し始めることである。この辺りの切り替えはとても早い。傍でどうなることやらと討論の行方をハラハラしながら見ていた私などは面食らってしまうのである。後腐れがなくていいというのか何というのか。けれどもそういう気持ちの切り替えが早いことをイタリア人の美点だと私は思っている。

sabato, 24 febbraio (2月24日 土曜日)

今日の天気予報は雨だった筈、なのに朝起きたら穏やかな薄日が射す天気だった。それではと言うことで張り切って旧市街に行くべくバス停に向かったところ、角のバールの前でばったり古い友人ゼリンダと会った。古い友人、そういうのに相応しい彼女は今年80歳なのではないだろうか。足が痛くてあまり歩けないと年中言っている割には住んでいるところからかなりはなれたこのバールにカップチーノをしに来る位だから、老人の中でも元気な部類に入るのではないかと思う。数年前に連れに先立たれて未亡人である彼女、常に身なりをきちんとして背筋を伸ばしてしゃんとしているので80歳とはいえおばあさんというのが似合わない、シニョーラ(ご婦人)というのが合っている。ゼリンダは数年前まで私の隣の家に住んでいた。子供がいない彼女達は私を子供のように可愛がってくれた。ボローニャに住み始めたばかりの当時の私はイタリア語があまり達者でなかったし知人も友人もあまり居なかったので、彼女達の行為は嬉しかった。農家から美味しいワインを買ってきては分けてくれたり手の込んだ料理を作っては夕食に招いてくれたりしたものだ。そして昔の話をしてくれた。ゼリンダは昔、洋服を作っていたらしい。オーダーメイドの高級服である。そう言われてみると家の中には年季の入ったミシンがあったり仮縫い用のマネキンがあったり、そしてゼリンダが外に出る時のきちんとした装いは確かにその手の仕事をしていたであろう雰囲気が漂っているのである。今日のゼリンダはグレーのカシミアのコートに濃いグレーの羊か何かの襟をつけ、完璧にシルバーになった髪の毛を丹念にとかして耳には真っ赤なルビーのイヤリング。鞄と靴は黒のエナメル。おお、靴はブルーノ・マリだ。今日の私はたまたまお洒落をしていたのでゼリンダにお褒めの言葉を貰えた。非常に珍しいことである。と言うのも私は、"あなた、もっと女性らしい素敵な格好をなさいよ"といつもお叱りを頂いていたからである。ゼリンダにたまたま会い道端で小一時間話しこんでしまった私は、慌ててバスに乗り込んで予定通り旧市街へ。春が近いこと、そして暖冬であること、土曜日であることで予想通り街は賑わっていた。ボローニャ中央郵便局の直ぐ近くに驚嘆する小さな人だかりを発見。行ってみたら、おお、フェッラーリだ。ボローニャ市内でフェッラーリを時々見かけるが大抵は黄色か赤。グレーは初めて見る。人の車なのに車内の中まで覗きこんでは、おお、とまた驚嘆する人々。人だかりが出来ては散り、また人だかりが出来る。それにしても持ち主はなんて大胆なんだろうか。フェッラーリを路上駐車してしまうの?しかも横断歩道の上に駐車して、これって完全に駐車違反。レッカー車で持っていかれても知らないよ。しかし周囲では、che macchina, che macchina! (何という車なんだ!)と私の心配を余所に異常に盛り上がっていた。週末は平和である。大抵の人が仕事から解放されて心にゆとりが戻り小さなことで喜んだり楽しんだりするのだ。私はそんな週末が大好きだ。

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