夏だなあ
- 2023/07/30 18:26
- Category: bologna生活・習慣
7月もあと少し。明日には7月が終わってしまう。昼間の日差しは射るように強く、路に落ちた影の濃さに驚きながら、ああ、夏なんだなあと思うのだ。平日の昼間は職場に籠っている私にとって、週末は喜び。家に居てもテラスに出たり眺めたりと外の空気に触れることが出来るし、気が向けば外に出ることもできる。自由が喜びなのかもしれない、つまり。そしてこの自由も、自由にならない時間があるからこそ嬉しいことを私は知っている。26年前の秋のはじめにローマの仕事を辞めてボローニャに帰ってきてからの4年間は定職につけなくて自由時間ばかりだった。あの4年間のことは正直言ってあまり覚えていない。覚えているのは自由である喜びを嚙みしめることがなかったことだ。だから仕事を続けられる、なんだかんだ言いながらも大抵のことは乗り越えながら。
最後の帰省は3年前だったと思い込んでいたが、もう4年前のことであることに先日気が付いた。驚き。そうか、もうそんなに月日が経っていたのかと。途中でコロナがあったから、すっかり計算が狂ってしまったらしい。今年の夏は帰って来るのかと母に訊かれたのは春の始まりのことだったと思う。ううん、今年は帰れない。私はそう短く答えたけれど、母はどんな気持ちだっただろう。昔から、母は帰っておいでと言わない人だった。だからそれほど娘を恋しくないのだと思っていたが、言わないだけだと気が付いたのは10年ほど前のことである。その証拠に久し振りに娘の顔を見る母の表情は嬉しそうで、私がイタリアに戻る時の母は言葉にこそしないけど寂しげだから。
今日はあまりに汗を掻いて、それほどの暑さでもないのに汗を掻いて疲れたので、頭の中に浮かんだ鰻の蒲焼で心がいっぱいになった。ああ、鰻。鰻と言えば必ず思い出すのは父方の親戚。私達があまりに小さい頃は家族みんなで、姉が中学生になると私とふたりで電車を乗り継いで遊びに行った。親戚の家の近くには注文を受けてから鰻を焼く美味しい店があって、私達が到着する日の夕食は必ずそれだった。こんな美味しいのはあなた達の界隈には手に入らないでしょう、というのが叔母の口癖で、母はそれを言われるのをとても嫌いだったようだけど、事実だから仕方がない。店先で、可愛い姪っ子たちが遠くから遊びに来たから飛び切り美味しのをお願い、と叔母が言っていたのを思い出す。あのセリフ。いつの間にか私に沁みついた。食料品市場や青果店の店先で桃やメロンを注文しながら、飛び切り美味しいのをお願いと口からついて出る時、あはは、あの日の叔母と同じだといつも思う。お願いされる側は決して嫌な気はしないらしく、腕によりをかけて美味しいのを調達してくれるのだから、叔母には良いことを教えて貰ったと思っている。8年くらい前、目黒の展示会を見に行ったついでに叔母が暮らしていた大岡山という街に立ち寄った。20年も前に叔母たちは他界していて立ち寄る家もないけれど。街並みは随分変わっていたが、小さな店が連なる様子は昔のままのような気もした。駅前にあった、父と母が必ず足を止めて手土産の果物を購入した青果店も鰻を焼く店もなかった。当たり前かもしれない。もう何十年も前の話なのだから。でも残っている此の街の空気が嬉しかった。兎に角あの鰻の蒲焼を超えるようなものには未だに出会っていないけど、それでいいと思っている。叔母が注文してくれた美味しい鰻の蒲焼の記憶を大切にしたいと思っている。それは姉も同じらしい。何年か前の夏に姉と川越に鰻を探す遠足に出掛けた。蒸し暑い日で、時々雨が降って、遠足にはあまりよくない日だった。私達が古い小さな鰻屋さんに飛び込んだのは店の小さな窓から鰻を焼くいい匂いと煙、そして今どきあまりない木造一軒家だったからだ。その店の造りはどうやら小江戸と呼ばれるこの街の特徴らしかった。店の奥さんに鰻を焼くのに時間が掛ると言われて昔のことを思い出した。叔母が贔屓にしていた店もまた、時間が掛るから他の店をぐるりと回ってから頼んでおいた鰻を引き取りに行ったものである。暫く待って出された鰻の蒲焼の美味しかったこと。大岡山の鰻みたいだと言って姉と子供のように喜んだものだった。
来年はきっと帰省しようと思う。自分の為にも家族の為にも。そして誘ってみようと思う。何処かに美味しい鰻を食べに行かないかと。だけど日本がどんどん遠くなっている。航空券があまりに高くて。
昼寝をした。子供の頃から昼寝が好きでなかった私は、如何に眠くても如何に疲れていても昼寝出来なかったのに、この夏は昼寝をするようになった。週末の午後の習慣になりつつあり、それを相棒は喜んでいるようだ。こんな暑い季節は午後に少し眠ると言いと長年私に言い続けてきたが、私がそれを行動に起こしたことは一度もなかったから。どうした心境の変化なのか知らないけれど、多分身体が要求しているからに違いなく、それを私も良いことだと思っている。但し寝起きた後が宜しくない。起きた時の口の中の苦々しさは朝の起床時とは異なるもので、頭がはっきりしないのも朝とは異なるものである。これさえなければと思うけど、多分これが昼寝というものに違いない。何しろ私は昼寝の初心者。昼間に身体を横たえて眠れるだけでも良いとしよう。空を見上げれば大きな入道雲。夏だなあ。
Hakodateの女
あっという間に八月になりますね。
昨日は「土用の丑の日」でした。
今朝の新聞の一面はウナギを焼く職人さん。
例の良い匂いが漂ってきそう(笑)
親戚の叔母さんが奮発してご馳走してくれたウナギの蒲焼
煙といい匂いは忘れられませんね。
高い航空券でしょうがそれにも代えられない何かがあるような
是非お早めにおいで下さいませ。
今日の晩御飯は一日遅れの「土用の丑の日」に致します。