歩く

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昨日からの冷たい空気。寒波、と呼んだら大げさだろうかと思っていたが、どうやらそうでもなさそうだ。イタリア各地で冷たい強風が吹き荒れ、大きな樹がなぎ倒されたとテレビの報道で知った。こんな大きな樹が大風に揺らいでいる様子を想像したら恐ろしくなったが、その樹が突然倒れた場面に居合わせた人は驚いたなどといった言葉では言い表せなかったに違いない。怪我をした人は居なかっただろうか。それについては何一つ語られていなかったから、恐らく、被害を受けた人は居ないと言うことだろう。大風の日は早く寝るに限る、と母が子供だった私と姉に教えたものだけれど、それが昼間のことならば、どうしたものなのかと海の向こう側に居る老いた母に問いてみたくなった。今日の風は控えめ。しかし冷たさは相変わらず。今日は温かくして家に居るのが無難。冷たい風が吹いてはいたが、昨日散歩に出ておいてよかったと、窓越しに外の様子を眺めながら思った。

私にとって2月とは、退屈な月である。豆まきとかサン・ヴァレンティーノとか、そうした物では到底埋めきれぬ感じの退屈さが、子供の頃から付きまとっていると言ったらよいだろうか。其れも以前は父と親友の誕生日が存在したから多少なりとも意味があったが、今となってはそのどちらも不在の為に大きな穴がぽかりと空いてしまった感じである。だから、旧市街に寒桜が咲いているのを見つけたり、ショーウィンドウに気の早い春めいた美しいスカーフが飾ってあるのを見つけたり、それから知人のフランス土産のビスコットがフランボワーズの美しい色で、春の匂いが口の中に広がったのを確認すると、ただそれだけのことなのに、どうしようもなく嬉しくて有難く思えるものだ。こんな小さなことで嬉しかったり有難く思える私のことを、幸せさんと相棒は呼ぶ。昨年の2月は友人が日本からやって来て25年振りに時間を共有することが出来た。それだけで全く素晴らしい2月になった。よくも25年も会わずに居られたものだと私達は呆れかえったものだけど、私に関していえば、そうした友人は案外多く、しかしこれからはひとりずつ、順繰りに、会う時間を持とうと思った。もっと早く会っておけばよかった、と思わないように。互いが元気に海を、大陸を渡りあえるうちに。そんなことを思いながら旧市街のポルティコの下をそぞろ歩く。人混みを避けるかのようにマッジョーレ広場や2本の塔からまっすぐ伸びる大通りは歩かずに、裏へ裏へと足を運んだ。気が付けば随分向こう側まで足を延ばした。向こう側というのは、今はあまり足が向かないSan Felice界隈のこと。以前はこの界隈に毎日のようにしを運んだと言うのに。通っていたジムや友人達の店がこの界隈に集中していて、気が付けば何時もこの辺りに居た。ならば、この界隈に家を求めようかと思ったほどだが、全く違う方向に自分達に合う家が見つかると、自然と足が遠のいてしまった。ジムの契約も更新しなかったし、友人達もひとつふたつと店を閉めたし。もう足を向ける理由はあまりなかった。でも、嫌いになった訳じゃない。ただ、少し遠いと言うだけのことだ。足が遠のいているうちに随分の店が入れ替わり、知らない通りのように感じた。勿論、今も変わらずに存在する店もある。バスの停留所の背後にある小さなチーズ屋さんとかメガネ屋さんとか。大きなセレクトショップは今も商売が廃れることがない。昔からこの店には上等な常連客が居るらしいから。それから昔からある画材道具屋も生地屋もうまくやっているし、私が好きな靴屋も変わらず存在していた。消えてしまった店が何だったのかはいくら考えても思いだせない。しかし目新しい店が沢山あると言うことは消えた店も沢山あると言うことだ。昔はよく足を運んだ通り。でも、今は自分が余所者に思える。もう自分が居つく店はないし、店に入って声を気やすく交わす人達もいない。ちょっと寂しく思いながら、足が遠のいたのは自分ではないかと苦笑する。また時々足を運んでみようと思う。考えてみれば、それほど遠い場所ではないのだから。少しだけ長く歩けばいいだけのこと。不精になりつつある自分に気付いて、愕然とした散策でもあった。

歩くのはいい。これからの季節は積極的に歩こうと思う。スニーカーを履いて、歩くために歩くのだ。そうしたら、きっと脳も心も動き出して、色んな良い考えが浮かぶだろう。これから何をしたいとか、どんな風に生きていこうとか。どんなことだっていい。色んなことを考えてみたいと思う。さあ、明日は月曜日。仕事帰りに苺を買おう。甘くていい匂いの苺。イタリア産が好みだけれど、まだ少し早いからスペイン産だろうか。それもいい。一足先に春の甘さと匂いを求めて。




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