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2014年度鳥取県環境学術研究費に新規採択!

 「鳥取県環境学術研究費に新規採択」という見出しはありふれたものです。Lablogにいったい何度登場したのか分からない。それぐらいありきたりの出来事ですが、このたびは大ニュースなんです。ひとつに大学公立化後、当該研究費の採択率が著しく下がったこともあるのですが、今回は申請代表者が教師ではありません。大学に所属する教員ではない職員が鳥取県環境学術研究費に新規採択されたのはおそらく初めてのことだと思います。
 先日、そば切り「たかや」が11時半の開店後わずか38分で完売=閉店し、世界新記録を更新しましたが、それに匹敵する快挙であり、関係者ご一同に深く感謝申し上げます。
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 1.事業名: 鳥取県環境学術研究等振興事業(地域部門)
 2.研究代表者: 宮本 正崇
         (鳥取環境大学建築・環境デザイン学科非常勤職員/一級建築士)

 3.研究課題名:  近世木造建造物の科学的年代測定に関する基礎的研究
            -酸素同位体比年輪年代測定の導入と深化にむけて-


 4.採択年度: 平成26年度(単年)
 5.研究費:  1,379,000円

 6.研究計画の概要:
  文化財としての建造物はおもに「歴史的価値」と「芸術的価値」によって評価され、前者の場合、当初の建築年代が特に重要な位置を占める。芸術的価値が低いと判断される場合でも、年代が古ければ文化財指定される可能性は高い。2014年2月1日現在、重要文化財建造物(含国宝)は2630件4895棟を数えるが、元和年間(1615-24)以前の建造物はすべて国の指定を受け、民家・町家の場合、17世紀に遡る遺構はすべて重要文化財になっている。このように、建築年代は文化財建造物の保護の決め手となる重要な指標であるが、それを明らかにするのは容易なことではない。
  建築年代の判定にとって最も信頼性のある史料は「棟札」だが、「棟札」を残さない場合も少なくなく、多くは「様式」編年に頼らざるをえない状況に甘んじている。社寺建築の場合、絵様・彫刻等「様式」の時代的変遷が顕著であり、建築年代の推定が比較的容易であるけれども、民家・町家の様式変遷は曖昧であり、年代の確定に困難を極めている。社寺建築の場合でも、編年の信頼性が著しく高いかといえば疑問符がつく。このような状況を克服するため、近年、木造建造物の研究に科学的年代測定の手法を導入しようという動きが芽生えつつある。
 

  木造建築部材の科学的年代測定には、①年輪年代測定(年輪幅による従来の測定法)、②放射性炭素年代測定のどちらかが適用されるが、二つの手法には一長一短がある。年輪年代測定は誤差が少ないけれども、対象となる材種はスギ・ヒノキ等の針葉樹に限られ、また100年以上の年輪を残すことが必要条件とされる。一方、放射性炭素年代測定は炭素14の半減期を基準とするため誤差が大きく、石器時代の年代判定には有効だが、歴史考古学には不向きとされてきた。ところが、2000年に発見された出雲大社境内遺跡大型本殿跡の柱根の炭素14年代(1215-40年)と礎板の年輪年代(1227年+α)がほぼ一致をみたことで一気に信頼感が高まった。
  私たちは2013年度の鳥取環境大学学内特別研究費「近世木造建造物の科学的年代測定に関する基礎的研究」により、聖神社本殿・拝殿(鳥取市)、長谷寺本堂(倉吉市)、本石橋家住宅(出雲市)等でサンプルを採取し、炭素14年代測定を業務委託したのだが、年代に複数の候補が想定され、各年代幅の範囲が大きく、建築年代・修理年代の決定的な証拠を得るに至っていない。こうした状況を踏まえ、ごく最近開発された酸素同位体比年輪年代測定による建築部材等の再測定を試み、建築年代をより厳密に明らかにしたいと考えている。この年輪年代測定は、年輪セルロースの酸素同位体比(酸素18:酸素16)が年毎に変動する現象を応用したものであり、年輪数50以上のサンプルならば、樹種を問わず、1年単位で年輪年代をピタリと示すことができる。山陰地方では、酸素同位体比による年輪測定の経験は皆無に等しく、本研究が年輪年代測定の新しい一歩を記すことになるだろう。
  今回導入する酸素同位体年輪年代測定の精度は高いが、不確定要素を抱えていないわけではない。年輪セルロース内の酸素18/酸素16の比率は降水量や湿度などの水分に影響を受けやすいため、西南日本でほぼ共通する標準変化曲線が関東の一部地域で通用しないことが判明している。山陰は雨雪の多い地域であり、これまでの測定サンプル数も皆無に近いことから、現状の酸素同位体比年代測定の方法が山陰で通用するか否かを検証する必要があるだろう。そのため、敢えて棟札を残す社寺建築当初部材の年輪年代を測定する。年輪年代測定の信頼性を確認した上で、建築年代不詳の建造物部材の酸素同位体比年輪年代を測定する(一部の材は放射性炭素年代測定を併用する)。
  本研究の主題は年代不詳の中近世建造物の建築年代を明らかにすることによって、文化財保護法の枠組みのなかの「指定」制度により、その建造物の保護に貢献することだが、年代測定の対象を古代以前の埋蔵文化財にもひろげてゆきたい。たとえば、鳥取市の松原田中遺跡では集中式大型高床倉庫群が発見されているが、その年代は「弥生時代中期~古墳時代初期」という非常に幅のひろい範囲で把握されている。これらの高床倉庫跡には柱の不同沈下を防ぐ地中梁(土台)が多数残っており、地中梁や柱根を酸素同位体比年代測定にかけることで、年代幅を大きく狭めることができるであろう。すでに述べたように、年輪中の酸素同位体比は雨雪などの水分に左右されるので、山陽と山陰では酸素同位体比の変化のあり方は異なることも十分予想される。山陰地域で確実な年代データを得るためには、山陰独自の標準変化グラフが必要であり、そのためには、さまざまな時代のサンプル・データを蓄積しなければならない。
  私たちは科学的年代測定に対して今なお絶対的な信頼を寄せていない。これはとくに強調しておきたい点である。たとえば放射性炭素年代測定のデータが絶対的であるならば、業者に測定を委託すれば事足りるわけだが、実際には誤差の変動幅が大きく、参考値の域を出ていない。文字史料の解読や様式研究が不十分だから科学的年代測定に頼るという発想では間違った結論を導きかねないのである。文字史料・建築様式・科学的年代測定データを対等な資料とみなし、それらを総合的に検討することによって、より正しい年代観を把握できると考えている。

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魯班13世

Author:魯班13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や棟梁を表す中国語。魯搬とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤です。研究室は保存修復スタジオと自称してますが、OBを含む別働隊「魯班営造学社(アトリエ・ド・ルパン)」を緩やかに組織しています。13は謎の数字、、、ぐふふ。

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