蝉の声

昨日から異常な疲れを感じている。どうしたのだろう。単なる疲れならいいけれど。上手い具合に週末なので家でゆっくりすると良い。そう思っていたのに急に気が変わって朝も9時早々に家を出た。行き先はボローニャ市内。もう長いこと通っている美容師の所だ。もう何日も前から延びた髪を何とかしたいと思っていたのだ。私はいつの頃からか肩にもつかない長さが好きになった。それはもしかしたら髪が乾きやすいとか手入れしやすいとか、そんなことが理由なのかもしれないが、自分自身も軽快な短い髪が私らしいと思っているに違いない。乗り換えのバスを待っていた。涼しい朝だった。強い日差しだが時々風に流される白い入道雲が太陽を隠す、その繰り返しで一向に気温は上がらなかった。道の向こう側には個人所有の森のような庭があって、のびのびと成長した樹が生い茂っていた。こんな所にこんな庭があるのは不思議だ。此処だけ時間が止まってしまったようだと思った瞬間、大きな入道雲が太陽を覆い、蝉が一斉に鳴きだした。とても懐かしい感じがした。どうして懐かしいのだろう、と自分の心を探ってみると小学生のころの夏休みに行き着いた。私がまだ8歳くらいの頃だ。夏休みと言うのに子供達は早起きをすることが習慣だった。私は昆虫が好きだったので、朝6時に起きると虫篭をもって近所の子供たちと森に出掛けた。どうして朝6時かと言うと太陽の位置が高くなって気温が上がると、何故だか虫が見つからないからだった。実際そんな早い時間だと多い時は何匹もかぶと虫を捕まえることが出来た。ある日いつものように早起きして森へ行った。空に大きな雲があっていつもよりも涼しかったが蝉が鳴いていた。雨が降るように蝉の声が降っていた。それ以外の音は何も聞えなかった。こんな朝の時間に蝉が鳴いているのは初めてだったから、小さかった私達子供はちょっと怖い気分になって空っぽの虫篭を手に提げて今来た道を引き返した。何のことは無い。そんな朝から蝉が鳴いているということは、とても暑い一日になる印みたいなものであって、決して不気味でも怖いものでもないのであるが、それが分かったのはそれから10年も経ってからのことだった。そんなことを思い出しているうちに55番のバスが来た。髪をさっぱり切って気分もさっぱりした。その足で旧市街へ行った。昼休みに入った旧市街は静かだった。すれ違う人も数えるほどしか居ない。今朝の涼しさはもうどこにも無く、夏の空気が立ち込めていた。

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春風

頑張って頑張って その1ミリ先に夢がある…その1ミリを努力してかなえるのが大変な作業、その姿をサッカー代表チームが魅せてくれているのでは と 思っています(1ミリ先の話は先日テレビで、秋元康さんが話されておりました(笑))

現実問題 頑張る事って単純な作業だとは思いますが 一番難しいのでは とも思います (あと数日で学校のテストが始まる娘、頑張る事から現実逃避しているんですよ~母、泣いております)
  • URL
  • 2010/06/27 07:47
  • Edit

hyblaheraia

はじめまして。シチリアのラグーザに住んでいます。数年前から時々拝見させていただいていました。一時期、ブログをお休みなさっていたと記憶していますが、また再開されて2つのブログになったのをとても嬉しく思います。
一枚の写真と、その向こうに広がる現地の空気や音を文章から味わっています。蝉の声から思い出すものは私も子供の頃の記憶です。鳴り止まぬ一定の音が迫って来る感じと、蝉がベランダに飛び込んで来てばたついた音、殻に残された表情、どれもちょっとした怖さを感じさせました。そして蝉の短い一生。
リンクさせていただきました。また拝見しに来ますので、よろしくお願いします。

go_to_rumania

ボローニャは、今年は雨だらけなのですね。

イタリア@ワールドカップ、、、
私の友@ボローニャも、雨、というか雷=怒り、でした・・・。
Mi dispiace tanto,,,,

↓ポルティコ、私も大好きです。
ルーマニアではこれがないために、カンカン照りの
陽射しに焼けました。。。

yspringmind

春風さん、1ミリ先に夢がある、とはいいですね、その考え方。私も頑張るという作業が一番大変だと思います。頑張る為には努力や忍耐が必要で、それは実に地味な作業なんですよね。マラソンみたいなものでしょうか。でも地道にやっていたら頑張っただけの結果がでるならば、こんな素敵なことってありません。と、大人になってからそんなことが分かるようになりましたが、私も昔は頑張る事から現実逃避してばかりで母を大いに泣かせました。

yspringmind

hyblaheraiaさん、初めまして、こんにちは。ラグーザのブログは私も拝見させて頂いてます。とても深いところを見つめた良いブログだと感心していたところです。
蝉の鳴き声には昔を思い出させる魔力があるのでしょうか。一瞬のうちに子供だった頃に引き戻されて、色んなことを思い出します。それは私だけではないことがわかって、妙に嬉しくなりました。
私もリンクさせて頂きます。これからもお付き合いお願いします。

yspringmind

go_to_rumaniaさん、こんにちは。今年は本当に良く雨が降りました。おかげで木々の元気なこと! 
イタリアは惨敗でした。実力を発揮することも出来ずに退散。もう少し何とかならなかったの???と疑問だけが大きく残りました。教訓にしてもらいたいですね、この経験を。
ポルティコは実際とても有難い存在です。そうですよね、これが無ければ真っ黒に日焼けしているかもしれませんよ。日に焼けやすい私なのですから、感謝しなくてはいけませんね。

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