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『敦煌建築研究』の想い出

 文化財研究所に在籍した1987~2001年の14年間、ほぼ一月に1回のペースで非常勤調査員の田中淡氏を中心とする「中国建築史研究会」を開催していた。今となっては記憶が定かではないのだが、明末清初の儒学者、顧炎武の編纂した『歴代宅京記』の輪読から始まったはずである。その後、1989年10月に瀟黙氏の『敦煌建築建築研究』(文物出版社、初版1981)を紹介された。古代日本建築史と関係する内容が多いので、中国建築史研究会で輪読することになり、1993年度末までにいちおう全訳を完成させた(研究所年報1994:p.82)。翻訳に参加したメンバーは田中氏のほか、町田、上野、松本、浅川、島田、藤田、黄、福田、栗原の計10名である。その後、田中・福田両氏を中心に出版にむけて校閲に動き出したのだが、翻訳メンバー全員の多忙が災いし、公刊を果たせなかった。
 今回、『敦煌建築研究』の和訳資料を復元事業に使いたいとの依頼が研究所からあり、それに応えて手持ちの和訳仮製本と関連資料を用意した。この仮製本が1993年度末か、それに近い段階の訳文であろうと思われる。訳文は完全に正しいわけではなかろうが、田中淡氏の校閲を何度か経ているのだから、大きな間違いもまたないであろう。
 私どもは、近年、山陰地方に卓越する「岩窟+懸造」仏堂と中国石窟寺院の関係を、おもに木造建築と窟の複合性に焦点を絞りつつ比較研究しており、2010年度の修士課程修了生がこの和訳本を使ったばかりだった。「唐宋窟檐」と「莫高窟第53窟窟前宋代建築復原」はおおいに参考になる論文であった。

 ここまで書いたついでに、初版本(1981)の表紙裏に中国語と英語と書かれた書物の「簡介」を訳しておこう。

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 敦煌石窟は名高い世界的な文化芸術の宝庫で、北朝から元代に至る大量の建築図像資料を残しており、古代建築実物遺構の不足を補っている。本書は資料を網羅的におさえることを基礎として、洞窟形状、仏寺、闕、城垣、塔、住宅など各種建築、建築部材と装飾、建築施工、建築画から、唐宋窟檐と宋塔の実物遺構に至るまで体系的に論述したものである。さらには、関係のある有名な文物について考察を加え、発展と源流についても縦横異なる分野の広範な関係を論証し、多くの新しい観点を示しつつ、中国建築史と中国芸術史の空白を埋めており、重要な学術的価値を有している。
 作者の瀟黙(1938~)は、1961年に清華大学建築系を卒業後、敦煌文物研究所で15年調査研究に携わり、現在は中国芸術研究院副研究員(准教授)、建築芸術研究室主任を務める。
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 余談ながら、初版本の定価をみると、平装本が22元、精装本が27元となっている。日本円では当時300円ぐらいであり、中国を訪問するたびに2~3冊買って知人への土産とした。今、文物出版社版は絶版となり、2003年3月に機械工業出版社より、増補改訂版が出ている。アマゾンで検索すると、新品の出品が1点あり、価格が15,645円と表示されていることに驚いた。
 もちろん、その値段にふさわしい濃密な内容をもつ大著である。


敦煌R0013772

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蕭黙さんの敦煌時代の回顧録『一葉一菩提』を読んでいた際に、『敦煌建築研究』はすでに田中先生によって翻訳されていることを目にしました。ところが、探しても見つからず、そこでこの記事を拝見いたしました。心から、いつの日か出版されることを願っております。

敦煌建築研究のこと

トラ様: コメントありがとうございます。返事が遅れてすいません。『敦煌建築研究』は田中淡さんの指導で、奈文研の建築史メンバーが輪読していましたが、もともと中国語のできない者ばかりでした。日々の発掘調査等にも忙殺されており、出版できる状態まで至らなかったというのが実情です。とくに古典からの引用文チェックは、田中さん以外できないので、出版するのは今後も不可能と思われます。昨年度末で私は退官しました。その最後の年に『田中淡著作集』全三巻の書評を依頼されまして、『建築史学』84号(2025)に掲載されました。
http://asaxlablog.blog.fc2.com/blog-entry-3007.html
いまこの書評を中国人向けに書き直して翻訳し本ブログに連載中ですが、上海の母校の雑誌が掲載してくれることになっています。敦煌の壁画は建築史学的にもちろん重要です。ただ、敦煌の壁画に描かれていることで、古代日本建築復元の根拠として扱う研究者もいて残念に思っています。その人物は『敦煌建築研究』を輪読していたメンバーだったりして・・・・『敦煌建築研究』の翻訳は若い世代に委ねたいのですが、残念なことに、日本国内にそれができる研究者は見当たりません。中国の若手ならできるかもしれないと秘かに期待しております。
プロフィール

ルパン13世

Author:ルパン13世
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魯班(ルパン)は大工の神様や建築の達人を表す中国の言葉。魯般とも書く。古代の日本は百済から「露盤博士」を迎えて本格的な寺院の造営に着手した。魯班=露盤。著者は公立鳥取環境大学を2025年3月末で退任したが、研究室ブログを「魯班営造学舎ブログ」として継承する。拠点は鳥取から奈良に移転。

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