手袋
- 2024/12/23 19:11
- Category: bologna生活・習慣
月曜日、でも休暇中の月曜日は軽快。夜中のうちに雨が降ったのか、地面が黒く光っていた。そして珍しく風。天気予報で風が吹くと言っていたけれど、この程度の風ならどうってことはない。寧ろこの風で空を覆う雲を追い払って貰えるのなら、有り難い風だ。今日は色んな小さな用事のある一日。本当に人に言うほどの用事ではなく、例えば銀行に立ち寄ったり、アマゾンで注文したものを受け取りに行ったり、バスの年間パスの更新をしたりと、その程度の用事。だけど旧市街の停留所でバスを下車したらひたすら歩く。その距離は結構なもので、時間が掛かる。近い将来トラムが走るようになるボローニャは、只今あちらもこちらも工事中。従ってバスの経路が変更になって、歩くほうが早い、ということなのだ。まあ私に関して言えば、好んで歩いているのであるが、例えば年配の人や小さな子供のいる人、脚の悪い人や病気の人にとっては、現在のバスの状況は最悪ということになる。早く終わればいいけれど。そう思っている人は沢山居るに違いないのだ。
バス会社の事務所に行ったら、人でごった返していた。昨年の今頃は閑散としていたから今日もそんな具合だろうと思っていたから、驚きだった。明日出直そうかなんて思ったけれど、恐らく明日もこんな具合に違いなく、腹を括って待つこと30分。人混みと順番待ちが苦手な私には、辛い30分だった。そんな苦手なことを終えて、そうだ、カップチーノでもと思いつき、ポルティコの下のガンベリーニ菓子店へ向かったところ、此処も大変な混みようだった。うーん、どうしようと迷っていたところ、少し先のポルティコの下にのおじさんと犬が居るのが見えた。いつもあの場所にいるおじさんと犬。この寒い季節に温かい上着もない。どう見ても豊かな暮らしをしている風には見えぬ、恐らく帰る家のない人だ。どんな事情があるのか知らないけれど、困っている時はお互い様だ。それでカップチーノを辞めて、そのお金はおじさんに使うことにした。あまり沢山ないのよ、と言いながら箱の中に置いた。暖かい飲み物でも買えればいいと思って。此のくらいの事なら私にもできる。クリスマスだもの、喜びは分け合うのがいい。
マッジョーレ広場を横切り車の通らない小路に入ったところで手袋屋さんに客が居ないのを発見。先日店に入ることも出来ないほど混んでいた手袋屋さんである。ポルティコの下のおじさんと犬を思うと心苦しいが、ごめん、おじさん、手袋が欲しいのよ、と呟きながら店に入った。
息の長い店だ。私がこの店に通うようになってかれこれ20年ちょっと。もっと長く通っている人も居るだろう、何しろ創業1932年、現在の場所に店を構えたのは1936年とのことだから。家族経営でお母さんはもう店に立たず、今は姉妹で切り盛りしている。その姉妹だって60歳をとっくに超えている筈で、後継者がいるのかが気になるところである。コロナで躓いて足が遠のき、5年ぶりに店に入った。こんにちは、あの鹿の革の手袋を見せて貰いたいのだけれど。とウィンドウを指さして言うと、店のシニョーラが言った。とても暖かい、でもちょっとごつくてあなたにはどうかしら。そう言いながら見せてくれた手袋を手にはめてみたら、成程、暖かいがごつい。うーん、と悩む私に、それよりこちらの方があなたらしい、と言って棚から箱を取り出して差し出した焦げ茶色のナッパ革製。手縫いのステッチがいい感じだった。薦められて手にはめてみたら、あっ、柔らかい。デザインは先ほどのものが好きだけど、この柔らかさは掛け替えのないもの。あっという間に決まった。いつも黒ばかりだから、焦げ茶色もいいでしょう?と店のシニョーラに言われて、えっ、と思った。ああ、彼女は私のことを覚えている。1、2年に一度しか来ない客、しかも今回は5年振りなのに。有り難いことだと思った。ところで手縫いステッチが何かの理由でほつれた場合は店に持って行くと修理をしてくれるそうだ。個人商店ならではのことだと思った。ちょっと奮発してしまったけれど、これが自分へのクリスマスの贈り物。大切に使おうと思う。
実を言うとクリスマスの実感がない。クリスマスツリーが居間にあって、クリスマスの挨拶のカードが幾枚も届いて、クリスマスの贈り物まで手に入れたというのに。いったい私はどうしてしまったの?