ボローニャに暮らす

12月は駆け足。早くも15日を迎えて感慨深い。クリスマスツリーを飾ったのは先週の日曜日のことだ。あれから猫は姿を現さないことが多くなったが、私は知っている。クリスマスツリーの下で丸まっていることを。昔はツリーの頂上に飾られた星にタッチしたくて、隙あれば攀じ登っていた彼女だが、近年はそれを辞めてツリーの下で眠るのが好みらしい。うちでは誰もがクリスマスツリーが大好き。飾るのもさることながら片付けるのは本当に手間と時間が掛かるのだけど、それでも毎年欠かせない、私達のクリスマスツリー。喜びのシンボルみたいなものだ。先日相棒が家に持ち帰ったのはクリスタル製小鳥のオーナメント。掌にちょこんと乗るような小さなもの。此れをどうしてもツリーに飾りたかったらしく、何処かの店で調達したそうだ。えー、飾りはもう充分あるからこれ以上は増やさないと言っていたのに。言いそうになったその言葉を私はギリギリのところで呑み込んだ。まあいいか。そういう明るくて愉しい気持ちがあることが大切。それで上の方の目立つ場所に引っ掛けたら、とても美しかった。こんにちは、小鳥さん。こんな高い場所なら猫に一撃される心配はない。

一昨日、金曜日はバスのストライキで散々だった。バスの運行が保証されている時間帯に帰宅する私は、楽勝楽勝なんて言って職場を出たが、バスが来なくて参った。目の前を通過する電気を消した空のバス。それを恨めしく眺めているうちに雨が降り出した。その雨が本格的になってきたところでバスが来て、なかなか来なかったバスなのに大きな感謝が芽生えたものだ。ああ、助かった、ありがとう、なんて。本当は立ち寄りたいところがあったけど、この雨だ、家に帰るのが得策と思い、寄り道せずに帰ってきた。良い判断だったと思う。下車して雨に濡れて、次のバスが来なかったら、私は風邪を引いていただろう。それにしても最近ストライキが多すぎる。利用者に迷惑が掛かり過ぎるイタリアのストライキには慣れているが、そろそろ堪忍袋が切れてしまいそう。
そういう訳で土曜日にずれた用事。用事と言っても靴の修理屋さんに靴を持ち込むだけなんだけど。このクリスマス前の忙しい時期は、頼んでもすぐに出来上がらないことが多い。それは靴の修理屋さんばかりでなく、クリーニング屋さんにしても、本の注文にしても、何にしても。そしてタイミングを逃すと冬の休暇に入ってしまい、1月7日まで待つことになる。だから私は焦っていたのだ、一日も早い方が宜しいと。
店に行ってがっかりしたのは、小さな店の外に列があったからだ。確かに店が狭いから客はせいぜい3人しか入れないけれど、それにしてもこんな列が外に出来るなんて。クリスマス前に仕上がりは望めそうにない、と思った。旧市街とうちの丁度真ん中辺りに存在する、大通りに面したこの小さな靴の修理屋さんは、腕がいい。靴が好きで修理にまで拘りのある私は、ボローニャ旧市街のみに限らず他の場所も含めて色々試してみたけれど、最終的にここに辿り着いて、それ以来ずっと此処だ。とは言ってもせいぜい年に2回と言ったところで、常連さんという訳ではない。ただ日本人客はあまり居ないに違いなく、私の名前を覚えたようだ。店に入ってショートブーツをカウンターに置く。こんな具合なんだけど、靴をひっくり返して見せると、店主はうんと深く頷いた。それは自分に任しておけばいいさという合図で、私は安心した。仕上がりは思いがけず早く、クリスマス前に引き取れるとのこと。以前店主が言っていた。彼は靴が好きで好きで靴の修理屋になったこと。だから興味深い靴が店に舞い込むとそれを一刻も早く修理したくて仕方がなく、それが私の靴だそうだ。手入れの行き届いた私の年季の入った靴は店主にとって興味深い靴らしい。それは嬉しいことであり、そしてそんな訳で時々早く仕上げて貰える。今回は新調した新しいショートブーツで年季は入っていないけど、どうやら店主の関心の対象になったらしい。有り難いことだと思った。
身軽になったところで旧市街行きのバスに乗った。マッジョーレ広場やその周辺には白いテントが並んでいた。統一感はなく、クリスマスマーケットという感じでもないけれど、賑やかで愉しい雰囲気いっぱいだった。クリスマスプレゼントはもう買わない、と数年前から相棒と決めた。それよりも愉しい時間を一緒に過ごすこと。それが大切。クリスマスまであと10日間。こんな感じで街は賑わい続けるのだろう。

12月は夜が早くやって来る。それもあと少しで冬至を迎え、少しづつ日が長くなっていくのだ。それは冬の愉しみのひとつ。随分日が長くなったね、なんて言葉を交わすのが冬の愉しみのひとつと言ったらば、人は笑うかもしれないけれど。