暑い日
- 2023/06/27 21:22
- Category: bologna生活・習慣
近頃、夕方のバスが故障する。今日もまた、旧市街へと向かう連結バスが故障して、途中で乗客全員降ろされた。それも夕方の暑い時間帯に。どの顔も不機嫌で、しかし仕方がなかった。次のバスを待ったらよかったかもしれないけれど、恐らくひどく混みあうことが予想できたから、歩くことにした。なあに、降りようと思っていた停留所まであと4つだから、そのくらい歩こうと思って。果たして其の選択が良かったかどうかは分からない。歩くこと自体は問題なかったけれど何しろ蒸し暑くて、目的地に着いて落ち着いた途端、汗があとからあとから流れ出て、困った。こういうのを滝のような汗というに違いない。なんてそんなことを考える気持ちの余裕があったのが、救いだった。
こうも暑いと食欲が落ちるもので、夕食準備に力が全く入らない。今の仕事に就いたころの夏、もう18年も前のことになるけれど、近くの職場の感じの良い女性と話すのが好きだった、テレーザさんという、年上の女性で物腰が柔らかく、思慮深くて、親切な女性。彼女のことを悪く言う人なんてひとりもいなかった。ある日、暑くて暑くてどうしようもなかった午後、あなた今日の夕食はどうするの、と訊かれて絶句した。そんなこと、考えてもいなかったし、こんな暑い日に夕食の準備をするなんて恐ろしいと思ったからだ。それであなたはどうするの?と訊き返してみたら、トウモロコシを茹でると言う。え、トウモロコシってあのトウモロコシ? そう、あのトウモロコシよ、と言って彼女は笑った。大鍋に沢山の湯で何本もトウモロコシを茹でるのだと言う。トウモロコシの夕食だなんて、と大笑いする私に、美味しいのよと言って彼女も笑った。毎年暑い日は必ずあの日の彼女との会話を思い出す。それは多分とても愉しい記憶だから。そしてこれからも夏になると思い出すのだ。ところで彼女は随分と早く定年退職してしまった。若い頃から働いていたからだそうで、そしてもう充分貢献したと思ったからだそうだ。まだ元気なうちに仕事を止めて、自由な時間を愉しみたいと。新調したキャンピングカーで夫と旅をしたいと。今まで色んな人に出会ったけれど、彼女のような人はひとりもいない。穏やかで優しくて、話しているだけでほっとする人。笑顔にさせてくれる人。知り合えて本当に良かったと思った人。今頃何処にいるだろう。クロアチアの海辺りに行っているのかもしれない。
雨が降るの予報が出ていたのに降らなかった。と思ったら、晩になって遠くで大きな雷が鳴った。それを合図に雷が細く長く鳴り響き、21時を過ぎた頃に雨が降り出した。どれほど降るのか知らないけれど、南から涼しい風が吹くところを見ると、どうやら丘のほう、そしてアペニン山脈辺りでは纏まった雨が降っているらしい。開け放った家中の窓から窓へと風が流れて、嘘のように涼しくなった。こういう涼しさが必要だった。恵みの雨。そして地面や植物にとっても恵みの雨。