ボローニャ
- 2021/04/24 19:37
- Category: bologna生活・習慣
土曜日。背中の痛みと反比例して、空が青く高い。太陽の光がダンスしているように見えるのは、少し風が吹いているせい。テラスの前の大きな菩提樹の樹の枝がゆらゆら揺れる度に、木漏れ日が揺れ動く。其れを猫は捕まえようとして、私を大いに笑わせてくれた。朝から笑うのは良いことだ。良い一日になる兆候。それにしても私の背中はどうしてしまったのだろう。
今日は朝からクローゼットの中を整理した。冬物をクリーニングに持っていこうと思って。寒さが行ったり来たりしている。昨晩テレビのニュースで例年よりも気温が低い4月であると話していたが、その証拠が暖房の使用期間延長だった。例えばボローニャ。市の決まりで4月15日までと言われていた暖房使用が26日まで延びた。やはりいつもより気温が低い4月なのである。しかし流石に冬のコートは不要であろう。まずは厚手の真冬のコートを引っ張り出し、そして冬の終わり、春の始まりに活躍する薄手のコートを取り出した。暖かいストールも不要だろう。あれもこれも引っ張り出したら、随分な量になった。それらを抱えて近所のクリーニング屋さんに持ち込むと。どうやら今日はそんな客が多いらしく、持ち込まれたばかりの冬物の山が奥の方に見えた。忙しくなるわね、と言う私に、忙しくて有難いと女店主が笑う。そうだ、今は忙しいのが有難い世の中になった。けれども程々にと互いに相手を窘め合って、私は店を出た。
家に戻って黒いビニール袋を手に取りもう一度家を出た。路上に置かれたゴミ箱に捨てようと思って。イタリアは路上に並べられた市の大きなゴミ箱に毎日捨てることが出来るが、近年変化があり、私が暮らす界隈ではボローニャ市が発行した登録カードを持つ人だけがゴミを捨てることが出来る。私が暮らす界隈では、と敢えて言うのは、他の界隈へ行けば事情が異なり、昔ながらの大きな市のゴミ箱を誰もが開けて投げ込めたりするのだからだ。2年も前から始まったその新しいシステムがまだボローニャ市全体に浸透していないのが不思議ではあるが、恐らくそのうち何処でもそのシステムが使われるようになるのだろう。多分来年、多分再来年。此れは誰にも分からない。ところでこのシステムに代わって2年が経つというのに、私はこのカードを使ったことがない。理由は何時も相棒が、出掛けるついでにゴミを持っていくからだ。そういう訳で初めてカードを使ってのゴミ捨て。なあに、難しいことはない。カードの裏に付いているバーコードを、ゴミ箱に備え付けられている機械に翳せばいい。すると小さな蓋が開いて其処に袋を置いて後はくるりと中に入っていく仕組み。ほら、こんな風にね、とカードを翳したが蓋が開かない。あら、開かない。もう一度。もう一度。もしや機械が故障しているとか。もしやカードのバーコードが駄目になっているとか。諦めて帰ろうかと思っていたら、背後から大きな声がした。あなた、其処じゃなくてもう少し下の方にカードを翳さなくちゃ。振り向けば背後の建物の上階の窓から、昔は見事な金髪だったに違いない70歳を過ぎたくらいのシニョーラが、上半身を乗りだしていた。空が青いなあ、天気がいいなあ、春だなあなどとなどから外を眺めていたのだろう。そこにゴミを捨てられず困っている不器用な東洋人を階下に見つけ、黙っていられなかったのだろう。ボローニャでは時々こういうことがある。えー?此処ですかー? えー?もっと下の方―? 私も大きな声を張り上げてシニョーラに訊き返す。其処、そうそう、其処。もっとカードを近づけて! そんな風に教えて貰いながら、やっとゴミ捨て完了。踊らんばかりに喜ぶ私に上階のシニョーラも、私達のやり取りを見ていた通りすがりの人達も大いに喜び、今考えてみれば馬鹿馬鹿しくも情けない話であるが、実に愉快なことだった。親切な人はまだまだ沢山居る。世の中満更悪くない。
止めとけばいいのにあれも此れもしたので、背中の痛みが倍増した。こういう晩はオーブン料理にするといい。材料を切って突っ込んでおけば、後はオーブンがどうにかしてくれるから。其れに美味しい。だから私はオーブン料理が大好きだ。これに美味しいワインとパンがあればいい。無いのは大好きなフランスのチーズ、36か月寝かしたコンテ。此ればかりはボローニャで手に入らぬ。そろそろフランスに足を延ばす時期がやって来たのかもしれない、などと言ったらば、相棒は目をぐるぐるさせて呆れていたけれど。
高兄
背中の痛み、
大事に至らなければ良いのですが
どうぞ、お大事になさって下さい