il risotto alle 12.00
- 2018/03/25 20:24
- Category: 小旅行・大旅行
旅先で美味しいものを頂くのもひとつの楽しみで、ヴェネツィアへ行こうと決めた日からずっと案を練っていた。気軽に入ることが出来る店。地元の人が入るような店。少しくらい高くても美味しければ良し。しかし、さて、そんな店はあるだろうか。此れほど旅行者が多く詰めかける街に。ひとつ、ふたつと店の前で足を止めてみるが、どれも入ってみたい欲望に至らず、そうしているうちに魚市場に辿り着いた。此処には良く足を運ぶ。まだ正午前とあって、店も客もまばらながら存在した。朝早くに来ていれば、もっと活気のある様子を見ることが出来ただろうと思うと、少々残念ではあった。魚を買い求める人達は、これから家に帰って昼食の準備をするのだろうか。そんなことを思いながら市場を見て歩いた。
市場の前には小さなバール。そこは前に来た時に立ち寄って、カッフェのあまりの美味さにに脱帽した覚えがある。昼食後に立ち寄ろうと思いながら歩みを進めた。その先に小さな橋。そしてもう一つ小さな橋が並ぶように備えられているのに気がついて渡ってみた。この道にはいつか来たことがある。そう思ったとき、傍らに小さな店があるのに気が付いた。ガラス越しに中を覗いてみたら、食事処であることが分かった。11時半。中には既に客が数人いて、彼らはどうやらこの辺りに住んでいる人らしく、ワインの入った小さなコップを片手にカウンターの中に居る店の人と談笑していた。店内のガラスケースには惣菜が並んでいた。この町特有のキエッティというものらしい。ということは、此処はこの町特有の店であることが分かった。と、見つけたのが小さな紙きれ。il risotto alle 12.00。12時になれば出来立てのリゾットにありつけるらしい。リゾットは何人分もまとめて作る方が美味しく出来上がるので、レストランへ行くとリゾットは2名分から受け付けると注意書きがかかれていることが多い。恐らくこの店では大鍋でリゾットをまとめて作るのだろう。そして常連たちは12時をめがけて店にやって来るのかもしれない。これはいい。と思って私は店の扉を押した。リゾットは魚介の入ったものであること、12時まで出来上がらないこと、それならそれまでアペリティーヴォを楽しみながらリゾットが出来上がるのを待つことなどを店の人と手早く決めて、私は小さなテーブル席についた。軽めの冷えた白ワインとカラマーリの揚げ物。昼前からこんなことをしていることを日本に居る母や姉家族が知ったら、さぞかし驚くことだろうと思ったら、腹の底から笑いがこみ上げてきて、笑い声を抑えるのに苦労した。私の家族は面目なのだ。昼からワイン、しかも昼食の前に待ち切れずにつまみを食べながらワインを頂くなんて、考えたこともないだろう。カリカリに揚がったカラマーリが美味しくて、食欲を増長させた。美味しそうに食する私に、向こうに群がっていた地元人たちがワインの入ったコップをちょいと上げた。Saluti.健康に乾杯、ということか。彼らにつられて私もグラスを上げて挨拶した。そのうち12時になったのか、店の人がリゾットを運んできた。出来立ての熱々。米粒がピカピカで嬉しかった。そして私が長年イタリアに暮らして食べたリゾットの中で一番美味しかった。素晴らしいのは煮え方が丁度良いこと。これは当たり前なようでなかなかないことなのだ。煮え時間が足らず消化不要になるほど堅いリゾットもあれば、煮えすぎで歯ごたえがなく、がっかりなリゾットもある。その点、このリゾットは完璧。文句のつけようがなくて感激だった。テーブルの脇を通り掛った店の人が、どうだ、と訊く。完璧だ、文句のつけようがない、と答えると、あはは、と大きく笑った。向こうに居た地元の人達もリゾットにありついているらしく、全くだ、今日のも完璧だ、と大きな声で言った。ああ、美味しかった、また来るからと言って店を出た。これはまんざら嘘ではない。こんなに安くて美味しくて楽しい雰囲気の店に来ない手はないのだから。勿論、ここに辿り着ければの話だけれど。しかし魚市場まで来れれば大丈夫だろう。メニューを見ずに注文したから勘定がいくらになるか見当がつかなかった。訊けば16ユーロだった。何しろヴェネツィアなのだ。いくら要求されても驚きはしないが、まさかたったの16ユーロとはねえ。ワインをグラスに2杯。揚げたカラマーリ、リゾット。席代は要求されず。確かにこれなら地元の人達が通うだろう。私が近所で働いていたら、近所に住んでいたら、常連客になっていること間違いなしだ。その足で魚市場の前のバールでカッフェを頂くと、昼食が完了。ヴェネツィアには旅行者に高額を求めるような悪徳レストランやカフェが沢山あると聞く。事実そういう不運に遭遇して、痛い目にあった人も多くいる。幸運なことに私はまだそうした店に遭遇したことがない。何処も感じが良くて美味しくて、良心的な値段を今も保ち続けるような店もある。店に入る側が、目を見開いて店の良しあしを吟味できるようにならねばならないと思う。それは多分ヴェネツィアばかりでなく、何処の街に居ても同様なのかもしれない。
散策を終えて駅へと続く道を歩いていたら、かっこいい若いお嬢さん発見。背後の建物と抜群の相性で、素早く写真を撮った。後に写真を見て気が付いた。背後の壁の色はボローニャ色。なんだ、ヴェネツィアまで行ってボローニャ色なのか、と笑った。日常からの脱出、異なる色を求めてヴェネツィアへ行ったが、案外、好きなのはこんなボローニャの色なのかもしれない。
micio
写真を見て何故だか一瞬「アラブっぽい」と思ったのは、窓の面格子(というのでしょうか)の蔓の模様のせいかもしれないですね。
私がヴェネツィアで夢中になったのはイワシでした。
どこへ行ってもそればかり食べてしまいまして。