バール仲間
- 2010/12/27 19:20
- Category: 友達・人間関係
クリスマスとサント・ステファノの祝日が終わり、生活が平常に戻った。と言っても全く正常な筈は無く、いつもの月曜日とはちょっと違う。多くの人が冬の休暇中の、のんびりとした月曜日。外を走る車は少ない。近所の家の雨戸が閉まったままのところを見ると、何処かへ旅行中か、それとも親戚家族の居る故郷に戻っているのだろう。いつもなら纏まった休みには何処かへ行きたくて堪らない私であるが、この冬に関しては少し前からボローニャに居ることに腹を決めていたので、今更じたばたすることは無い。勿論2年前のブダペストの冬を思い出したりするとちょっと心が揺らぐけど、そんな時は、まあいいさ、来冬があるさと、言葉にして自分に言い聞かせる。昨日の、空一面を覆っていた濃い鼠色の分厚い雲からしきりに落ちてきた雪交じりの雨が夢だったみたいに晴れ上がった今日は、窓から差し込む日差しが目に痛いくらいだ。うん、昨晩は本当に嫌な天気だった。それで気分転換にと、急に思い立ってボローニャへ行った。ピアノーロからボローニャ市内への僅か20分ほどの夜のドライブ、そして相棒がいつも行くバールが最終目的地だった。このバールは、実を言えば私の趣味に反する。何しろいつも混み合っていいるのだ。ただ、ボローニャ旧市街とピアノーロを直線で結んだ途中にある為に、相棒と待ち合わせするに都合が良い。それで時々行くうちにバールで働く若者達や、店内にある煙草屋の主、そして此処に通う人達と顔見知りになって、知らないうちに自分の趣味とは関係なく足を運ぶようになった。バールには4人の女性と1人の男性がシフトを組んで働いていて、だから何時行っても違う組み合わせで面白い。彼らは人気者で、その大きな理由は明るくて元気な性格らしい。オーナーは時々顔を出すが存在感は薄く、この5人が切り盛りしているといっても良かった。昨晩はフルーツカクテルを注文した。そうしているうちに、人混みの中にSilvano を見つけた。彼はもう直ぐ60歳のおじさんで、髪の毛も顎に貯えた髭も真っ白で、年齢にしては嫌に肌の色艶が良くて、何時見てもきちんとした身なりをしている紳士という言葉が良く似合う人だ。Silvano はこの界隈に生まれて育ち今に至っているので、店に来る誰とも知り合いらしい。彼と立ち話をしていると、老いも若きも誰もがCiao Silvano! と声を掛けていく。なにやら硬い仕事をしているらしく、糊の利いたワイシャツにきりりとネクタイを締め、磨きぬかれた革の靴を履いている。額には深いしわが幾本も刻み込まれているので、初めて彼を見たときは厳めしい難しいおじさんだと思ったが、相棒は彼と仲が良いらしく会う度に長話をするので耳をそばだてて聞いていたら、見掛けに寄らず楽しい話をする。何処にでも居る普通のおじさんで、私はほっと胸をなでおろした。そのうち私も一緒に話をするようになると、だんだん彼という人が分かってきた。家族思いの働き者で、人の話の良い聞き手で、決して人の悪口を言わない。成る程、それだから皆が彼に声を掛けていくのだろう。ただ単に彼を知っているからではなくて、皆彼を好きなのだろう。人混みの中の彼に声をかけたら、彼は笑みを湛えながら手を振り、シニョーラ、祝日の晩に会えるとは光栄ですが、こんな晩はこんなバールではなくて気の利いたレストランに連れて行って貰わなくてはいけませんよ、と言ったので、そこに居る誰もがわっと笑った。バールで働く若者達も、カウンターで食前酒を飲む知ってる人も知らない人も、この辺りに住む常連の若い子達も。こんな肩の張らないバールだから、この店は繁盛するのかもしれない。皆で笑うって気分がいい。ちょっと良いサント・ステファノの晩になった。
micio
あ、ところで、スペインの人(というより、アンダルシアの人。というより、私の知り合いの人。)は、大真面目な顔(やや強面)でブラックジョークを言う人が多いです。