土曜日の早起き
- 2023/06/24 16:54
- Category: bologna生活・習慣
昨日の午後の雨は大したことがなかったと思っていたら、ボローニャ市内のほかの界隈では案外まとまった雨が降ったらしい。例えば私が暮らす界隈、そしてもう少し南の丘の辺り。夜中のうちに気温が下がって、目を覚ましたら涼しい爽やかな朝が待っていた。檸檬色のような朝。しかしそれも朝のうちで、そのうち暑くなるだろうからと、もう少し眠っていたい我の背を押してベッドから抜け出した。私の土曜日にしてはなかなかの早起きだった。
最寄りのバスの停留所へ行ったら、歳の頃は80を過ぎたに違いない老女が停留所のベンチに腰を下ろした。疲れている様子だった。向こうのほうからバスが来るのを発見した私は、バスが来たことを老女に告げた。すると彼女は人差し指を左右に小さく振って、ありがとう、でも乗らないのよ、と言った。ふーん、なんて表情をしたに違いない私に、彼女は付け加えた。休憩したいだけなのよ、沢山歩いたから。そしてもうすぐここに息子が車で迎えに来てくれる。そう言って嬉しそうに笑った。到着したバスに乗り込む前に彼女のほうを振り返えると、良い一日を、そう言いながら彼女は私に手を振った。イタリアの良いところはこういうところだ。見知らぬ人とも会話が成り立ち、そして気持ちの良い挨拶を交わすことが出来ること。イタリアに来て良かったと思うのは、こんな事があった時だ。知らない人にも良い一日をなんて言えるところ。言って貰ったほうはどれほど嬉しいか、イタリアに来てから知った。
バスは空いていて、そして旧市街も空いていた。時間帯が早いからだけではあるまい。こんな気持ちの良い週末は、海や山へ繰り出す人が多いから。海にも山にもいかぬ私はこうして旧市街に足を運ぶのだけど、こんなに風通しの良い旧市街は海や山へ行くのと同じくらい素敵。まずはいつものバールへ。朝食時間には遅く、昼食時間にはまだ全然早いこの時間だから空いていた。カップチーノといつもの大好きな菓子を注文した。それを見ていた青年が、その菓子は美味しいのかと訊くので、勿論、とても美味しいと教えたら、その様子を見ていた店主が、シニョーラは毎週土曜日の午前にこれを必ず注文する、と言うので、ちょっと照れた。毎週土曜日の午前にだなんて。確かにその通りだけれど。同じものを注文した青年は、齧り付くなり私のほうに、うーん、美味しいと手で合図を送った。実にイタリアらしい。イタリア人とはちょっとしたことなら手振りで会話が成立するのだ。
本屋に入ったり、店先を眺めたり。そして最後に食料品市場界隈へ。今日はメロンが欲しい。美味しい、甘くて丁度よく熟れた小振りのメロン。相棒とふたりで一度に食べ切るのに丁度良い大きさの。久しぶりに食料品市場を歩いて驚いたのは、顔触れがかなり変わったことだ。何時も居たあのアルベルトさんの姿はなく、その代わりに甥っ子ともう一人青年が切り盛りしていたり、廃業して寂しげだった店が新装開店したり。私はその中で一番歳をとっている店主の店に行った。美味しそうなメロンがあったからである。今年初めてのメロンだから、美味しいのを選んでね、今夜食べるのに丁度良いのを、と注文すると店主は此れだよ、と取り上げて匂いを嗅ぎ、そして私の鼻先にメロンを近づけた。それはそれは甘い匂いで、うん、と頷く私に店主も満足気に頷いた。ついでにトロペア産の玉葱をふたつ。他にも買いたいものはあったけど、近頃重い買い物袋を持って歩くのが苦手になったから、此のくらいにしておくのが正解なのだ。なかなか良心的価格の店だった。近いうちにまた立ち寄ることにしよう。
あと一週間で6月が終わるなんて驚きである。どうりで暑いわけである。そろそろサンダル姿登場。モカシンシューズを愛する私とて、こうも気温が上がってはサンダルに浮気もしたくなる。何時でも履けるように箱から出して靴のクローゼットの中に並べた。多分月曜日から。多分火曜日から。