岩波新書でスウェーデンをモデルに社会保障と雇用の問題を論じた本というと、ある種の既視感があって「もうその手の本は十分」と思う人もいるかもしれません。
けれども、この本は読む価値のある本。北欧の福祉社会のモデルと日本の福祉の立て直しを論じながら、その限界と難しさもきちんと認識しています。
著者は雇用と社会保障を結びつける言葉として「生活保障」という、あまり使われない用語を用います。
現在の日本では、正規雇用と非正規雇用の格差をはじめとして社会にさまざまな格差が生じ、社会に亀裂が生じています。
この社会の亀裂を修復するために著者が提唱するのが、雇用と社会保障を組み合わせる「生活保障」の考えで、具体的には社会保障の目的を就労の促進とする「アクティベーション」の考えが打ち出されています。
ただ、たんにアクティベーションのよさが打ち出されているだけでなく、第4章ではすべての人に一定の所得を無条件に保障しようとするベーシック・インカムとの比較もなされています。
ベーシック・インカムの方法や実現可能生に関しても検討がなされており、ベーシックインカムに興味がある人にも役立つでしょう。
そして、そのアクティベーションのモデルとしてスウェーデンがとり上げられているのですが、スウェーデン・モデルのよさだけでなく、その問題点までが射程に入っているのがこの本のいい所。
例えば、スウェーデンでは生産性の低い職場から生産性の高い職場へと人びとを移動させることで雇用を守り、成長を達成してきましたが、それが限界に来ていると指摘した次の部分。
これを読むと、スウェーデンモデルを導入しても、グローバル経済の中では完全な問題解決にはならず、さらに試行錯誤が必要だということがわかります。
また、公的部門への信頼の低さが、改革の最大の障害だと率直に指摘しているところもいいと思います。
日本では94%の人が天気予報を信用している一方で、政治家と官僚に対しては80%の人が信用していません(19pのグラフより)。
この本で紹介されている次の現象には、それが端的に現われていますね。
このように改めて日本の社会お保障の立て直しの難しさを感じさせる本でもありますが、それでもなお、日本の進むべき道の一つを示している本と言えるでしょう。
生活保障 排除しない社会へ (岩波新書 新赤版 1216)

けれども、この本は読む価値のある本。北欧の福祉社会のモデルと日本の福祉の立て直しを論じながら、その限界と難しさもきちんと認識しています。
著者は雇用と社会保障を結びつける言葉として「生活保障」という、あまり使われない用語を用います。
現在の日本では、正規雇用と非正規雇用の格差をはじめとして社会にさまざまな格差が生じ、社会に亀裂が生じています。
この社会の亀裂を修復するために著者が提唱するのが、雇用と社会保障を組み合わせる「生活保障」の考えで、具体的には社会保障の目的を就労の促進とする「アクティベーション」の考えが打ち出されています。
ただ、たんにアクティベーションのよさが打ち出されているだけでなく、第4章ではすべての人に一定の所得を無条件に保障しようとするベーシック・インカムとの比較もなされています。
ベーシック・インカムの方法や実現可能生に関しても検討がなされており、ベーシックインカムに興味がある人にも役立つでしょう。
そして、そのアクティベーションのモデルとしてスウェーデンがとり上げられているのですが、スウェーデン・モデルのよさだけでなく、その問題点までが射程に入っているのがこの本のいい所。
例えば、スウェーデンでは生産性の低い職場から生産性の高い職場へと人びとを移動させることで雇用を守り、成長を達成してきましたが、それが限界に来ていると指摘した次の部分。
レーンーメイナード・モデルが目指したのは、職業訓練によって生産性が低い企業から高い企業へ、人を動かしながら完全雇用を実現することであった。ところが、積極的労働政策を軸とした雇用保障には、大きなジレンマがあった。生産性の高い企業では、技術革新と脱工業化がすすむにしたがい、一部の高度な管理的、専門技術的な労働を除けば、全体として省力化がすすみ、しだいに労働力を吸収しなくなる。労働生産性は上昇しGDP成長率が向上しても「雇用なき成長」になってしまうのである。(107p)
これを読むと、スウェーデンモデルを導入しても、グローバル経済の中では完全な問題解決にはならず、さらに試行錯誤が必要だということがわかります。
また、公的部門への信頼の低さが、改革の最大の障害だと率直に指摘しているところもいいと思います。
日本では94%の人が天気予報を信用している一方で、政治家と官僚に対しては80%の人が信用していません(19pのグラフより)。
この本で紹介されている次の現象には、それが端的に現われていますね。
職業訓練期間中の所得保障の必要については広い合意がある。ところが民主党政権は、自公政権のもとでの「訓練・生活支援給付」関連予算が、厚生労働省のOBが役員をつとめる中央職業能力開発協会へ支出されていることから、この予算を半減させた(187p)
このように改めて日本の社会お保障の立て直しの難しさを感じさせる本でもありますが、それでもなお、日本の進むべき道の一つを示している本と言えるでしょう。
生活保障 排除しない社会へ (岩波新書 新赤版 1216)
